第二百十六話 終わる日常と終わりの始まり②
クロノスフィア・クロスディーン。
ソフィリーナがそう呼んだ男は、長髪を揺らしながらゆっくりと歩み出てくるとソフィリーナに向かって微笑みかける。
「ご苦労だったねソフィ、一年にも渡る慣れない地での生活は長かっただろう?」
それを聞いて声を上げたのはメームちゃんであった。
「ソフィリーナっ! なんのことだ? まさか、おまえは!?」
「ち、ちがうの、わたしは……わたしは」
小さく首を横に振りながら、ぽっぴんを、メームちゃんを、そして倒れる俺を見つめるとソフィリーナは俯きまた黙り込んでしまった。
それは俺達のことをずっと騙しつづけてきたことを悔やんでのことなのか? それとも……。ユカリスティーネが項垂れるソフィリーナの元へ行き肩を抱いてやると、クロノスフィアは続けた。
「もう止められんよ。竜の姫君」
その言葉にクリューシュは奥歯を噛み何も答えない。それを見てクロノスフィアは鼻で笑うとアモンの方を見る。
「君も無駄な足掻きはやめて、人間達と共に世界の終末を迎える覚悟を決めたまえ」
「なん……だと? ふざけるなあっ! いや、今が好機っ、今この場できさまの命をっ!」
アモンが飛びかかるのだが、クロノスフィアがほんの一瞬睨みをきかせると、見えない力に吹き飛ばされ壁面にめり込んだ。
そのまま地面に落下するアモンは、苦悶の表情を浮かべながら尚も立ち上がった。
「か、必ず、必ずやおまえ達神を、必ずや根絶やしにしてやるっ!」
そう言い残し、イーヴィルレーザーを天井に放つと開いた穴の中へ消えて行った。
「さて、残った君達をどうしようか? ユカリスティーネ。君の言っていたのはあの魔族の娘かい?」
クロノスフィアの問い掛けにユカリスティーネは逡巡するも小さく頷いた。メームちゃんは、自分のことを見て不快な笑みを浮かべるクロノスフィアに対して敵意を剥き出しにするも、それを宥めたのはクリューシュであった。
「魔王の娘よ。ここは私が話す下がっていろ」
「ふざけるな。大体の想像はつく。今回のことは全て、あのいけ好かない男の手の平の上であったと言う事だろう? ならばこの場で我が決着をつけてやるっ!」
最早話を聞く気はないメームちゃんであったがそれを止めたのはぽっぴんであった。
「待ってくださいメームさん。私は嫌です。そんな何もわからないまま、あいつの思い通りのままで事が進んで行くのは、やるならあいつの話を聞いてからでも遅くはありません。全てを理解した上で、あいつをぶちのめします」
ぽっぴんの言葉にメームちゃんは渋々従った。そして、クリューシュは時の管理神クロノスフィア・クロスディーンに対峙する。
「クロノスフィア。単刀直入に聞く、おまえは聖戦を起こして何をしようとしている?」
「ちょっと待ってくださいっ! そもそも、なぜ聖戦が起きようとしているのか、そこがわかりません。なぜ急に竜族が攻めてきたのですか?」
確かにそうだ。アモンはこの地上を竜族が取り戻す為と言っていたが、なぜこのタイミングで突如侵攻してきたのか? 聖戦の仕掛け人がクロノスフィアだったとして、どうやって竜族にけしかけたのか? まるでわからない。
ぽっぴんの質問にクロノスフィアは含み笑いを浮かべる。そしてニヤリと笑うと言い放った。
「切欠は4か月前だ。おまえらが起こしたある事件だよ」
「4か月前……まさか、ティアラのことですか?」
「そうだ、あの時にシンドラントの亡霊が蘇らせた絶滅要塞。あの一撃が事の発端だ」
どうしてあれが、ドラゴン達が攻めてくる発端になると言うのか? クロノスフィアの言葉は一言一句、全てが自分の仕組んだことだと言い現わしていた。
時の管理神である自分は、時間を操ることは出来ないが、時を読むことができるということ。そして、ユカリスティーネの星読みの能力と合わせれば現在過去未来、全ての時間の管理が可能であると、それはつまり時間自体を操作できずとも、歴史の操作が可能であると言うのだ。
そして1年と4カ月前、ソフィリーナの所為で俺達が異世界へ転移したことを知ったクロノスフィアは、更に俺達が時の歯車を使って時間と時空の行き来を何度も繰り返していることを知る。
それは、神でさえも許されていない行為であった。そのことを知ったクロノスフィアは、ある計画を思い立った。
それは、女神を使って時間旅行を出来る男を操り再び聖戦を起こすこと。聖戦とは謂わば世界のリセット機能のことである。リセットを行い再び世界を創世することにより、自分がその世界の絶対神になろうと計画したのだ。
メームちゃんは歯ぎしりしながらクロノスフィアに問いかける。
「なぜ、全てを滅ぼす必要がある」
「なぜって? 信仰だよ。我々神々が存在し、その力を発揮するには信仰心が必要なのだ」
「意味がわからんな? なぜ信仰心を集める為に世界の崩壊が必要なのだ」
そこでぽっぴんが気が付く、震える手で杖を握りしめながらその答えを呟いた。
「科学……ですか」
「その通りだよ。流石はシンドラントの忘れ形見だっ! 人は常に、この世界のあらゆる事象、森羅万象に答えを求めた。その結果生み出されたのが我々“神”という存在だ。しかし科学が発達し、それが単なる自然現象であると解明された時、人の信仰心は薄れていってしまった。それでは駄目だっ! 人は、神を敬い、神を恐れ、神を信仰してこそ人であることができるのだっ! わかるかね? だからシンドラントは滅んだのだよっ!」
この世界に絶滅要塞が再び現れたことは、必ずやパラダイムシフトを引き起こすと、クロノスフィア・クロスディーンはそう考えたのである。
そして、ドラゴン達もまたそれに気が付いた。人間が再びこの地上の全てを滅ぼすような兵器を起動させたことを許さなかったのである。
つづく。
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