第二百二十六話 超古代からの置き土産? パワーアップは愛の力で①

 レイドエルシュナに向かって啖呵を切る俺の後方で困惑の声が上がった。


「な、なんなんですかあれ?」

「ローリンさん、あれがべんりさんの力です……。あんなの……、あんなのべんりさんじゃありませんっ! いつも戦いになると逃げ廻って文句ばっか言ってたのに、なんか気持ち悪くて鳥肌が立ちまちしたっ!」


 おい。なんか物凄く失礼なことを言っている大賢者様がいるのは気のせいだろうか?


 俺がじーっと睨んでいると、その視線に気がついたぽっぴんは、明後日の方向を見ながら口笛を吹くのであった。

 とにもかくにも、俺はこれまでの俺とは違う。戦う力を手に入れたんだ、それも最強の火竜と互角に渡り合えるほどの力をな。今こそこの異世界に来て無双をするチャンスじゃないか、やってやるぜっ! 俺の異世界チート無双ハーレムライフはここから始まるんだっ!


 とは思ったものの、どうすりゃいい? ただ殴るだけでいいのか? なんか必殺技とかないのかな? 試しに、か○は○波でも撃ってみようかしら。


「おいクリューシュっ! あれだ、なんか必殺技はないのかっ?」

「は? 知らん。おまえの力だろう、おまえでなんとかしろ」


 いやいやいや。それこそ知りませんよぉ。俺今までそういうビームとか出した事ないし、出し方を教わったこともないもぉん。


「そういやあれは? 摂理越えとか言うやつ。それはどうやるんだよ?」

「はあ? そもそも摂理越えは必殺技ではない。おまえの肉体は時間超越を繰り返したことにより、神の摂理の枠外にある状態にあると言う事だ。つまりおまえの肉体は神に対してのリーサルウェポンであり。対神特攻型の能力を有していると言っても過言ではない」

「それはつまり……」

「つまり、おまえは神に対しては無類の力を発揮できるが、それ以外の相手に対しては知らんっ!」


 知らんっ! じゃねえええええっ! じゃあなんでおまえ火竜に対してあんな啖呵切ったんだよ? 俺の力なら火竜にも勝てるみたいなニュアンスだったじゃねえかよおおおっ! あれ? やばくね? 俺あいつのことぶっ飛ばしちゃったよね? ひょっとしてめっちゃ怒ってんじゃね?


 恐る恐るレイドエルシュナの方を見ると。余裕の笑みを浮かべて俺のことを見ているのだが目は笑っていなかった。


「ひぃぃぃぃいいっ! ローリンさんごめんなさい。俺、調子に乗ってましたっ! 助けてっ!」


 ローリンの後ろに隠れて懇願するように言うと、蔑むような目で俺のことを見てくるローリンとぽっぴん。二人はもう完全に呆れた様子でレイドエルシュナの前に立ちはだかると、なんだか弾んだ声で言い放った。


「まったくしょうがないやつですっ! 女のケツに隠れるなんていう情けない男のべんりさんは、しょうがないので私達が守ってあげますっ!」

「まったくです。べんりくんかっこ悪いです。いつも調子に乗って相手のことを煽るくせに、最終的には私達に頼るんですから。もっと男らしいところを見せてほしいです」


 嬉しそうに言い放つと杖と剣を構えるぽっぴんとローリン。なんだこれは? 駄目男に頼られると放っておけないの。とか、なんかそんな感じの特殊な趣向の持ち主なのかこいつら? まあいいや。結局こうなっちまうのかと、俺は自嘲気味に笑うと二人に向かって言うのであった。


「やっちまえローリンっ! ぽっぴんっ! おまえらの力を火竜あいつに見せてやれっ!」



―― エクスっ! カリボオオオオオオオオオオオオンッ! ――


―― バーニングゥっ! ヘルっ! フレアアアアアアッ! ――


 聖剣の一撃と獄炎魔法。二人の十八番が炸裂すると渦を巻きレイドエルシュナを飲み込む。その威力はこれまでに見たものとは比べものにならないパワーを感じた。こいつらも戦いを潜り抜ける内に経験値を積んで更に成長しているのかもしれないな。て言うか、元々鬼みたいに強かったのに更に強くなってどうすんだよマジで。


「ぐっ……。なんだこの力は? 地下で喰らったものとはまるで別物だ……。てめえらこの短期間でどうやってそんな力を?」


 二人の技を受け止めながら初めて表情を歪めるレイドエルシュナの問いに、ローリンとぽっぴんは目を見合わせると少し恥ずかしそうにしながら同時に答えた。



「「女の子の気持ちを理解できない人にはわからないことですっ!」」



 レイドエルシュナはまるで理解不能といった顔になると、一瞬力が抜けてしまったのだろう。二人の力に一気に押し込まれて必殺技に飲み込まれるのであった。


「はぁっ、はぁっ……。やりましたねぽっぴんちゃん」

「はい、ローリンさん。はあっ、はぁっ、私達の勝利ですっ!」


 息を荒げながら肩で呼吸をする二人。流石に体力を消耗したらしいのだが、それでもなんだか清々しい表情で俺の方を見ると、親指を立ててニッと笑ってみせるのであった。

 俺もなんだか、いつもの時間が戻ってきたような気がして、つい嬉しくなって、自分の顔が綻んでいくのがわかってしまって、少し恥ずかしいながらも親指を立てて返そうとしたその時。


「まだだっ! あの程度で倒せるほどレイドエルシュナ火竜は甘くはないぞっ!」


 叫んだのはアモンであった。直後、耳を劈くほどのけたたましい咆哮が辺り一帯に響き渡る。


 空が、大気が震えるような。いや、これはマグマのような燃え盛る熱気で、大気が歪んでいるのか?


 その熱に引かれるように俺達は視線を向けると。そこには紅蓮の鎧を身に纏ったドラゴンが両翼を広げて舞い降りて来たのであった。



 つづく。

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