第3話 トラブル
惑星サラドゥーン。砂の惑星と知られるこの辺境の星には数々の遺跡があり、偉大なる発見と主に、多くのトレジャー・ハンターの命を砂の中に埋もれさせてきた……なんて解説している場合ではない。この星唯一の宇宙港が現在大砂嵐に巻き込まれており、着陸許可が下りないのだ。宇宙空間で待機していても良かったのだが、そうすると大砂嵐の影響で通信が出来ないのでこうして大気圏内で上空から砂嵐が通過していく様を見ていた。
「RJP1よりサラドゥーンへ。状況報告を求める」
アリシアが操縦桿を握りながら無線で宇宙港に状況確認する。規模にもよるが砂嵐は3日くらい続く事もある。反ってきた答えは予想通りだった。
『サラドゥーン……RJP1。砂嵐は……日程度続く模様。宇宙に待避……せよ』
非常に聞き取りにくい返答が反ってきた。まあ、何とか意味は分かるが……これは出直しか……そう思いかけた時、ドンという軽い衝撃が走りアラームが鳴り始めた。
「ナンバー1ジェネレータ損傷。ナンバー2出力50%に低下。ナンバー3、4は正常。行くしかないわよ!!」
……アリシアよ。楽しそうに言うな。
魔力をエネルギーに変換するのがジェネレータ。エンジンを始めとして全ての動力源である。それが壊れたと言うことは心臓を破壊されたも同然だ。
「そうね。これじゃ宇宙にも出られないし……」
砂でも噛んだのかしらね。全く。
「メーデーメーデーメーデー。RJP1、ジェネレータ損傷。これより緊急接岸に入る!!」
それだけ無線で伝えると、私は船内後部のジェネレーター室に向かった。高エネルギー発生中のため中には入れないが、特殊ガラス越しにジュネレータが確認できる。4機あるジェネレータのうち、まず生きている3.4番を確認。今のところ異常なし。続いて異常が出ている1.2番は……」
「あっちゃー……」
1番は爆発して木っ端微塵に吹き飛んでいるし、2番は変な振動が出ている。長くはもたないだろう。
私はコックピットに取って返し、アリシアに指示を出した。
「2番停止。あれじゃ爆発する」
「了解」
私の指示にアリシアがコンソールを叩き、2番ジェネレータを停止させると、船の微震道が止まった。
「ジェネレータ2機で何とかなる?」
私はアリシアに聞いた。
「セシル、私を誰と思ってるの?」
私の問いにニッコリ答えるアリシア。その時、船が大きく揺れた。
「砂嵐の中に突入したわ。ジェネレータ出力最大!!」
アリシアが楽しそうに叫ぶ。一般的には残ったジェネレータの温存のため、出力を下げるのが普通だが、この砂嵐を突き抜けるにはパワーが必要だと私でも分かる。
「アプローチチェック」
アリシアが楽しそういう。
……だから、今は緊急事態なんだってば!!
「チェック」
操舵関係の装置はアリシアの領分だが、計器類は私のコンソールにもついている。
私は船の進む方角を示す計器の下に、ピンクの菱形が表示されている事を確認した。これは港から発信されている電波だ。この方向に飛べば、とりあえず港へと着くが……。
「この嵐じゃ多分視程ゼロよ。それでもやる気……よね。やっぱり……」
言うまでもなかった。アリシアはやると言えばやるのだ。
「グライドスロープ、ローカライザ受信。大丈夫。これなら降りられる」
アリシアはニッコリ笑った。正面スクリーンは砂しか見えない。しかし、何事もなかったかのように降りてしまう。それがアリシアだ。
「アプローチランプ確認。見えづらいけど……」
ほどんど砂だが、その中にわずかな光が見える。これが宇宙船パットの位置だ。
こうして、私たちは砂嵐のど真ん中にある宇宙港に接岸した。
宇宙港に接岸して10日間。私たちは足止めを食うことになった。ぶっ壊れたジェネレータの修理もあるが、この視界と風ではどこにも行けない。船に積んであるバギーで移動予定だったが、いやはや……。
そして、ようやく砂嵐が晴れた。ここぞとばかりにバギーを船から下ろし、アリシアの運転でひたすら砂漠を突っ走る。今回は誰の依頼でもない。ある意味、泥棒らしいミッションだ。
「一体どこに向かっているの?」
バギーをぶっ飛ばしながら、アリシアが聞いて来た。
「ピザールの大遺跡よ」
私は地図と電子式の方位磁針で現在地を確認しつつ、アリシアに進路の指示を出す。
この辺境の星にGPSなどという便利なものはない。地図と方位磁針だけが頼りだ。
「ピザールの大遺跡なんて、もう掘り尽くされて何もないと思うけど……」
アリシアが怪訝な声でいう。
「と~ころがどっこい。最近になって隠し部屋が発見されてね。再び脚光を浴びることになったわけよ。その隠し部屋いうのが一癖も二癖もあってね」
アリシアがため息をついた。
「つまり、また一文にもならないガラクタと」
アリシアがため息をついた。
「当時の通貨は金だけど、それが数百万枚って言ったら?」
アリシアの目つきが変わった。
「なんだ、たまにはまともな仕事するんだ」
私はずっこけそうになった。
「あ、あのねぇ……。そんなことより、道間違えないでよ」
アリシアが小さく笑う。
「誰に言ってるの。そっちこそ、ナビ間違えないでよ」
……へいへい。
こうして、私たちはピザールの大遺跡に向かって、ひたすら砂漠を突っ走ったのだった……。
「だから、ナビ間違えないでっていったでしょ!!」
アリシアが珍しく声を荒らげる。
「いや、間違えてないわよ。ここが『ピザールの大遺跡』よ』
方位磁針と地図、そして移動速度から考えて間違いなくここだ。しかし、辺りはただの砂丘。遺跡などどこにもない。と言うことは……。
「どうやら先客がいるようね」
私は簡単な解除魔法を使った。すると、砂丘だった辺りの光景が揺らぎ、遺跡が目の前に出現した。
「ほら、間違いなかったでしょ?」
私が口をあんぐりさせているアリシアに小さな笑みを送ると、遺跡から1人飛び出てきた。姿は地元民だが同業者に間違いない。
「なに慌ててるの?」
ちょうどこちらに向かってきたので、とっ捕まえて事情を聞く。
「い、遺跡の……怒り……」
そして、男は派手に血を吐くとそのまま事切れた。
「ねっ、一癖も二癖もあるって言ったでしょ。あれ、アリシアどうしたの?」
銃を構えなんか震えているアリシアに私は問いかけた。
「……あのさ、こういう事だって先に言ってよ!!」
とりあえず銃を収め、アリシアは怒鳴った。ちなみに、彼女はエルフだがあまり魔法は使えない。ゆえに、こういう事には弱いのだ。
「だって、言ったら来ないでしょ?」
私は口笛混じりにそう言った。
「あ、当たり前でしょ。貸し10個位じゃないと割に合わないわ!!」
ヤカンでも頭に置いたらお湯が沸きそうな勢いで、アリシアは怒鳴る。
「はい、どうどう。来ちゃったものは行くしかないわね。さて、どんなものやら……」
私と腰が引け気味なアリシアは、とにもかくにも遺跡に潜ったのだった。『遺跡の怒り』がどんなものかも知らずに……。
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