第4話
遺跡の中に入ると私は背負った鞄の中から、わざとアンティーク調にしたカンテラを取りだして魔力を注いだ。古くは見えるが性能は現在のもので、暗い道が明るく照らされる。
アリシアが掘り尽くされたというように、すでにあらかた掘り尽くされて何もない。しかし、私は遺跡見物に来たわけではない。
「アリシア、何か見える?」
探査の魔法で辺りを探っていたアリシアが首を横に振った。私たちはさらに奥に進んでいく。
しばらくすると、アリアシアの「探査」がピッと小さい音を立てた。
「おや、当たり?」
私が聞くとアリシアは困ったような顔をした。
「ここの上部に空間があるみたいなんだけど、結界かなにか妙な魔法がかかっているみたいでよく分からないのよ」
……それっぽくなってきたわね。
「階段も何もなしか……アリシア。その空洞ってこの辺りだけ?」
アリシアは静かに首を振った。
「空洞はかなり広いみたい。ずっと奥まで続いているわ」
……ふむ。
「じゃあ、とりあえず奥まで行きましょうか。 状況を確認しておきたいし」
ピザールの大遺跡は1階部分に関しては地図が売り出されているほどメジャーになってしまったが、不思議と上階へ登る階段などは見つかっていない。今までの学説では上層階は王家の墓で完成後に埋め戻されたとなっている。
しかし、私の説は違う。ここは大金庫。かつてここが現役だった頃、この遺跡は富を保管するためのものだった。学会からは無視されてるが、いくつかそんな資料も発見されている。お宝あるところに泥棒あり。調べてみる価値は十分ある。
「前方より敵!!」
アリシアが叫んだと同時に、無限軌道方式で動く何かが現れた。
おっとコイツは……。
私は自分とアリシアに強力な結界を張った。瞬間、それはまるで雨のようにレーザーを撃ってきた。これは「ビット」と呼ばれる無人の小型戦車で、当然この遺跡が造られた頃のものではない。先客の忘れ物だ。こういうときは……。
私は虚空に作った「穴」から筒状のものを取り出した
「セシル、急いで!!」
はいはい、慌てなさんな。
私は筒状の物体についている小さなボタンを押した。すると、しゃきっと音がしてグリップとトリガーが飛び出る。そう、これは昔風に言うと対戦車ロケット弾だ。ただ、発射されるのは魔力を元に作られる魔力弾か、ごく一般的なレーザーが……。私は迷わずレーザーを選択した。私がランチャーを構えると、小型魔力ジェネレータが甲高い音を立て砲身先端のランプが赤から緑に変わった。私は躊躇なくトリガーを引く。文字通り光の速さで発射されたレーザーは、ビットに当たったがシールドに弾かれてしまった。しかしこれは予想済み。私は即座にレーザーから魔力弾に切り替え、第2弾を放ったのだ。
私が展開する防御魔法は両対応だが、対レーザー用のシールドと対魔力弾用のシールドは違う。弾速の速いレーザーと魔力弾の連続攻撃を狙ったのだが……
「よし、撃破!!」
ビットが小さく爆発し、その動きを止めた。
「全く面倒くさいもの遺してくれちゃって……」
状況から考えて、このビットは先に砂漠で出会った盗掘チームが配備したものだろう。他の誰も来ないように……。
「アリシア、大丈夫?」
私が聞くと彼女はピッと親指を立てた。
「大丈夫よ。セシルは?」
私は返事の代わりにニヤリと笑って見せた。
そして遺跡探索は続く。もう1階部分には何もないというのが定説で私もそう思う。いちおう確認しながらゆっくりと進むが、アリシアの「探査」にも何も引っかからない。そして、私たちは最奥部に到着した。
「あちゃー、無理しちゃって」
私は呆れて思わずため息をついてしまった。最奥部の壁には人が通れるくらいの穴が開けられ、せっせと階段を作りながら掘った形跡がある。
「アリシア、この直上には何がある?」
アリシアは首を横に振った。
「何もないわ。ただ妙ね。詳細探査出来ない」
