第4話 白く彩られた季節
その日もまた、俺は例のごとく化学実験室に来ていた。
視界の端で僅かに窓辺から見える色は全体的に暗色であり、その中にちらちらと混ざる雪が、暖かい部屋にいる俺の体に寒さを思い出させる。
「…………。終わりました!先生どうですか!?」
「んー、前回と比べてもあまりタイムに違いはありませんね。レポートの内容はまた精査しますが、数値はニアといったところでしょうか。」
俺は先月の終わり頃から千代さんが行っていた実験を、ただの傍観者ではなく当事者として実際に行うようになったのだ。
俺がこうして毎日放課後にここで実験を行っている理由は、いたってシンプルで、それでいて自身にとってはとてつもなく大きな感情を自覚したから。
あの日、県のコンテストを2位通過した彼女は無事全国大会へ駒を進めた。しかし、その全国大会では入賞することも叶わなかった。
彼女から直接結果報告を受けた俺は、なにも言えずただただ事実を直面出来ずに呆然としてしまった。あの真剣な眼差しも、朗らかな笑顔もなく、全国大会に行けただけでも満足だと優しく微笑む彼女を見て、無性に悲しくなっていたから。
今までの人生で、自らの感情を正しく理解できなかった自分が。初めて心の在り方を認識した。
ただ、これは決してリベンジとか代わりに夢を叶えようとか、そういうことではない。
こんなにも想ってしまう彼女の心を知りたい。同じステージに立ちたい。そして、今までのような傍観者ではなく当事者として、自らの力で自分という存在を掴みたいと、そう思ったから。
千代さんは今、都心の理系大学へ進学する為に学校、塾、家と勉強漬けの毎日を送っている。
受験を間近に控え忙しくする彼女へはなかなか会うことも叶わず、時々交わされるメールだけがほとんど唯一の対話の機会だ。
そして、高校卒業した後も千代さんに会う機会を増やすには、まずは同じ大学へ入学する必用がある。難関大学を志望する彼女と同じ大学へ通うためには日頃の勉強が大切だが、この化学コンテストにも大きな意味がある。
学力にいささか不安を感じる俺にとって重要な事は学校の推薦をもらうこと。もちろん難関ゆえに毎年学校の推薦を望むものは多い。しかし、コンテストの全国大会で結果を残せれば大きなアドバンテージを得ることが出来る。
彼女の心を知るため、彼女と同じ景色を観るために、俺はこの大会で必ず全国大会で優勝をする!
そして、胸を張って再び彼女のもとへいくのだ。
俺の憧れる千代さんのもとへ。
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