第6話 ロッティーとカラスのおばさん

「どうだ、きれいだろう?」

一本の大きな木の上に、

きれいなビーズやキラキラ光る色ガラスが、

クリスマスツリーのオーナメントように飾られています。


「まあ! とってもステキだわ」

「女の子はこんなのが好きだと思ってなぁー」

ロッティーの住んでいる、ムーンライトの森には、

こんなにきれいに飾られた木はありません。

キラキラ光る色ガラスが、ロッティーは欲しくなりました。


「あのきれいな色ガラスが欲しいなぁ……」

思わずつぶやいたロッティーの声を、チャムは聴きのがしません。

「たくさんあるんだから、一つくらい持っていってもバレないさ」

「ダメ、ダメ!」

ロッティーは断りました。

「誰も見てないじゃないか」

「あたしは人のものを盗ったりしないわ!」

そういって、その場を立ち去ろうとするロッティー。

すると、チャムは木によじ登って色ガラスを盗みました。


「やるよ! これ」

ロッティーに色ガラスのカケラを渡そうとします。

「ダメ! いらない」

「盗ったのは、俺さまだから持っていけよ」

「盗ったものなんかいらない!」

ふたりは言い争って、もみ合いになりました。


そこへ、空から大きな黒いツバサが飛んできて、

ふたりを目がけて襲ってきたのです。


「痛たたぁー」

「きゃあー、やめてぇー」

ロッティーもチャムもクチバシでつつかれて、

逃げ回って、散々な目に合いました。


――黒いツバサの正体は一羽のカラスでした。


「おまえら、あたいの大事な色ガラスを盗もうとしたね!」

キッと怒った顔でカラスがにらんでいます。


ムーンウインドの森に住む、カラスのおばさんは、

キラキラ光るきれいなものを集めるのが大好き。

遠くの町から、せっせっと運んできては、

巣のある大きな木の枝に飾っているのです。


「俺じゃあない! 盗んだのはこいつだぁー」

そういって、チャムはロッティーを指さして、

そのまま逃げて行きました。

「そ、そんなぁー」

「おまえが犯人かい?」

カラスのおばさんは、ものすごく怒って、

カァーカァーと大声で鳴きました。

またしてもドロボウにされたロッティーは泣きそうです。


「ち、違います! お返しします。わたしが盗ったんじゃありません」

ロッティーは必死でした。

そんな様子を、カラスのおばさんはジーと見ていて……。

「おまえは犯人ではないようだ」

「ええ、違います」

「うん。おまえは正直者の目をしているからね」

カラスのおばさんがニッコリ笑いました。


「どうせ、チャムがやったことだろう。この森で一番のウソつきだよ」

「じゃあ、この森の王様っていうのはウソなんですか?」

「あのチャムがかい?」

カァーカァーとカラスのおばさんが笑いました。

「この森には王様なんかいないさ」

「そうですか」

「チャムは、赤ちゃんの時にお母さんが死んでしまって……」

「まあ……」

「ひとりぼっちで寂しいから、ウソをつくのかもしれない」

カラスのおばさんがしんみりした顔で言った。

お母さんがいなくて、ひとりぼっちのチャムのことが、

かわいそうだとロッティーは思いました。


「おまえは正直だから、うたがうことを知らない」

「はい……」

「だから、だまされるんだよ」

「……そうです」

すっかりロッティーはしょげてしまいました。

「ウソつきよりも、正直者の方が心はきれいだよ」

「えっ?」

「キラキラ光るきれいなものが好き! だからおまえの心も好きだよ」 

黒いツバサで、ロッティーをやさしく包みました。


「これは、おまえにあげるよ」

「えっ! ホントにもらってもいいんですか?」

「あたいはウソをつかないさ」

「ありがとう! カラスのおばさん」

太陽にあてると、

透明な光をとおして、色ガラスがキラキラ輝いています。

ちょっぴり、うれしくなりました。


ロッティーはカラスのおばさんにもらった、

キラキラ光る色ガラスをお土産にすることができました。

分かってくれた、カラスのおばさんに「さよなら」をして、

今度こそ、真っすぐお母さんの元へ帰ろうと思っています。

なにがあっても……もう人の話に耳をかさない!

ロッティーはそう決心しました。


ムーンウインドの森の出口に近づくと、

なにやら大声で言い争う声がきこえてきます。

けれども、ロッティーはきこえないふりをして、

目をつぶって、足早に通り過ぎようとしました。

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