第9話 回想

〜 数ヶ月前 男入部当初 〜


部長「そんでよー、そこでこのキャラがこういう武器を持って……」ワイワイ

取り巻き「ぎゃははは! それ超新しい! ゼッテー売れるって!」ガヤガヤ

部長「だしょだしょー? いやー、こんなこと思い付いちゃう才能が怖いわー!」ワイワイ

取り巻き「マジでマジで。教科書とかに載っちゃうんじゃねーのー?」ガヤガヤ

部長「そりゃ大げさすぎんだろー! ぎゃははははは!」ワイワイガヤガヤ


女先輩「(……うるさいなあ。というか、一作も書き上げないで才能がどうたらとか、片腹が痛いにも程があるだろう…)」カリカリ

女先輩「(やれやれ、アレが部長になってから毎日こうだ…潮時かな。別に部活なんかじゃなくても小説は書けるし、本は読める)」

女先輩「(先代部長に憧れて入部していたけれど、彼女も引退してしまったし、別に部に心残りがあるわけでも…ん?)」

男「…………」ペラ

女先輩「…………」

男「……。あの、何スか」

女先輩「え? あ、いや、何を読んでいるのかなーって」

男「はあ。えーっと、梨木香歩先生の『西の魔女が死んだ』という本です」

女先輩「へえ……ん、ひょっとしてこの本、児童書かい?」

男「ええ、まあ」

女先輩「ふうん。ああいや、別に児童書を軽んじたとかそういう訳じゃないんだ。なんか、すげー真剣に読んでいたからさ」

男「いや、面白いんですよ。全体を通して包み込むような優しい雰囲気なんですけれど、含蓄のある教訓が記されていたり、時折杭を打ち込まれるみたいに心に突き刺さる言葉があって。読んでいくにつれて、どんどんこの情景が広がっていくような__」

部長「おい一年! うるせーぞ、本くらい静かに読め!」

男「あ、はい……すいません」

部長「ふん。……女ちゃんもそんな奴に構ってないで、執筆に集中していいんだぜ? なんなら俺と合作とか!」

女先輩「…………」




男「……すいません、お邪魔しちゃいましたかね」ヒソヒソ

女先輩「いや、もっと聞きたいと思ったよ。……あの、良ければ連絡先を交換してくれないか? 今夜あたり、電話で続きを聞かせてくれ」ヒソヒソ

男「へ? は、はあ……」ヒソヒソ

女先輩「私は女という。これからよろしくね」

男「あ、俺は男です。こちらこそよろしくお願いします、先輩」

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