詳細探査とは、探査の魔法の派生版の1つで、探査範囲が局限まで狭くなる代わりに、そこに何があるか明確に探査出来るというものだ。アリシアの魔力の低さを勘案しても、ここまで何もなかった上に詳細探査出来ないというのはおかしい。私は銃を抜くと、出力ダイアルを回す。最小は痺れる程度最大だと戦車の装甲すらぶち抜くという、いささかイカレた拳銃ではあるが、私はその出力を最大にセットし、魔力弾モードで天井に向けて1発撃った。とても拳銃とは思えぬ図太い光が発射され、天井の詰み石を破壊していく。そして……。最後にバリーンとガラスが割れるような音が聞こえ、ザーという何かが流れ落ちてくる音が聞こえた。
「アリシア、待避!!」
私たちは急いで離れた場所に待避する。すると、しばらくして大量の金貨が落ちてきた。そう、簡単な話しだ。金庫の底に穴を開けたのだ。結界をブチ破って。
「め、珍しくセシルの情報が当たった……」
「なによ、珍しくってって!!」
あっけに取られた様子のアリシアに、私は抗議の叫びを上げた。
「まあいいわ。とっとと仕事済ませるわよ」
「了解」
私は通路の天井に向かって、適宜同じ要領で穴を開けていく。それを回収していくの合はアリシアの仕事だ。虚空に「穴」をあけそこに金貨を吸い込んでいく。もはや夢もロマンもないが、私たちが欲しいのは結果だけ、それはどっかの大学教授に任せればいい。
こうして通路に落ちた金貨を残らず回収した私たちは、急ぎ足で遺跡を出た。もちろん取りこぼしもあるだろうが、あまり欲張らないのが泥棒として生き残るコツである。そして、私たちがそとに飛び出した瞬間だった。ウィーンという聞き慣れた音に、私はアリシアを押し倒した。
「ちょっと、何!?」
アリシアが言った瞬間、今私たちが立っていた場所にレーザーが集中する。
私は立ち上がり様に応戦したが、そこらの戦車も倒すはずの魔力弾は簡単に弾かれてしまった。
「アリシア、逃げるわよ!!」
ようやく立ち上がった彼女に、私は素早く声を飛ばした。
「なにあれ?」
そこにあった物。それは、まるでごつごつしたサソリのようなデザインの機械だった。それはゆっくりと私たちの方を向くと再びレーザーバルカンを発砲してくる。身を伏せる私たち。
「これが『遺跡の怒り』かしらね。あの場所から動かないなら、楽勝なんだけど……」
私の祈りは通じなかった。非常にゆっくりした速度ではあるが、バルカンを乱射しながらそれは接近してくる。
「ヤバい、逃げるわよ!!」
「同意」
私たちはなるべく身を低くしながら、バギーへと急ぐ。運転席に飛び込んだアリシアがエンジンを掛けようとしたが……。
「あれ、掛からない!!」
あーもうそんなお約束パターンなど要らん!! ガラガラいう無限軌道音はゆっくりと近寄ってきて……今度はミサイルを発射してきた。垂直に打ち上げられたそれは、6本まとめてこちらに向いてくる。
「んなろ!!」
私はバギーに据え付けてある40ミリ機関砲で応戦する。1本が爆発を起こし、密集していたのこり5本を巻き込んで大爆発を起こす。
「アリシア、まだ!?」
私が言った時、ちょうどバギーのエンジンが掛かった。
「急ぐわよ」
急発進したバギーのバックミラーには、なんと空中を移動してこちらに接近してくる遺跡の怒り様が……。
「しつっこいわねぇ……」
私は適当なところに安全ベルトを付けると、荷台に積んである対戦車ミサイルを取り出した。1発当たりの値段ロケットの10倍になるが、命には代えられない。誘導方式はミリ波レーダー。打ちっ放し出来る優れものだ。私はミサイルの電源を入れるとスコープをのぞき込む。そして、目標をロックオンするとトリガーを引いた。瞬間、円筒形の本体からミサイルが飛び出し、目標に向かって飛んでいく。それと同時に、私はバギーの40ミリ機関砲で飽和攻撃を仕掛けた。これでダメなら……どうしようかな。遺跡の怒り様は40ミリ魔力弾をかわすべく全身を丸めてこちらに接近してきている。そこに対戦車ミサイルが命中した。遺跡の怒り様の全身から火の手が上がり、そのまま砂の大地に突っ込んで止まった。
「目標撃破。さて、宇宙港に急ぎましょう」
「了解しました~」
私の言葉にアリシアが軽く答え、一路宇宙港へ向けて砂漠を突っ走ったのだった。
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