第二百四十二話 わたしの帰る場所
「さて、次はどうするのかな? まあがんばった方ではあるけれど、この圧倒的な戦力差の前では、そのがんばりも無意味だね」
余裕の表情を浮かべながら俺達を見下ろすクロノスフィアは、祭壇の前から一歩も動いてはいなかった。
辺りには破壊された
ローリンもぽっぴんも呼吸が乱れ肩で息をしている。スタミナ切れを起こしてきているのだろう。獣王は久しぶりに獣人化して、今回はまともな戦力として活躍している。そして俺も、クリューシュの呪いによって竜力転身の力を手に入れた今は、この戦場でエース級の活躍をしているのだが、やはり多勢に無勢であった。
そもそもクロノスフィアを戦いに引きずり出すことすらできていない。これじゃあ意味がない。意味が……。
あれ? て言うかなんで戦ってるんだっけ? だいたいあいつを倒したところで聖戦を止められるのか? そこら辺のことをまったく考えずに勢いだけで神界に乗り込んで来たけど、なんか目的が違うような気がするな。
俺は少し考えると、まとまった答えを皆に告げる。
「皆、聞いてくれ」
「なんですかべんりくん?」
「このまま戦い続けてもジリ貧だ。はっきり言ってこれ以上は無意味だと俺は思う」
「しかし、奴を倒さなければ聖戦を止められません」
オートマタ達と交戦しながらローリンは言う。
「いや、そもそもゲームじゃねえんだから。クロノスフィアを倒して、はいクリアー世界は平和になりましたー、なんてエンディングにはならねえんだよ」
「今更なにを言っているのですか! どっせい! ヘルフレアアアアっ! もうここまで来ちゃったんですから、とりあえずあいつをぶっ飛ばしましょうっ!」
ぽっぴんはとりあえずクロノスフィアをぶっ飛ばせればそれでいい感じだ。それは今度やらせてやるから今は俺の言うことを聞いてほしい。
「だったらどうするんだべんりっ!? なんにしても奴が元凶なんだ、ここで倒しておかなければ、例え今回の聖戦を止められたとしても、第二、第三の聖戦が起きてしまうぞっ!」
誰だおまえ? 偉そうに言いやがって、語尾に「わん」を付けないと突然変な奴が会話に混じって来たって読者も混乱するだろうが。
「わかってるよ。だが、今やるべきことはそれじゃねえ。あいつを倒すのは皆がまとまってからだっ! 地上に居る、魔界に居る、全ての種族が一つになってから、この神気取りの糞野郎をぶっ飛ばすっ! だったら今はっ!」
やるべきことはひとつ!
俺の言わんとすることを理解したのか皆黙って頷き行動を起こす。それを黙って見ていたクロノスフィアは怪訝顔をして眉を顰めている。暫くはオートマタ達をと交戦を続けるのだが、その動きを見ていたクロノスフィアが俺達の考えに気付いたような素振りを見せた。
やるなら今しかない。後はあいつ次第だっ!
「やれっ! ソフィリーナあああああああああっ!」
―― ゴッデス! ジェイル! ――
ソフィリーナの緊縛魔法がクロノスフィアを拘束すると動きを封じた。オートマタ達を引き付け祭壇までの道を真っ直ぐ開くように戦っていたローリン達が叫んだ。
「べんりくんっ! ソフィリーナさんをっ!」
「ソフィリーナさんを掻っ攫いなあああああっ!」
「行けっ! べんりっ!」
俺は跳躍すると祭壇に飛び乗りソフィリーナを抱き上げると一気に駆け出した。ソフィリーナは何も言わずに俺の腕の中で大人しくしていた。祭壇から飛び下りるとこの場を離脱する為に、ローリンとぽっぴんが最大火力の一撃を放つと時の神殿内部で大爆発が起きるのであった。
「どうして……どうして私なんかの為にこんな無茶をしたのよ……」
俺に抱えられながらソフィリーナはぼそりと呟いた。そして顔を上げると俺のことを睨みながら声を荒げる。
「私はあなた達をずっと騙していたのよっ! 世界のことも、シンドラントのことも、ティアラのことも、ギアムもマギナも全部っ! 知っているのに知らない振りをして、自分かわいさに嘘を吐いて、それをクロノスフィアに利用されて、ひっく……私が……うぅっ……私の所為でぇぇぇぇ」
目を真っ赤にして泣き出すソフィリーナ。俺は立ち止まるとソフィリーナを抱えたままその顔をじっと見つめる。そして、思いっきりおでこに頭突きをしてやった。
「いったああああああああああっ! いきなりなにすんのよばかああああっ!」
「うるせえっ! 両手が塞がってるから頭で殴ってやったんだよっ!」
「はああ? 両手が塞がってって。あんた、手が空いてたら私の事殴るつもりだったの? 女の子を殴るつもりだったのっ! さいてええええええええっ!」
ソフィリーナは俺の顔面にビンタをすると突き飛ばして自分の足で立つ。後ろから来ていたローリン達が追いつくと、なぜか喧嘩を始めている俺達のことを呆れ顔で見ていた。
「大体なんなのよあれっ! 助けに来た相手に助けられてほんとダッサいわねっ! あんたっ!」
「はあ? 誰が助けに来たんだよっ! 駄女神がいつまでも帰ってこねえから、わざわざ皆して迎えに来てやったんだろうがあっ!」
「はいはい、そいつはご苦労様でしたねっ! そんなこと頼んでないし、だいたい
段々尻すぼみに声が小さくなるとソフィリーナはそのまま俯いてしまう。
俺はソフィリーナの傍に行くと頭の上にぽんっと手を置いて言ってやるのであった。
「おかえり、ソフィリーナ」
「ただいま、べんりくん」
つづく。
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