第二百四十三話 魂の容量、命の使いどころ①
ローリンとぽっぴんもソフィリーナに抱きついて再会を喜んでいた。もう二度と黙って出て行くことなんてしないでくれと、泣きながらローリンは言っている。
とにもかくにも、こうしてまた皆一緒になることができた。後はメームちゃんが居れば言う事はないんだが、今は早くここから離れよう。あの程度でクロノスフィアを倒すことができたとは思えない。おそらくあいつは最新のギアムの能力で無事の筈だ。
そう皆に促そうとしたその時、俺は鳩尾の辺りに違和感を覚えて腹を抑える。その瞬間、吐血するとその場に膝を突いた。
「べんりっ! どうしたわんっ!?」
それにいち早く気が付いた獣王が声をあげると他の皆も慌てた様子で駆け寄ってきた。
「べんりくん、さっきの戦いでダメージを負っていたのですか?」
心配そうに俺の顔を覗き込むローリンであるが、俺が特に外傷といった外傷を負っていないことを知るとますます不安気に俺のことを見る。
そして、その異常の意味するところに気が付いたのはぽっぴんであった。
「竜の……呪いですか?」
ぽっぴんの言葉に全員が驚く。わかっていたことではあるが今までずっと意識しないようにしていた。ルゥルゥの姐御、紅の騎士アマンダも火竜の呪いによって体を侵されていると、呪いを解かなければ近い将来命を落としてしまうと言うものであった。
「じつを言うと
「ひょっとして、オレンジジュースの味が変だと言っていたのも?」
「ああ、あれ以降食べ物の味はまったく感じなくなった。なにを食べてもザラザラとした砂を食ってるみたいで、正直美味そうに食うのに必死だったよ」
俺は笑いながら言うのだが、皆悲痛な面持ちでなにも言葉に出来ない様子であった。ソフィリーナは俺の右手を両手で握り締めると、泣きそうな顔で笑いながら言う。
「もう、その力は使わないで……べんりくんが、べんりくんが死んじゃったら私は……」
それ以上声にならない様子であった。このまま戦いの度に竜力転身を使ったら、俺の魂の容量はすぐに
そうはいかなかった。
俺は、ソフィリーナの向こうに視線を向けると、その先にある相手を見据える。
「
自分の周囲に光のバリアーを張り巡らせ、未だ砂煙の上がる神殿の奥から現れたクロノスフィアの顔には、先ほどまでの余裕の笑みはなかった。
「神話の時代より。その身をドラゴンへと変える秘術を使う賢者は存在した。しかし、その誰もが“聖者の書”を手に、その秘術を使ってドラゴナイズを行っていたのだ。それを、竜の血を浴びて強制的に行うのだ。必然、歪も生じるに決まっている」
聖者の書。今確かにクロノスフィアは聖者の書と言った。ぽっぴんはそれを探しにダンジョンにやってきたのだ。つまり、聖者の書もシンドラントとなにか関わりあるオーパーツの一つなのかもしれない。
無傷であったクロノスフィアを前に全員が身構える。その時、クロノスフィアが拳を突き出すと俺達の前で激しい爆発が起こり全員が吹き飛ばされ地面を転がった。
「おもしろくない。おもしろくないなあっ! こんなものはっ! 私の想い描いていた
忌々しげな表情の前で拳を握りしめると天を仰ぎ怒声をあげるクロノスフィア。俺達はダメージを受けながらも再び立ち上がり応戦しようと試みる。
クロノスフィアが再び右手を突出し手を広げると大きな炎が上がり俺達に襲い掛かった。
「ゴッデスウォールっ!」
ソフィリーナがオーロラの壁を展開しそれを防ごうとするのだが、クロノスフィアが左手を翳すとゴッデスウォールを打ち消す。間一髪ローリンの一撃で炎を相殺するのだが、ぽっぴんは忌々しげな表情で呟いた。
「ティアラでさえも成しえなかった。完全無操作の魔法発動……。信じられません。あいつの着けているあのダッサい指ぬきグローブが、奴の使用するギアムですっ!」
あぁぁ、あれがそうなんだぁ。あれ、ファッションでやってるのかと思って、ちょっと痛い奴だなぁって思ってたけど、あれがギアムなのね。
「ふははははっ! これが本物の魔法だよ。神の操るものこそが魔法であり、おまえらのやっていることは所詮、ギアムによる攻撃に過ぎないっ!」
なにを偉そうに、おまえだってそのギアムを使ってるんだろうが。とことんムカ吐く野郎だぜ。とは言ったものの、クロノスフィアの操る魔法ははっきり言ってチートだ。見た所、手を翳す以外の予備動作はなにもなく、ローリンやぽっぴんの全力の一撃以上の攻撃を仕掛けてくるのだ。
「くそっ! 全員でいっぺんに仕掛けるぞっ!」
俺の合図と同時に全員が必殺技を繰り出す。ここ土壇場にきて俺も手からビームが出せたぜ、やったあっ!
四人と一匹の全力の一撃が混ざり合い唸りを上げてクロノスフィアに襲い掛かる。しかし、クロノスフィアは両手を前に突き出すと、俺達の放った一撃より大きなエネルギー波を打ち出した。
二つのエネルギー波がぶつかり合うのだが、徐々に俺達が押し負けるとクロノスフィアの一撃が襲い掛かる。
万事休すと思ったその時。エネルギー波が掻き消されると、目の前にはプラチナの輝きを放つ鎧を纏った白銀の美女が現れたのであった。
つづく。
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