第百九十八話 裸のままのきみでいて、72の魔星現るの巻

 魔王の元へ行くには誰であろうと絶対に、十二宮を自身の足で上がって行かなければならない。その際、各宮を守護する魔闘神に認められなければそこを通ることは叶わないのだが、それは同じ魔闘神であっても同様だ。

 シータさんや他の二人のことを、魔闘神達がそう易々と通すわけがないとリサは言っているが、一人一人では実力が拮抗している魔闘神達でも、三対一では多勢に無勢であろう。そう思い先を急ぐのだが、自分の宮に着くとリサが俺の手を引き立ち止まる。


「べんりさんはここまでです」

「はあ? ここまで来てなに言ってんだよ?」


 おそらくリサは俺の身を案じて言っているのだろう。魔闘神同士の戦いに巻き込まれたらひとたまりもないと、或いはここから先の激闘に俺は邪魔になると言いたいのかもしれない。

 だとしても俺はそれを聞き入れるわけにはいかない。あいつらが戦っているんだ。俺にシータさん達を止めろと託してくれたんだ。俺だけがこんな所で指を咥えて見ているなんてことをできるわけがないじゃないか。


「お断りだね。俺は絶対にシータさん達を止めるそう決めたんだ。たとえぶっ飛ばされたって俺は、ぶべらあっ!」


 喋っている途中で俺はリサにぶっ飛ばされて床を転がった。


「な、なにすんだよぉ。ばかぁ」

「いや、ぶっ飛ばされてもいいって言ったのでつい」

「本当にぶっ飛ばすんじゃねえよっ! ぶっ飛ばすぞっ!」

「え? いいんですか!?」


 嬉しそうな顔すんじゃねえよ。こいつがドMだってことを忘れてたぜ。

 くそがぁ。なにがしたいんだよこいつは、なんにしてもこんな所でこいつと押し問答している場合ではない。早くしないと取り返しのつかないことになってしまうかもしれないんだ。



―― フフフ……さっそく仲間割れ? 美しくないわね ――



 そこへ突如、宮殿内に声が響く。リサが「何者だっ!?」と叫び周りを警戒すると。奥から現れたのは、なんだか薄絹を体に巻いているだけのエロい恰好の美女であった。


「くっ、とんだ変態が現れましたよべんりさん」


 いやいや、おまえだけには言われたくねえ。それにあのお姉さんなら俺はありだと思う。


「おまえは何者だっ!? 私の守護する宮で一体なにをしているっ!」

「うふふ、その守護するべき宮を空にしていたのはどこの誰かしら? あなた達がコンビニで一悶着している間に、他の仲間達は十二宮を進んでいたのよ」


 な……んだと? あれは時間稼ぎだったのか? だとしたらリリアルミールさんを狙う本隊は別にあって、ローリン達はそれに手を貸していたとでも言うのか?


「そして私はこの第一の宮を守護する魔星72体の一人、グレモリーのア」

「ヴァージン・エッセンシャル・オイルっ!」


 自己紹介の最中に必殺技を浴びせるリサ。これはローリンお得意の汚い先手必勝作戦だが、まあこの際仕方がない。やっちまえっ!


 光り輝く衝撃が水流の如く向かって行くのだが、グレモリーのアなんとかは片手で受け止めるとその衝撃波をいとも簡単に握りつぶした。


「ふふふ、最強の魔族、魔闘神の放つ一撃がこんなにも弱々しいものだなんて、たかが知れているわね。これならわざわざ白銀の魔王の首を獲らなくても私達の楽勝じゃないの」

「今のが私の全力だとでも? なるほど、一筋縄ではいかない相手ということはわかりました。次は本気でいきますっ!」


 リサが再び技を放とうとしたその時、一瞬の内にグレモリーのアなんとかが間合いを詰める。人差し指でリサの額を突くようにすり抜けると雷光が走り動きが止まった。


愛の宣教師ラヴリーミッション! うふふ、リサ? あなたはそこの男性に少なからず好意を持っているわね?」

「はあ? なにを言っているのですか? 私がべんりさんのことを?」

「隠さなくてもいいのよ。周りの女性に気を使って、あなたはいつも自分の本当の気持ちをさらけ出すことができないでいる。違うかしら?」


 言っている意味がわからないとリサは否定し動こうとするのだが、まるで金縛りにでもあったかのように動けないでいる。


「恥ずかしがらないでいいのよ。あなたの恋路、私が手伝ってあげるわ」


 グレモリーのアなんとかがパチンと指を鳴らすと、リサの目が虚ろになり身体から力が抜ける。だらんと腕を下ろすとゆらゆらと揺れながら立ち尽くしていた。


「まずはその武骨な鎧を脱ぎなさい、彼の前であなたの全てを曝け出すのよ」


 その言葉に従うように黄金の鎧をスルスルと脱ぎ始めるリサ。そして下着姿になるとそれにも手をかける。


「グレモリーっ、きさまあああっ! やめろリサっ、自分がなにをしているのかわかっているのかっ!」

「無駄よ。彼女は今自分自身を解き放ち、欲望を解放しようとしているの。女性の真の美しさとは内面にあるものなのよ。どんな宝石やドレスで着飾っても、その美しには敵わないっ! さあリサっ、あなたを縛り付けているすべての物を脱ぎ去って自分自身を解放するのよっ!」


 リサは言われるがままに下着を脱ぎ去り裸になった。そこで俺は下を向き俯いてしまう。それを見たグレモリーのアなんとかは笑いながら俺に言った。


「彼女のことを見なさい。一糸纏わぬあの姿を、これであの子は身も心も丸裸、私の言いなりになったというわけ」

「……迂闊だったな、グレモリー」

「は?」


 俺の言葉にグレモリーは怪訝顔をする。そして直後、険しい顔つきになると冷や汗を垂らしながら声を漏らした。


「な……なんだこの気配は……? 先ほどまでのリサとは比べものにならない力を……」

「だから言っただろ? 迂闊だったなって」

「ど、どういうことだっ!? 私がなにをしたというのだ? あいつは、どこにこんな力を隠していたというのだああっ!?」


 最早恐怖に怯えていると言ってもいいほどにグレモリーは取り乱している。そんなグレモリーに俺は教えてやるのであった。


「あいつは、おまえが思っている以上の変態なんだよ」



―― ヴァージン・オリエンタル・トリートメント ――



 光の濁流がグレモリーを飲み込むとそのまま宙へと舞い上げ消し去るのであった。




 つづく。

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