第八章 聖戦のプレリュード~ 十二宮編 ~

第百九十話  神話の時代より続く聖戦の序曲①

 ローリン渾身の右ストレートが火竜の鱗を砕いた。装備している手甲もアダマントで出来ているので、そんじょそこらの鉄の剣より硬いのは納得できるが、それでもパンチでドラゴンの鱗を砕くなんてマジですごいよローリンさん。


 とまあ感心している場合ではない。俺はアマンダを回収した時にこっそり取り返していた物をローリンに投げて渡す。


「受け取れローリンっ! そいつでドラゴンをぶっ飛ばせえええっ!」


 ローリンはそれを受け取ると口元に笑みを浮かべて叫んだ。



「エクスっ! カリボオオオオオオオオオオンっ!」



 光輝くエネルギー波が聖剣から放たれると火竜を飲み込む。その威力はアマンダの放ったものとは比べものにならない。そりゃそうだ。ローリンが全力を出したら台風でさえも消し去ってしまうのだ。ひょっとしたら星でさえも吹き飛ばしてしまうかもしれない。

 なぜ振るう人によってその威力が変わるのか? どんな原理で放たれている一撃なのかはよくわからないが、たぶんローリンがそんだけ怪力なだけなんじゃないかと俺は思うのであった。


 エネルギー波に飲み込まれた火竜はそのまま吹き飛びマグマの中へと沈んでいった。まだ息があるかもしれないと警戒するのだが、しばらく経っても浮かんでこなかったのでもう大丈夫だろうと安堵したその時、俺達は信じられない光景を目の当たりにする。



―― マギナの子達よ。我に逆らうか? ――



 火竜との戦いを静観していた水晶竜が再び口を開いた。それを取り囲むようにいつの間にか現れたのは魔闘神達であった。それも12人全員がこの場に集結している。

 はっきり言ってこれはちょっとテンション上がるわ。魔族の中でも最強と謳われる魔闘神達が一堂に会しているのだ。当然その中にはビゲイニアやリサやシータさん、アルパカやエカチェリーネなど、俺達がかつて戦い苦戦を強いられた奴らが居る。

 魔闘神達を代表するようにビゲイニアが一歩前に踏み出すと水晶竜に向かって言った。


「気高き太古の竜よ。どうか今はお引きください。あなた方とて、こんなところで無駄な争いをしている場合ではない筈です」


―― 無駄な争い? 我ら神竜族はこれまでに、一度たりとて無駄な闘争を繰り広げたことなどない ――


「なればこそです。いくら神々にも匹敵する力を持つ神竜と言えど、我ら魔闘神全員を相手にするには、いささか不利ではないですか?」


 ビゲイニアは強気に出るのだが、その表情は強張り眼鏡を上げる手は若干震えていた。魔闘神が全員揃っているんだぞ? それでも水晶竜を相手に戦うには厳しいとでも言うのか?

 それを察してか、或いは己の力に絶対的自信でもあるのか。水晶竜は余裕と言った様子で答える。


―― 我の力が、たかだがメタモマギナ12体程度相手に? 愚かな…… ――


 水晶竜が目を瞑ると全身が発光しだし眩い光に包まれる。次の瞬間、水晶竜の背後のマグマが噴火するかのように爆発し飛び散った。


 マグマの中から凄まじい声を上げて現れたのは火竜であった。あの化け物、ローリンの一撃を喰らっても死んではいなかった。ところどころ負傷しているようにも見えるが、全身から真っ赤な炎と黒煙を上げ、被っていたマグマを垂れ流している為によくわからなかった。


 水晶竜と火竜、遂に双竜が同時に襲い掛かってくる。魔闘神達は応戦する構えを見せ、そして双竜を前に先頭に立ったのはなにを隠そうこの俺であった。


「魔闘神だけじゃないぜ? この俺っ! 皆の頭脳、司令塔であるベンリー・コン・ビニエンス様を忘れてないかっ!?」


 そしてその横に並び立つのは。


「はんっ! たかだかドラゴン風情がっ! 正真正銘の女神であるこのソフィリーナ様に楯突こうなんて1億光年早いわよっ!」

「人間の力を甘く見ないでくださいっ! 聖騎士ジェイ・ケイ・ローリンとこの聖剣エクスカリボーンが相手になりますっ!」

「遂に私もドラゴンを倒した賢い美少女大賢者ぽっぴんぷりんとして、世界中にその名が轟くのですねっ! ぐふふふふうっ! 私の野望の為に灰になれやあああああっ!」


 魔闘神達に加え、最強のコンビニバイト戦士四人を前に水晶竜はなにやら考え込んでいる様子だ。流石にこれだけの人数を相手にするには不利だと思ったのか、しかしその後方の火竜はやる気満々だぞ? 体中から炎を噴き出して今にも爆発しそうなんだけど?


 すると水晶竜の身体が再び輝きだす。その眩しさに目を瞑りそうになるのだが、俺達は目の前の光景に目を疑った。

 水晶竜と火竜の姿が薄っすらと透き通って見えたかと思うと、まるで霧が晴れるかのように消えてなくなってしまった。

 それは一瞬であった。わけが分からない内にあの巨体が二つ、目の前から消えてなくなってしまったのだ。まるで狐につままれたよう。唖然としていると最後に水晶竜の声だけが響いた。


―― まあいい。おまえ達とはいずれまた、近いうちに相見えるであろう。その時まで…… ――


 辺りが静寂に包まれると、なんとか無事であったことに俺は安堵し、なんだか力が抜けるとその場に座り込むのであった。




 つづく。

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