第5話 にんじん畑のロッティー

――そこは見わたすかぎりの、にんじん畑です。

赤く実った、にんじんが地面からニョキニョキとはえています。


「どうだ、うまそうなにんじんだろう?」

チャムが自慢気に言いました。

「赤くておいしいそう!」

「腹がへっているなら食べていいぞ」

「ホント?」

「えんりょするな」

「王様ありがとう!」


そういわれて、ロッティーは畑からにんじんを引っこ抜いて、

四、五本食べたら、お腹がいっぱいになりました。


「もう食べないのか、えんりょするな!」

「もっと、もらってもいいの?」

「もっともっと欲しいだけもっていけっ!」

「わーい」


ムーンライトの森で帰りを待っている、

お母さんのおみやげにしようと、

ロッティーは、にんじんをどんどん引っこ抜いて、

リュックいっぱい詰め込みました。


「こらー!」


大きな声で怒鳴られて、おどろいて振り返ると、

クワをもった野うさぎがにらみつけています。


「にんじんドロボウめ!」

「ええー! ドロボウ?」

ロッティーはドロボウ呼ばわりされて、びっくりしました。


「わしの畑のにんじんをいっぱい盗みおって!」

野うさぎはクワをふり回して、ものすごく怒っています。

「だ、だってぇー、王様が食べてもいいって……」

「王様?」

「はい、王様が欲しいだけもっていけと……」

「ウソをつくな! なんて悪い子だ」

「そんな……」

ロッティーは野ウサギの農夫に怒られて、

どうしてよいか、オロオロして困ってしまいました。


「王様! 王様ー!」

いくら呼んでも、どこにも見当たりません。

どうやらチャムはひとりで逃げてしまったようです。


そして……

ロッティーは罰として、野うさぎの畑を手伝うことに、

草むしりと水くみを百回やらされて、もうヘトヘトです。

それで、なんとか野うさぎの農夫に、

『にんじんドロボウの罪』を許してもらいました。


――それにしても、王様さえいてくれたら、

あたしが、にんじんを盗んだんじゃないって、

分かってもらえるはずなのに……。


悔しくて、ロッティーは涙がこぼれました。


「クックックッ……」

変な笑い声が聴こえてきました。


大きな木の陰から、ひょっこりとチャムが

顔をのぞかしています。


「あー!」

思わず、大声で叫びました。

「王様のせいで、あたしがドロボウにされたじゃないの」

チャムの顔を見たとたん、ロッティーは腹が立ってきました。


「なんで、俺さまのせいなんだよ?」

「だってぇー、にんじん食べてもいいっていうから食べたのに……」

「食べてもいいって言ったけど……俺さまの畑だとは言ってないぞ」

「えぇー?」

「おまえが畑の持ち主をきかないで、かってに食べたのが悪いんだ」

「……そんな」

たしかに、ロッティーはお腹が空いていたので、

ここをチャムの畑だと思いこんで、食べてもいいと言われて、

ガツガツにんじんを食べてしまったのです。


「しかも食べただけじゃなくて、リュックにまで詰めただろう」

「ええ、そうよ」

「欲ばるから、あんなに野うさぎが怒ったんだ」

「欲ばる……」

ロッティーはお母さんとの約束を思い出した。


欲ばらない……。

ロッティーは欲ばって、ひどい目にあったのです。

欲ばった自分も、悪かったと反省しました。


――こんな森にいるのは、もうたくさん!

ムーンライトの森にすぐに帰ろうと思いました。


「じゃあ王様、さようなら!」

さっさっと帰り始めました。

「おい! ちょっと待てよ」

ロッティーの腕をチャムがつかみます。

「なぁに?」

「おまえに、きれいなものを見せてやるぞ!」

「きれいなものって?」

「いいから、ついてこいよ」

腕をつかんだまま、無理やりロッティーを

引っぱっていこうとチャムがします。


「痛いわ、はなしてよぉー」

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