第7話 スペースパトロール
ラウンジに入ったのはいいが、アリシアはただ無言でカウンター席に座ったままだ。
そういう私もどうしていいか分からない。とりあえずソファーに座ったが、だからといってどういうことでもない。
……嫌だな。この沈黙。
「セシル、私と出会った時のこと覚えてる?」
沈黙を破ったのはアリシアだった。
「もちろん覚えているわよ。『ガイア』の求人所でしょ?」
1人で泥棒稼業をやること3年。船の操縦も仕事も相棒が欲しいと思った私は、私の出身地であるガイアに点在する「求人所」にそれを求めた。求人所とはその名の通り、仕事のパートナーを探す人が集まる場所で、柄の悪い連中のたまり場でもある。
「そこで絡んできたジャバ星人を、一瞬で倒しちゃったじゃない。だから、この人となら相棒になれると思ったのよ。同時に、そばに居たいって思っちゃって……」
……どんな動機だ。それ!!
「まあ、あなたとはパートナー。それ以外の何者でもない。それでいいでしょ?」
私はソファにノベーと体を預けながらアリシアに言った。
「もちろん。今まで通りでOKよ。あのオジサンと仲良くしているのを見て、つい出ちゃった本音だから」
……仲良かったっけ?
どうにもアリシアの感覚は分からないが、考える気にもならずソファに寝転んだ。すると、しばらくして、アリシアがガイア生まれなら誰でも知っている子守歌を歌い始めた。優しくて温かい声。嫌でも眠くなってくる。まさか、アリシアにこんな特技があるとは……。危うく本気で寝そうになったとき、まったりムードをぶち壊すアラームが鳴り響いた。
「まずい。スペースパトロールに補足された!!」
ほぼ同時にオッサンがラウンジに飛び込んできた。
「なんで? 欺瞞工作はしてあるでしょ!!」
寝ている場合ではない。私はオッサンに噛みついた。
「もちろん、色々やっておる。恐らく、熱線探知か高エネルギー反応だろう。こいつは隠せん」
オッサンは慌てて上を指差した。
「はいはい、仕事料はきっちり値引きして貰うからね」
私は部屋の片隅にある赤いボタンを押した。すると、天井からチューブ状のエレベータが降りてきた。
「セシル……」
アリシアが心配そうに声を掛けてきた。
「大丈夫よ。ちょっと遊んでくる」
私がチューブの中に入ると床が静かに上昇していき、到着したのは狭いガンナー席だった。これが、このドック船唯一の武装である。透明なドーム型の天井から見える宇宙は綺麗だったが、今はそれどころではない。私は狭いシートに無理矢理体をねじ込むと、4連装レーザー機関砲の安全装置を外した。この瞬間からこの船のコントロールはここが優先される。船の構造上どうしても死角が出来るので、だったら船ごと動かしてしまえという乱暴な考えである。
「さて、どうしようかな……」
向こうに探知されているのであれば、遠慮無くと言いたいところだが、コンソールを見る限りまだ対物レーダーで補足されているだけである。ここでこちらからレーダーなど照射しようものなら、この「隕石」は隕石ではないと自ら明かすようなものだ。
「オペレーション、マニュアル。レーザー、スタンバイ……」
私は機関砲の設定をしていく。レーダー照準は使えないので、全てマニュアル……つまり、手動。私の射撃能力が問われるわけだ。腕がなるわね。
『スペースパトロール艦接近中。どうじゃ、準備出来たか?』
船内通話でオッサンが声を掛けてきた。
「とっくに出来てるわよ。いいから修理に専念してなさいって」
オッサンにそう返しつつ、私はコンソール画面を見つめる。向こうが照射しているレーダーで、逆にこちらも相手の位置が分かる。機関砲の照準はすでにスペースパトロール艦に合わせてあるので即応可能だ。と、背後で音が聞こえた。
「私だけ蚊帳の外ってずるいんじゃない?」
上って来たのはアリシアだった。実はこのガンナー席の隣には、申し訳程度に操縦席があり、2人揃えば片方は攻撃、片方は船の操縦に専念出来るという構造になっている。ただ、このガンナー席よりも狭い。アリシアの体格でギリギリといったところか……。初めてのはずなのに、手慣れた様子でアリシアは操縦席に収まった。
「さてと、船のコントロールをこっちにちょうだい。大丈夫。状況は聞いているし、バレるようなヘマしないから」
私は言われるままに、船の操縦を操縦席に切り替えた。さすがアリシア様、操縦席があれば何でも操縦すると豪語するだけの事はあって、実にスムーズである。
「さてと、あとは相手待ちね。どう出てくるか……」
私が言いかけた時だった。攻撃照準レーダーにロックオンされた事を示すアラームが鳴った。しかし、慌てちゃいけない。相手が「探り」を入れている可能性がある。だが、私の読みは悪い方に外れた。
「スペースパトロール艦からミサイル発射を検知!!」
レーザーではなくミサイルを使ったところをみると、攻撃目的ではなく「探り」である事は確実だったが、このオンボロ船は実弾に耐えきれない。レーザーならシールドで数発くらいならなんとかなるが、この船には対物用のシールドはない。やるしかない。
「まずはミサイルっと…… 」
もはや黙っている必要はない。私はレーダー画面を頼りに照準を合わせ、トリガーボタンを押した。音にすればドドドドドと凄まじい勢いでレーザーが発射され、ミサイルを示すマークが消えた。1発である事をみるとやはり「探り」だった可能性は高いが、今となってはどうでもいい。私は素早くスペースパトロール艦に照準を合わせる。そしてトリガーボタンを思い切り押した。実は射線を確保するにはちょっと角度が厳しかったのだが、なにも言わずベストな角度に調整してくれるのがアリシア様だ。
「こなくそぉぉぉ!!」
こんな辺境に配備されるスペースパトール艦など、第1線を退いたロートルである。案の定、こちらのレーザー猛射に耐えられず進路を180度転進して逃げに入った。これ以上は私も攻撃しない。撃沈が目的ではない。追い払えればいい。
「任務完了っと」
私は隣のアリシアとハイタッチした。
やはり、アリシアがいないと困る。
改めて実感した私だった。
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