第9話

「なっ……て、テメェは!?」


 俺の姿を見て、以前体育の授業で絡んできた連中が目を見開いていた。

 そんなクソガキどもを無視し、俺は椅子に縛られている一条と、ボロボロになっている倉田を見た。


「……おい、安。とりあえず、クソガキどもを黙らせろ」

「了解っす!」


 俺の言葉に丸坊主の男……安田健治は応えた。

 そしてその場から走り出すと、間抜け面を晒してる連中を蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされたガキどもは、お仲間を何人も巻き込んで壁に突っ込んだ。


「は……はあ!? な、なんなんだよ、コイツら……!」

「いやー、テメェらもアホっスねぇ。よりにもよって、若の学友に手出すなんて……」

「くっ……て、テメェら! とっととやっちまえ!」


 金髪ピアス野郎の言葉に正気に返ったガキどもは、一斉に安めがけて襲い掛かるが、何の障害にもならない。


「これ、本当に不良っスか? 温いっすねぇ」

「な、なんだと!?」

「驚き方もワンパターンで面白みがないんすよ。失せろ」

「げへぁあ!?」


 とうとうたった一人になった金髪ピアス野郎の顔面に、安は蹴りを叩き込んだ。


「若~、終わったっスよ~」

「おい、安。一分も時間かけてんじゃねぇ。こんなのは三十秒で終わらせねぇか」

「いや、源さん!? 俺そこまで人間やめてないっスよ!?」

「ああ? 鍛え方が足りねぇな。帰ったら覚悟しとけ」

「り、理不尽だ……」


 源三の言う通りだな。

 本当なら十秒って言いてぇが、今はいい。


「おう、源三、安。こいつら縄でまとめとけ」

「うっす」

「畏まりました」


 俺がそう指示を出すと、二人はすぐにガキどもをロープで縛りあげ始めた。

 それを見届けながら俺は一条に近づく。


「あ、アンタ……」

「……すまねぇな。怖い思いをさせちまった」

「え?」


 俺の言葉に一条は目を見開く。


「……倉田の野郎も、根性見せるじゃねぇか」


 ふと視線を倉田に向けると、どうやら体が限界だったらしく、気を失っていた。


「あ……く、倉田は大丈夫なの!?」

「今は気を失ってるだけだ。すぐに病院に連れてく。さて……ここからは俺が全部引き受けよう」


 そう言って、俺は一条を縛っていたロープを引き千切った。


「うぇえええ!? ろ、ロープ引き千切るって……どんな腕力してんのよ!?」

「あ? これくらい普通だろ?」

「普通じゃない!」


 そうなのか?

 ウチの組じゃあ、こんなの朝飯前だが……。

 そんな風に思っていると、源三が轢き飛ばした野郎がうめき声をあげた。


「う……うぅ……い、一体……何が……」

「おう、俺のダチが世話になったな」

「な!?」


 野郎は俺の姿を見た瞬間目を見開くと、すぐに睨みつけてきた。


「て、テメェ……この俺が誰か知ってんのか!? ああ!?」

「知るか、雑魚。テメェ、立場が分かってねぇのか? あ?」

「がふへ!?」


 俺は野郎の顔面を蹴り飛ばした。

 その瞬間、野郎の歯と鼻がへし折れる。


「があああああ!」

「おう、教えてくれや。テメェは、どこの誰だ?」


 髪を引っ掴み、そう訊く。


「で、デベェェェェェ! ゆ、ゆるざ――――」


 俺は無言で顔面を地面に叩きつけた。


「かひゅ……」

「で? 誰だ?」

「あ、ああ……」


 もう一度、顔面を地面に叩きつける。

 すると、野郎はみっともなく泣き始めた。


「ゆ、ゆるぢで……も、もう……」

「おいおい、何泣いてやがんだ。この世界じゃ、温いほうだろ? 何ならコンクリで固めて埋めるか沈めるかしてもいいんだぞ?」

「ひぃいいいい!?」


 俺の言葉に野郎は小便を垂れ流す。

 その姿に顔をしかめると、立ち上がって腹に蹴りを叩き込んだ。


「がふぅ!?」


 その衝撃で軽く天井まで跳ね上がり、数メートルほどの高さから落下する。


「ぅ……ぁ……」


 たったそれだけで野郎は死にかけた。


「情けねぇ」

「アンタ鬼畜すぎじゃない!?」


 一条がそう叫ぶので、俺は首をひねる。


「そうか?」

「なんでそんな不思議そうなの!? あんなに徹底的に追撃するって……」

「だから、これでも温いほうだぞ」


 一条は俺の行いを鬼畜だというが、一条が見てる前でこれ以上のことをするのもどうかと思ったから止めているにすぎないのだ。

 しかし……俺の行いを鬼畜だと言いながらも目を逸らさない辺り、コイツは肝が据わってる。

 一条とそんなやり取りをしていると、ガキどもを縛り上げた源三がどこかに電話していた。

 そして電話が終わると、俺に声をかける。


「若。そこの寝てる野郎の所属が分かりやした。最近ここら辺でうろつき始めた新興ヤクザのようでして……」

「ふん。んで? 今から潰しに行くのか?」

「いえ、もうすでに組の者を二人手配し、制圧が終わったそうでさぁ」

「そうか」


 前に親父とかが話してた連中と同じだったらしい。

 とはいえ、とりあえず一息吐けるな。


「おう、安、源三。帰るぞ。そこに転がってるゴミとクソガキどもは全員車に縛り付けとけ」

「うす」

「畏まりました」


 俺は一条と倉田を回収すると、車の後ろに乗せる。


「ちょっと……車の後ろに縛り付けるって……こいつ等引き摺りながら帰るの!? さすがに死んじゃうわよ!?」

「何言ってやがる。死にたくなけりゃ走ればいい」

「……ちなみに聞くけど、速度は?」

「そりゃ公道走るんだから60キロだろ」

「やっぱり死ぬわよ!」


 一条は一つ溜息を吐くと、恐る恐るといった様子で俺に訊く。


「ね、ねぇ……アンタ、一体何者なのよ……?」

「あ? んなもん見たまんまだろうが」

「み、見たまんまって……」


 俺はそれに胸を張って答えた。


「ガリ勉だ」

「絶対違う!」


 なんでだよ、チクショウ。

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恋と勉強、ときどき不良。(仮) 美紅(蒼) @soushi

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