第百九十九話 奴はとんでもない物を盗んで行きました。

 着ている物を脱ぐと強くなるなんて、まるでドラゴンの紫○みたいな奴だなと思いつつ、敵を倒すとすぐに「先を急ぎましょうと」とリサが駆け出そうとするので、まずは服を着ろと突っ込みを入れてやるのであった。


「それにしても、結局わからずじまいだったな」

「なにがですか、べんりさん?」

「グレモリーのアなんとかの名前だよ」


 なんだそんなことかと、つまらなそうな顔をするリサ。倒した相手の名前なんていちいち覚えていられないしどうでもいいと、今度こそ先を急ごうと駆け出そうとするのだが、ノーパンノーブラだったので、頭を引っぱたいてやり直す様に言うのであった。


「おまえがふざけている所為で無駄な時間を食ったぜ」

「べんりさんが細かすぎるんですよ。なにも頭を打たなくてもいいじゃないですか」


 げんこつをお見舞いされた所を涙目で擦りながら文句を言うリサ。いや、涙目と言うかちょっと頬が紅潮して目が潤んでいる感じ。もうめんどくさい、本当にめんどうくさいから今度ふざけたら無視してやろう。


 グレモリーのアなんとかは、自分のことを72体居る魔星の一人と言っていた。72体、それにグレモリーって、ソロモン72柱にでも準えているのかな? まあアニメやゲーム、ライトノベルなんかに多く触れている現代っ子、特にオタクなら誰でも知っているだろうから説明は省くが、なんにしても敵は少なく見積もってもあと71人も居るのか? て言うかそんな大人数で来ていたらさすがにわかるよな。


 そうこうしている内に俺とリサは次の宮に辿り着く。


「おいリサ、第二宮は確かブッチャーハシムだったよな?」

「そうですけどなにか?」


 言いたくないがやっぱり言わないわけにはいかない。これがまた、例のあのマンガの流れとだいたい一緒であれば、この先に待っているのは残酷な現実だ。きっとリサもショックを受けるに違いない。俺はそれとなくリサに教えてやろうと思うのだが。


「べんりさん。落ち着いて聞いてくださいね」

「え? なに?」

「おそらく、ブッチャーはやられているでしょう」

「えっ? なんでっ!?」


 リサは神妙な面持ちで俺に告げる。どうして俺が言おうとしていたことをリサが先に? そういやこいつ前回も火時計の火がどうたらこうたらとか、このネタを知ってるようなことを言ってたよな? え? マジで知ってんの?


「な、なんでだよ? て言うか俺はべつにそれを知っても取り乱さないけど」

「そうですか、ならいいです。てっきり、ブッチャーのことを心配しているのだとばかり。正直あいつは筋肉馬鹿なので普通に負けると思います。なんて言ったって馬鹿なので」


 ひでえ言い草だな。仮にも同じ魔闘神の仲間だろうが、まあ否定はしないけどさ。


「とは言っても魔闘神だろ? そんな簡単にやられるとは……」

「魔闘神と言ってもピンキリですからね。馬鹿でもなれるんですから簡単なものです」


 おまえそれ完全に墓穴掘ってるぞ、とりあえず脳筋でも変態でもなれるってことだけはわかったよ。

 そんなことを二人和気あいあいと話しながら宮殿の中に入っていくのだが。



「マジかよ……」

「いやぁ……自分で言っておきながらなんですが……ありえませんね」



 先程まで誰かと戦闘を繰り広げていたのだろうか、ブッチャーは両手を前に突出したまま立ち往生しているのであった。なぜか、下半身丸出しで。


「こんな死に方だけはしたくないな……」

「まったくです。どうせなら全部脱いでからにしてほしいものです」


 おまえとは一生分かり合えねえと思うわ。ブッチャーも不本意であっただろう、よくよく見ると両手を前に突き出しているのは、ちょっと待ってズボン上げるからちょっとだけ待って、とでも言いたげに見えて来たよ。


 せめてもの情けにと俺がブッチャーの腰にハンカチを巻いてやっていると突如リサが叫ぶ。


「べんりさんっ! 下がってくださいっ!」


 リサの言葉に俺は反射的にそこから飛び退いた。一体何が起きたのか? わけがわからなかったが、目の前から現れた男の姿を見て俺は理解する。


「おまえ……そのハンカチは……」


 目の前の男は、俺がブッチャーに巻いてやろうとしていたハンカチを、顔の横でヒラヒラとさせながらゆっくりと現れた。


「おやおや、こんなところに泥棒ネズミが二匹迷い込んでいるではありませんか。アナティスティアは一体なにをしていたのでしょうか?」


 アナティスティア? まさかグレモリーのことか? こんなところであいつの名前がわかるなんてな。結構どうでもいいや。

 リサは一歩前に踏み出すと俺のことを庇うように男に立ちはだかる。


「きさまも72の魔星の一人か?」

「ふふふ……ご名答です。私はシャックスのエンリカスっ! 以後お見知りおきを」


 大袈裟にお辞儀をするとハンカチを後方へと投げるエンリカス。ヒラヒラと舞った幸せの黄色いハンカチはブッチャーの股間に引っ掛かり、図らずも局部を隠してくれるのであった。


「きさまが、ブッチャーのことを……」


 そんなエンリカスのことをリサは、怒りを押し殺すような目で睨み付ける。やはり仲間がやられたことに怒っているのだろう。

 そんなリサのことを挑発するかのように、エンリカスは鼻で笑いながら答えた。


「こんな単純な奴が魔族最強とは、魔闘神と言ってもたかが知れていますね。ふふふ、見てください。彼は私好みのビンテージジーンズを穿いていたので頂戴しておきました。サイズもピッタリです。こんな租チ○野郎に穿かせておくには勿体ないってものですよ」

「あれでも、べんりさんのモノよりはマシですけどね」


 おいこら、なにシレっと俺のイチモツをディスるようなこと言ってんだよ。て言うか見せたことねえだろ? そういや漂流してる時に見せたかもしれない。



 とにかく、人のズボンを盗むようなオシャレ泥棒が次の相手かよと。俺はちょっとやる気がなくなるのであった。




つづく。

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