第5話
――――俺は今、非常に面倒なヤツに絡まれている。
面倒なヤツは、ロン毛にグラサンといういかにも胡散臭いヤツで、何より俺が面倒だと感じてしまう理由は……。
「Hey! ボーイ! 聞いてるのかい?」
このしゃべり方だった。
さっきから何を言ってるのかさっぱり分からねぇ。
……そもそも、何でこんなことになってるんだ?
いつも通り登校したら、いきなりコイツが現れて気付けば体育館裏に連れて行かれていたのだ。
なるほど、やっぱり分からねぇ。
「……聞いてるさ。で、テメェは何の用なんだ?」
こっちが黙ってても埒が明かない気がしたから、俺は口を開いた。
「OKOK! 何で俺がボーイに声をかけたか……それは、ボーイの喧嘩を見てたからさッ!」
「……あの時か」
実は、まったく害がなさそうだったので放置してたのだが、一条があの三人組に絡まれていて、それを助けたときに人の気配は感じていたのだ。
だが、先にも言ったが、害がなさそうだったから放っておいたのだ。それに、襲われたばっかりの一条に不安にさせるようなことをいうのもよくなかったしな。
「で? 見てたから何なんだ? てか、お前誰だよ」
「おっと、ボーイの質問はもっともだぜ! 俺は一年A組の
「クラスメイトかよ!?」
一条のときも驚いたけど、コイツもかよ!
何なんだ? 何で教室じゃなくて体育館裏でクラスメイトと出会わなきゃいけねぇんだ? おかしいだろ。
「さあ、俺は名乗ったんだ。お前も名乗れよ!」
「あ? ああ、俺は藤堂悠雅」
「OK、悠雅ね。それで、悠雅の喧嘩を見たから何なんだって質問だが……」
そこで倉田は言葉を区切ると、なぜかニヤリと笑う。
「……俺と手を組まねぇ?」
「は?」
俺は意味が分からず、我ながら間抜けな声を出した。
そんな俺の様子などお構いなしに、倉田は語り始める。
「俺は悠雅の喧嘩を見て思ったんだ……コイツと組めば、トップを狙えるってな!」
「……」
ヤベェ。全然話が分からねぇ。
「悠雅は知ってるか? この学校のトップ……つまり、番長が誰なのか」
「さあ? 興味がねぇ」
「いないんだよ」
「あっそ」
「もっと驚こうぜ!?」
いや、興味がないって言っただろうが……。
興味ないことをそんな意味深に言われても驚くわけがない。どうでもいいんだからよ。
俺を驚かせたければ……いや、クラスメイトだってことには驚いたな。うん。
「ま、まあいい。この学校は一癖も二癖もあるような連中が集まってて、【六色】の中でも珍しくトップのいない高校なんだよ。つまり、トップは空席なら……狙うしかねぇだろ?」
「一人でやってろ」
俺はそういうと背中を向け、教室に向かおうとした。
構ってられるか。俺は勉強で忙しいんだ。
俺が去ろうとすると、倉田は慌てて俺の前に回り込む。
「おいおい! そりゃつれないぜ、マイブラザー! 一年の中でも派閥に属してない連中はほとんどいねぇのに、実力がある奴なんてもっといるわけがねぇ! そんな中、お前の喧嘩を見た俺は最高に燃えたんだ! ホットな俺と、クールな悠雅……これほどグレイトな関係はないと思わねぇか?」
「いや、意味が分からねぇ」
本格的に何を言ってるのか俺には理解できない。
だから、俺は聞くことにした。
「なぁ、一ついいか?」
「OK、悠雅。何でも聞いてくれ!」
何やら期待した様子でそう言ってくるので、俺は遠慮なく質問した。
「グレイトってどういう意味?」
「ホワッツ!? それマジで言ってる!?」
「いや、さっきから難しい英語が多すぎるんだよ……」
「英語というほどのモノでもないけど!? これくらい常識の範囲だろ!?」
「俺はOKとイエスとノーくらいしか分からん!」
「威張って言うことじゃないけどな!?」
いや、分からないんだからハッキリと言わねぇとな。誤魔化すだけ無駄だ。
「あ、サンキューとヒゲソーリーも知ってるぞ」
