第4話 ロッティーと『知らない森』の王様
――ロッティーは荒れ地をぬけて。
やっと『知らない森』の入口にたどりついた。
遠くから、あこがれていた『知らない森』は、
どんな所だろうかと、胸がわくわくします。
ロッティーは、どんどん中に入って行きました。
だけど見えくる風景は……
はえている草や木も、咲いている花も、
ムーンライトの森とあまり変わりません。
きっと『知らない森』には、ふしぎな木や花が、
いっぱい咲いているんだと思っていたのに、
普通の森だったので、ロッティーはがっかり……。
ああ、こんな森だったんだぁー。
そうと分かったら、ロッティーは急にお腹が空きました。
今日は本当にたくさん歩きましたから――。
木の株に腰かけて、ロッティーは、
背負っていた、リュックを開けました。
中には、香りのよい真っ赤なりんごが三、四個入っています。
お母さんが『知らない森』に行くロッティーのために、
持たせてくれたものです。
りんごを食べたら、お母さんの待つムーンライトの森へ
早く帰ろうと思いました。
お母さんのことを思うとロッティーは、
ちょっぴり切なくなりました。
りんごの味も甘酸っぱくて……。
「おまえは何者だ!」
いきなり背中から、声が聴こえてきました。
びっくりして、振り向いたロッティー。
一匹のくまの男の子が立っていました。
「あらっ! こんにちは」
「おまえはどこからきた?」
ずいぶん偉そうに、くまの男の子がロッティーに質問します。
「あたしはロッティー。ムーンライトの森からきたのよ」
「ムーンライトの森? ああ、荒れ地の向こうの『知らない森』のことか?」
「知らない森ですって?」
ロッティーの住んでいるムーンライトの森はこちらでは、
どうやら『知らない森』と呼ばれているようです。
「じゃあ、ここの森はなんて名前なの?」
「ムーンウインドの森さ。きれいな名前だろう」
「ええ、そうね。あなたの名前は?」
「俺さまか?」
ロッティーに名前を聞かれて、くまの男の子はニヤリと笑いました。
「俺さまは、ムーンウインドの森の王様チャムだぞ!」
「ええーっ! 王様?」
くまの男の子は、ボール紙に金色の折り紙をはりつけて作った。
おもちゃの王冠をかぶっています。
とても王様には見えませんが……
だけど今までだまされたことがないロッティーは、
すっかり王様だと信じてしまいました。
「まあ! 王様だなんてすごい」
「えっへん!」
チャムは偉そうに咳ばらいをします。
「ところで、王様にみつぎ物を持ってきたんだろうな?」
「えっ、みつぎ物?」
「王様へのプレゼントの品だ」
「あのう、りんごをどうぞ」
ロッティーは、チャムに差しだしました。
「なんだ? りんごか、しけてるなぁー」
文句を言いながらも、
りんごをあっという間に食べてしまいました。
「もっと、みつぎ物は持ってないのか?」
ロッティーのリュックの中をのぞきこんでいます。
「りんご……もう、ひとつ、どうぞぉー」
「うんうん」
そして、チャムはロッティーのりんごを、
かってに全部食べてしまいました。
「あぁーうまかった!」
王様チャムはとても満足そうでした。
ロッティーは食料のりんごを食べられてしまって、
これからムーンライトの森に帰りたいのに……。
お腹がペコペコで動けません。
「あたしのりんごが……」
空っぽのリュックを見て、泣きべそをかきました。
「ん? おまえは腹がへっていたのか?」
「はい、王様……」
もうしわけなさそうな顔でチャムは、
ロッティーを見ていましたが……
「そうだっ! 俺さまにまかせろ!」
ふいに、手を打って大声で叫びました。
そして、ロッティーの手をらんぼうに引っ張ると、
ムーンウインド森の奥へつれて行きました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます