第6話

 あれから倉田は、なんだかんだ言いながらも授業に参加している。

 そのおかげか、1年A組は今では三人の生徒がきちんと出席していることになっているのだ。


「うぅ……ちゃんと出席してくれる生徒が三人も……先生、涙が止まらないぞ……」


 相変わらず担任の藤木先生は俺たちがちゃんと学校に来て、出席していることに涙を流して喜んでいた。だからオカシイだろ、この学校。

 そんな先生の姿に、倉田もさすがに悪いと思ったのか、授業も真面目に受けるようになった。

 そうそう、これが本来あるべき学生の姿だよな。で、なんでアイツはあんなに英語がペラペラなんだ? 『びーどうし』って何?

 他にも、一条にも約束通り鬼道の店を紹介したわけで、予想は出来ていたが、やはり鬼道の強面を見て、最初は一条は本気でビビっていたが、そのうち慣れてきて今では普通に会話できるらしい。まあアイツの奥さんの美緒さんもいるし、大丈夫だろう。

 そんなこんなで少しずつ日常が変化している中、俺と倉田は体育の授業のため、体操服に着替えてグラウンドに出ていた。


「……やっぱり体操服ってダセェよ……」


 倉田は、げんなりした様子で来ている体操服を見ている。


「バカか、お前は。体操服ってのは動きやすさを第一に考えているんだ。機能性以外必要ないだろ」

「それは悠雅だけだって! 最近の若者はオシャレなの!」

「フッ……」

「鼻で笑いやがったな!?」


 喚きはじめた倉田を無視して、俺は先生に指示された通り、倉庫からサッカーボールを取り出して倉田に向けて投げた。


「おっと……え、サッカーすんの?」

「そうらしい」

「二人で?」

「ああ」

「それはもうサッカーじゃねぇよ!」


 俺に言うんじゃねぇ。

 別に本格的なサッカーをしなくても、ただのパスやボールの蹴り方くらいは学べるだろうしな。


「そもそも、先生が悪いんじゃなくて、授業を受けねぇ連中が悪いんだよ。全員授業を受けていれば、こんな状況にはならねぇんだからな」

「せ、正論過ぎる……誰だよ、こんなヤツこの学校に入れたの……!」

「学校だろ」

「知ってるよ!」


 じゃあ言うなよ。

 そう思いながら、準備を終えた俺は、先生が来るまでの間倉田と雑談して過ごすことに。


「そう言えば、お前のあのわけの分からんしゃべり方はやめたのか?」

「お前がその調子だから止めたんだよ! だって伝わらねぇんだもん!」

「当たり前だろう? 俺は日本人だ」

「それ以前の問題だったけどなぁ!?」


 日本人だからこそ、英語を学ぶのは分かるがそうはいっても日常生活であそこまで訳の分からん英語を連発されるのは疲れる。日常生活の会話くらい普通にさせてくれ。


「それにしても……先生おっせぇなぁ」

「まあ気長に待とう」


 先生が来るのをのんびりと待とうとしたそのときだった。


「あ、アイツです!」

「ん?」


 不意に人の気配を感じ、その方向に視線を向けると、何やら変な集団がゾロゾロと俺たちに向かってきた。

 よく見ると、以前一条を襲ってた三人組の姿がある。

 何しに来たんだ? アイツら。

 そんな風に首を傾げながら見ていると、倉田が俺に近づいてきた。


「おい、アイツら……」

「ん。お前は俺があの三人組をぶっ飛ばしたのを知ってるよな?」

「ああ。ありゃあ『ブラッディア』だぜ」

「ぶらっでぃあ? なんかその名前どこかでも聞いたような……忘れた」


 思い出せねぇから諦めた。それだけどうでも良かったんだろうしな。

 すると、三人組の他にも年上っぽい連中が何人か混ざっており、特に金髪のピアスだらけの男なんてよく目立っていた。あの牛みてぇな鼻ピアスしてるヤツって一体何なんだ? これが倉田の言う最近の若者のオシャレなのか?

