第二百二十七話 超古代からの置き土産? パワーアップは愛の力で②

「でましたね。これが奴の真の姿……ぽっぴんちゃんっ!」

「はいっ、ローリンさんっ! 心得てますっ!」


 わかっているとばかりに火竜と距離を取って後方支援に回るぽっぴん。当然前衛は最強のアタッカーであるローリンだ。

 俺とクリューシュはアモンに肩を貸してやると、安全な岩陰に身を潜めた。


「礼は言わないぞ……人間」

「はいはい、いいよそれで」


 そう言いながらも素直に俺とクリューシュに担がれているアモンも、まあそれなりに感謝している様子ではあった。



―― クリューシュナ、いい加減おまえの目を醒まさせてやる。そこでこいつらが焼かれるのを見ているがいいっ! ――



 火竜は咆哮すると火炎を吐き出す。辺り一面を火の海で囲み俺達が逃げられないようにするとローリンと対峙した。

 ローリンは深呼吸すると剣を構えて火竜を見据える。そしてしばらく睨み合うと両者は同時に動いた。


「エクスッ! カリボオオオオオオオオンッ!」


 聖剣の一撃を繰り出すのと同時、火竜も火炎のブレスを吐き出す。二つのエネルギーがぶつかり合うと爆発、爆煙で視界が遮られるのだが、火竜の居た場所にぽっぴんが魔法を撃ち込むと火竜が宙へと飛び出してきた。そこへローリンが二撃目を放つのだが、火竜はひらりと宙を舞い躱すとホバリングしながら顎を大きく開いた。


「やばいっ! あれは躱せないぞ。耐えろ聖騎士っ!」


 クリューシュが叫んだ直後、辺り一帯を火の粉のようなものが舞う。その瞬間、閃光、爆発、俺は耳を塞ぎ目を瞑るのだがそれでも真っ赤な光が瞼を貫き、爆音が鼓膜を揺らした。

 俺はふらふらするのを堪えながら目を凝らすと、ローリンがぽっぴんの上に伸し掛かり二人はその場に倒れ込んでいた。


「ローリンっ! ぽっぴんっ! 嘘だろ……やられちまったのかよ……」


 やはり、火竜は強かった。圧倒的な攻撃力でこちらの最強戦力であるローリンとぽっぴんを、あっと言う間に戦闘不能にまで追い込んでしまった。

 俺は拳を握り込むと岩陰から飛び出そうとするのだが、クリューシュが俺の腕を掴み止める。


「ダメだべんりっ! おまえは神を倒す為の最終兵器なんだ。こんなところでむざむざ死なせるわけにはいかないっ!」

「放せクリューシュっ! あいつらがやられてるんだっ、俺は、俺が助けてやらないで誰があいつらを助けるってんだよっ!」

「諦めろっ! おまえの命はもっと多くの人間を、いや、この世界のあらゆる種族達を助ける為に使わなければならないっ! 命の賭けどころを間違えるなべんりっ!」

「うるせえっ! そんなの知るかよっ! 他の誰がどうなろうが知ったこっちゃねえっ! あいつらが死んじまったら、俺は……。俺はっ!」


 涙で視界が歪む。ぽっぴんはうつ伏せに倒れ込んだままぴくりとも動かない、ローリンも傷だらけになりながら満身創痍で立ち上がろうとしている。



―― 終わりだ人間ども、次の一撃で灰すら残さないほどに焼き尽くしてくれる ――



 火竜が再び顎を大きく開けると火炎が漏れ出す。エネルギーを溜めに溜め、それを一気に吐き出すつもりだ。

 その隙に攻撃を仕掛けようとローリンは剣を構えようとするのだが、腕に力が入らないのか剣を上げることができない。


 くそぉ、どうすればいい。竜力転身を使えばアモンを圧倒できるほどの力を発揮できるがそれでも火竜には通じないだろう。

 いや、迷っている場合じゃない。たとえそうだとしても、このままなにもしないであいつらがやられるのを見ていることなんてできやしない。たとえ俺の命が燃え尽きたとしても、この身を挺してあいつらを助けるっ!



―― 竜力転身っ! ――



「ばかものおっ! むやみやたらにその力を使うと寿命を縮めるぞっ!」

「ごめんクリューシュ。おまえの役に立ってやりてえけど。やっぱり、世界のことよりもあいつらの方が俺にとっては大事なんだよっ!」


 俺はクリューシュの制止を振り切り飛び出した。その時……。



―― 相変わらずおまえは浅慮で身勝手な奴だな。だが、らしいと言えばらしい……。手を貸すのは一度だけだ、これでなんとかしろ ――



 確かに聞こえた女の子の声。これは一体……。気が付くと目の前の地面に突き立つ白銀に輝く二つの金属片のようなもの、俺はそれを手に取ると直感する。


「ありがとう、ティアラちゃん……」


 その金属片を持って俺はローリンとぽっぴんの元へと駆け出した。二人を取り囲む炎の壁を竜力転身の力で突き破り、あっと言う間に二人の元へ辿り着くと俺はローリンに肩を貸す。


「しっかりしろローリンっ!」

「な、なにしに来たんですかべんりくん……。くっ……戦うのは私達の役目です。べんりくんは早く逃げて……」


 ぽっぴんも意識を取り戻し、震える腕で身体を支え立ち上がろうとしている。ぽっぴんにも肩を貸し支えてやると、俺は二人の目を順番に見て手にした金属片を渡した。


「これは? なんですかべんりくん?」


 ローリンはわけがわからない様子なのだが、ぽっぴんが震える声でぼそりと呟く。


「ちきしょう……。また、あのちびっ子にしてやられました。こんなの……いつも、大賢者である私の一歩先を行きやがって」


 そう言いながらも口元に笑みを浮かべて、ぽっぴんは受け取った金属片を杖へと装着した。そして、ローリンも同じように聖剣へと装着する。


「これはロストギアムの強化アタッチメントパーツですっ! 大賢者であるこの私が、生まれ変わった二つのギアムに命名して差し上げましょうっ! エクスカリボーンEX! と、ぐるぐるロッドTRYNEXT! いきますよっ、ローリンさんっ!」



 パワーアップした武器を手に、二人は火竜を前に再び構えをとるのであった。




 つづく。

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