第5話 発進!!

 メリーベ級軽巡洋艦。それが私たちの船の母体になったものだ。それに大型艦用のエンジンを強引に3機取り付け、合わせて大出力のジェネレータを神業的技術で4機付けた魔改造の結果、宇宙でも屈指の性能を持つ船へと生まれ変わった。ただ、そのせいで……。

「うーん、なかなかパーツ落ちてないわね……」

 ネットの裏オークションサイトを見ても、メリーベ級は最新鋭の軽巡洋艦だけにそうパーツは落ちていない。なぜ、そんな船に乗っているか? ほら、私手癖が悪いから♪

「あっ、EG1の起動プラグみっけ。3つ購入っと」

 砂嵐のダメージは結構なものだった。ジェネレータは分かっていたが、エンジンが3機とも要修理、その他あちこち手を入れないとダメである。

「どう、何とかなりそう?」

 コックピット後ろにあるリラクゼーションスペースに、アリシアが入って来た。私はずっと見ていたタブレット端末から目を離した。

「うーん、なかなか大変だけど、やるしかないでしょ。じゃなきゃ、死ぬまでここに足止めよ」

 再びタブレット端末に目を落とす。この調子では完全な修理は出来ないだろうが、腕のいい裏の修理屋を知っている。そこに持ち込めばなんとかなるだろう。なにせ、この船を改造したのだから。

「さて、とりあえずエンジンかな。いちおう、最低限のパーツは手に入ったし」

 エンジンがなければ飛ぶことも出来ない。私はリラクゼーションスペースの片隅に山積みにしておいたパーツを、全て虚空に開けた「穴」に放り混んだ。それからコクピットの操縦席に滑り込む。いつもは隣のコンソール席だが、最低限の出力でジェネレータを稼働させている以上安全対策が必要だ。私はエンジン3機のブレーカーを落とした。さらに船のシステム系統から隔離し、『エンジン作業中』と書かれたプレートを操縦桿に掛ける。同じ事をコンソール席でも行い。これで作業準備完了。私は船を出た。

「相変わらず暑くて砂っぽいわね……」

 この惑星では雨は滅多に降らない。そのため、1度舞い上がった砂はなかなか地面に落ちず、砂っぽい空気が漂っている。まあ、あまり長居はしない方がいい。

「さてと……」

 私は第3エンジンの点検ハッチを開き、降りて来た梯子を登る。金属床の通路を歩くことしばし、強化安全扉を開くと、そこはまさに巨大な精密機械だった。これこそがEG-1-P100P1200略してEG1魔道エンジンだ。主に大型船に搭載されるのだが、この船にはそれが強引に3機搭載されている。お陰で亜光速ギリギリに迫れるだけの速度が出せるのだが、かなり無茶である事は間違いない。おかげで修理に手間が掛かる。。

「さて、終了。次は第2エンジンね」

 私は第3エンジンから第2エンジンへと向かいさらに第3エンジンへ。全ての作業を終えたのは、約3時間ほどだった。

 船内に戻ると、私は「洗浄」の魔法で全身の汚れを落とした。もちろんシャワーもあるが、それで落ちてくれるほど砂漠の砂は甘くない。

 スッキリした私は、リラクゼーションスペースで居眠りこいていたアリシアを蹴飛ばして起こし、私はコンソール席に座った。エンジンと船のシステム系統再接続、ブレーカー接続、エンジン作業中の看板撤去。遅れて操縦席に座ったアリシアも同じ事をする。

「エンジン直ったの?」

 あくび混じりにエリシアが聞く。

「仮復旧って感じかな。いつもの半分くらいしか速度を出せないから、そのつもりでいてね」

 言いながら私はエンジンにリミッターを設定する。

「部品が手に入らなくてジェネレータの修理は未完了だけど、とりあえず宇宙には出られるわよ」

 私が言った時だった。巨大な竜巻のようなものが、ゆっくりとこちらに向かって接近してきているのが見えた。

「なにあれ?」

 アリシアがつぶやいたとき、私はエンジンに火を入れた。

「本当はエンジンテストしたかったけど、そんな暇なさそうね……」

 その時無線ががなった。


『非常事態。離陸可能な船は直ちに宇宙空間に待避せよ。非常事態。離陸可能な船は直ちに宇宙空間に待避せよ』


 声のトーンが変わらない事を考えると、プリセットされたものである事が分かる。恐らく、宇宙港職員は待避したのだろう。

「アリシア、無理しない程度に無理してぶっ飛ばして!!」

 私が叫ぶと、アリシアが素早く船を離陸させた。そして、宇宙空間に向けて……あれ?

 船は飛んでいるが、空中にピタリと静止して動かない。

「ちょっと、なに遊んでるのよ!!」

 アリシアはムッとした表情を浮かべた。

「遊んでないわよ。フルスロットルで上昇中!!」

 珍しく苛ついた調子でエリシアが怒鳴り返してきた。

「じゃあ、なによこれ!?」

 コンソールパネルを叩きながら、私は少し冷静になるべく小さく深呼吸した。

 ……船のシステムに問題はない。リミッターを掛けたとはいえEG13発の推進力でも振り切れない何か。物を引き寄せるトラクター・ビームの類いではない。それなら警報

が出る。では、なにか……。

「ねぇ、非科学的なんだけど、これが「本当の」遺跡の怒りじゃ……」

 アリシアがぽつりとつぶやく。

「大丈夫。すでに非科学的な事になっているから。なるほどね……」

 あり得ないとは言い切れない。いや、むしろそうでないと、おかしい。どうも、理屈では語れない何かが起きているようだ。私は武器コンソールを弄り、遺跡をロックオンした。

「ちょっと、近くに宇宙港があるのに、何かやるつもり!?」

 アリシアが慌てて止めたが、私の意思は変わらない。

「大丈夫。対地ミサイルは2発しか積んでないから」

 私はミサイル管制システムのパネルのキーを叩いた。

「だから、そういう問題じゃ……」

「1番発射、2番発射」

 船体中央にある垂直発射システムから、2本のミサイルが発射された。

「あーあー、撃っちゃった……」

 アリシアが頭を抱えながら言った。

「ミサイルの爆発で吹っ飛ぶのと竜巻で吹っ飛ぶの、違いはある?」

 左スクリーンには見事に吹き飛びもはや原形を留めない遺跡、右スクリーンにはミサイル爆発の余波で盛大にぶっ飛んだ宇宙港の姿。謎の竜巻はいきなり止んだ。

「さて、逃げるわよ!!」

 私がアリシアに言うと、彼女はため息をついて了解とだけ答えた。


 こうして、私たちは砂の惑星を後にしたのだった。


 後日談だが、どこのバカがミサイルを発射したのか鑑定が入り、結果驚く事にミサイルの残骸からスペースパトール艦のシリアル番号が確認された。その艦は逸失扱いで存在しないため、「遺跡の神秘」として語り継がれることなったのだった……だって、対地ミサイルなんて滅多に使わないもーん。

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