 本格的に若者のオシャレに疑問を抱いていると、そのよく目立つ男が俺を見下すようにしながら声をかけてきた。


「おい、テメェか? ガリ勉メガネはよぉ」

「おい、よせよ。照れるじゃねぇか……」

「今のどこが褒め言葉なんだよ!?」


 ガリ勉メガネだろ。何言ってんだ? 倉田は……。


「ずいぶんとフザケタ野郎らしいなぁ……」


 何故か、目立つ男はそう言って俺のことを鼻で笑う。


「何で俺らがテメェのとこに来たか分かってんのか? ああ!?」

「サッカーか?」

「絶対チガウ!」


 おいおい、そうならそうと早く言えばいいのに……何だよ、名前も知らねぇが、わざわざ仲間まで集めてきてくれたのかよ。勉強熱心なヤツらだ。

 一人で納得して頷いていると、目立つ男は顔を引きつらせた。


「テメェ……本格的にふざけたヤツみたいだなぁ!?」

「そんなことはねぇが……」

「……もういい。今すぐぶっ潰してやるよ。惨めに潰すためにも、先手はテメェに譲ってやる。おら、とっととかかってこい」

「ほらよ」

「ごっはぁ!?」

「た、武さあああああああああああん!」


 かかってこいって言ったので、俺は遠慮なくサッカーボールを目立つ男に向かって蹴り飛ばした。

 すると、目立つ男はサッカーボールを腹に直撃させ、白目を剥きながらぶっ飛んだ。

 その光景を見て、倉田が聞いてくる。


「……何してんの?」

「パス」

「何してんの!?」


 だからパスって言ってるじゃねぇか。理解力のねぇヤツだな。


「何で俺がそんな目で見られるの!? 俺がオカシイんじゃなくて、お前がオカシイんだからな!?」

「いや、だってかかってこいって言うから……」

「どう考えてもそれはサッカーしようって意味じゃねぇよ!」

「じゃあコイツらは何しに来たんだ?」

「もう相手が哀れで見てられねぇよ!」


 俺と倉田がそんなやり取りをしていると、他の連中が顔を真っ赤にして突然殴りかかって来た。


「ふ、ふざけやがって! テメェら、ぶっ殺せ!」

『おおっ!』


 おい、ぶっ殺せとか物騒なことを……チャカすら持ったことねぇガキが何寝ぼけたこと言ってやがんだ。

 軽々しく殺すと口にする目の前の集団に、軽くイラっとした俺は、真っ先に殴りかかって来た野郎の顔面に回し蹴りを叩き込んだ。


「がへぇ!?」


 その男は、蹴られた方向に横回転しながら吹っ飛び、他の仲間を巻き込んで倒れる。

 その光景に一瞬相手が呆けるが、すぐさま気を取り直したように殴りかかって来た。


「メチャクチャなヤツだなぁ……っと!」


 倉田のヤツも、自身に襲い掛かる相手の攻撃を冷静に見極め、そして隙を突いてアゴに一撃入れて昏倒させた。


「容赦ねぇな」

「顔面に回し蹴り叩き込むヤツに言われたくねぇよ!?」


 てか、俺は体育の授業をするためにグラウンドに出てきたわけであって、決して喧嘩をするためにこの場にいるわけじゃない。

 幸い先生はまだ来てないが……。


「どうせやるならサッカーだな」

「いきなり何の話だ!?」


 倉田が一人の鳩尾に一撃入れながら、俺の言葉にツッコんだ。

 それを無視して、俺は先ほど目立つ男を吹っ飛ばしたサッカーボールを回収し、俺を狙ってくる人間に蹴り飛ばした。


「へ!? あがっ!?」


 そして、サッカーボールをは見事に一人の顔面を強打して吹っ飛ばし、空中に浮かび上がる。

 それを俺は跳び上がってかかと落としの要領で他の野郎の頭上に叩き落とした。


「へぶっ!?」


 俺が空中にいる間にもう一度サッカーボールが跳ね上がって来たので、今度は体を捻りながらジャンピングボレーシュートを放った。


「がっ!?」

「ぐへっ!?」

「おごっ!?」

「ごふぁっ!?」


 すると、一人の胴体に直撃した後、勢いよくサッカーボールは跳ね返り、別のヤツ、別のヤツと一人一人の土手っ腹に当たっていき、最終的に全員がサッカーボールによって倒された。もちろん、一条を襲った三人組も仲良く倒れている。

 散々跳ね返って野郎どもを倒したサッカーボールは、静かに俺の下に転がって来た。


「こんなもんか」

「やっぱりお前オカシイよ!」


 倉田のヤツが全力でツッコむのだった。

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