第5話 市街

絵里華。長髪のポニーテールで19歳の人間の女子。とある夜族の使用人であり、戦闘能力も高い。スカートの内側に数千本の長い針を仕込み、我流の武術を使用する。また、左耳のイヤリングは自らの寿命と引き換えに自分以外の時を止める魔道具である。


「へえ・・・魔界ったって人界と変わらないこともあるんだな」

「まあアタシらを見る目がもちろん違うってだけで魔界にも街があるのねえ・・・」

エリカの案内により三人は夜族の集落にあえて立ち入った。人界でいうところのスラム街のような雰囲気で、夜族の殺意が渦巻くなかを堂々と散策中である。

「この辺の夜族は身の程をわきまえた者が多いの。隙さえ見せなければリーダー格の夜族にケツでも蹴飛ばされない限り襲ってくることはないわ」

淡々と語り歩くエリカのあとを列をなして付いていく戒流とフィーア。

「エリカ、どこに向かってるの?」

フィーアの問いにエリカはさらっと答えた。

「情報を集めがてらこれからの旅の準備なんかをしようと思って商店街に向かっているわ」

「魔界にも商人がいるのかよっ!」

思わず戒流が突っ込んだ。

「着いたわ」

エリカが歩みを止めた先には血文字で書かれたような看板を出している酒場のようなところだった。

「そういえばお腹すいたわね。アタシらの口に合う料理もあるのかしら、なーんてね」

「お前も気楽だな・・・夜族の世界にそんなもんあるわけ・・・」

「普通にあるわよ?」

『あるんかい!』

今度は二人で突っ込んだ。

酒場の中に入るとカウンターごしに料理をしているコックの一人が人間だった。

「人間が何でここに!?」

フィーアが入店早々に指をさして声をあげる。

「いやぁ・・・五年前に夜族に拉致されまして・・・ぼくも最初は殺されると思ったんですがね、たまたま持っていた手作りの菓子を食べてもらったところ気に入ってもらえたようで、店と食材を用意されて物々交換の酒場をやらせてもらってます、はい」

あっけにとられた戒流とフィーアはしばし現実逃避に陥った。

「なあフィーア、人間と夜族って小さなきっかけで仲良くできるんだな」

「ええ戒流、平和って素敵よね」

そんな二人をよそめにエリカはコックに尋ねる。

「久しぶりね。地下道のゲートはまだ使えるかしら?」

「エリカさん、戻っていらしたんですか!ええ、その・・・使えるとは思いますが今日は『紅い月の夜』ですから狂気が下の階層の夜族たちを刺激していて何が起きるかわかりません」

「ゲート?」

「階層?」

何がなんやらといった戒流とフィーア。エリカはそれを察し説明する時間をとることにした。

「とりあえず軽食と飲み物をお願い。二人とも、もしはぐれたときを想定して私の知る範囲で魔界について説明するわ」

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