「最後は英語ですらない!」
残念ながら、咄嗟に思いついた英語はこれくらいだった。
ってか、ヒゲソーリーって英語じゃねぇんだ。一つ賢くなったぜ。その代わり、知ってる英語の数が減ったけどよ。
ただ、もうちょっと頑張ればまだ思い出せると思うんだけどなぁ。
「もう行っていいか? 授業が始まっちまう……」
「この学校に来ておいて授業が優先!?」
「いや、高校なんだから授業優先だろ」
「あ、そうだな。……じゃなくて!? この学校にいるってことは、お前も相当なワルなんだろ?」
「いや、単純に俺の学力じゃ入れる高校がなかっただけだ」
「世知辛ぇ……!」
まったくだ。
予習復習は毎日やってるんだがな。難しい。
「まあいい。お前も来い。授業が始まるぞ」
「え!? 俺も行くの!? って引っ張らないで!」
「当たり前だろ? 大人しくしろ」
「い、嫌だ! 授業なんて受けたくねぇ! てか本当に力強いな!? ビクともしねぇよ!」
嫌がる倉田の首根っこを掴み、俺は教室まで引きずった。
最初のうちは全力で抵抗していたが、まったく逃れられる気配を感じられなかったのか、途中から大人しく引きずられていた。
「もう嫌だコイツ……なんでこんなに強いのに真面目なの……」
「強くはねぇよ」
「ウソ吐くな!」
ウソじゃねぇんだけどなぁ。てか、普通だろ。恐らく。
「おら、着いたぞ。自分で歩け」
「横暴だ! 見た目ガリ勉のクセに、噛み合ってなさすぎるんだよ!」
「知るか」
教室に入ると、一条がすでに席についており、俺を見て笑顔を浮かべた後、なぜか怪訝そうな顔つきに変わった。
「おはよ。……で、その引き摺ってるのは?」
「同じクラスの倉田だ。いきなり呼び出されて、なんか組もうとか言い始めたのを断ってからここまで連れてきた」
「やりたい放題ね!?」
そうか?
……いや、冷静に考えると俺は倉田の提案を断っておいて、無理やり連行したのか。
まあ俺も連行されたわけだし、おあいこだな。
そんな風に考えていると、なぜか一条はため息をついた。
「はぁ……それに、倉田って……あの倉田真一でしょ?」
「ん? 知ってんのか?」
「おぉ! Hey、ガール! 俺を知ってるのかい?」
「うるせぇ」
「ごめんなさい」
一睨みしてやると、倉田は大人しく黙った。
「昨日話したと……一年の派閥争いについて覚えてるわよね?」
「さすがに一日で忘れたりしねぇよ」
「ならいいわ。その中で、どの派閥にも属していない一年の一人が……その倉田よ」
「へぇ」
「相変わらず興味なさそうね……でも、そんな見た目してるけど、一年の中でも上位に食い込むくらいの実力はあるはずよ。入学式の日に、実際にその見た目のウザさで絡まれて、返り討ちにしてるし」
「ねぇ、ガール。コイツ何なの? さっきの睨みつけ、メチャクチャ怖かったんだけど」
「……まあ、アンタが相手だとその実力者もこのザマなんだけど……」
倉田ってヤツ、強かったのか。マジで興味ないが。
だって、軽く睨んだだけでビビってるんだぞ?
「コイツ、絶対見た目詐欺だって! 何!? 今まで会って来た不良の中でダントツで睨みが怖かったんだけど!? ビン底メガネのくせに!」
「あ?」
「ごめんなさい!」
ビン底メガネをバカにするとは。コイツ、一度シメてやろうか?
まったく……ガリ勉の象徴だって言うのにな。
そんなやり取りをしていると、現代文の担当教師であり、担任の藤木先生が教室に入って来た。
藤木先生は挨拶しながら入って来ると、俺たちの姿を見て、大きく驚いた様子を見せた後、目頭を指で押さえた。
「……まさか、この学校の教室で生徒を三人も見ることになるとは……先生、嬉しいぞ……」
おい、本当にひでぇな、この学校。
藤木先生の様子を見て、俺は改めてそう思ったのだった。
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