第百八十九話 反撃の氷炎一体魔法そして砕くは拳!
俺が駆け出すとその後ろをルゥルゥもついてきた。正直一人では甲冑を纏った人間を担ぐのはしんどいだろうと思っていたので助かるのだが、こんなちびっ子じゃあ意味ないかもな。
そしてアマンダの元へと走る俺のことを水晶竜は黙って見ていた。
なんだ? こいつは人間に襲い掛かる凶悪なモンスターってわけではないのか?
対照的に火竜はこれまでにないほど凶悪な声で吠えると俺達に向かって尻尾を振り下ろす。俺とルゥルゥは左右へ飛びそれを回避、火竜の動きは素早かったが見えないわけではなかった。この異世界に来てから数々の修羅場を潜りぬけてきた俺は、もしかしたら常人を越える力を手に入れ始めているのかもしれない。
「いったあああああああいっ!」
俺は後頭部を押さえてその場に蹲った。振り下ろされた火竜の尻尾は、地面の岩を砕きその破片が直撃したのだ。まさか尻尾は囮でそれを躱した背後から攻撃してくるなんて思いもよらなかった。
「くそがぁぁ、これを狙っていたのかぁ。なかなか頭の切れる奴じゃねえかぁぁぁ」
「絶対にちげえよっ! おまえかっこ悪いなっ!」
ルゥルゥの突っ込みは無視して、俺は涙目になりながら火竜を睨み付けるとルゥルゥにだけ聞こえるようにボソリと呟く。
「え? それって? べんりっ!?」
驚くルゥルゥには構わず、俺は大声を上げながら火竜の元へと真っ直ぐ走った。
火竜は俺のことだけを見据えて口を大きく開ける。火炎が来る! はっきり言ってあれを避けるのは俺には無理だ。
火炎の息が辺り一面を覆うと凄まじい熱気がダンジョン一帯に立ち込める。洞穴の中から顔を覗かせると、火竜は水蒸気のようなものを体中から噴出していた。それはまるで熱排気でもしているかのようであった。
俺は後ろを振り返るとこの作戦の功労者にお礼を言う。
「いやぁ、ありがとうメームちゃん。作戦通りだったね」
「うん。べんりとめーむ、あうんのこきゅう」
突然俺とメームちゃん、それにルゥルゥと紅の騎士が目の前に現れたのでソフィリーナやぽっぴん、他の冒険者達は目を真ん丸にしてわけが分からない様子であった。
親指を立ててみせる大活躍のメームちゃんであったが流石にお疲れの様子。うつらうつらとする間もなくぱたりと眠ってしまう。
「な、なんなのよ一体……まあいいわ。それより、これからどうすんのよべんりくん?」
「俺に考えがある。ぽっぴんと、あとミリガンシアさん」
俺は二人を呼ぶとある作戦を耳打ちした。ミリガンシアは怪訝顔をしながら「上手くいくのでしょうか?」と半信半疑であったが、ぽっぴんは目から鱗と言った感じでなんだか嬉しそうに声をあげる。
「なるほどっ! べんりさんにしてはなかなか博識ではないですか。試してみないとわかりませんが、効果はあると思いますよっ!」
俺の考えた作戦、これがはたしてドラゴンに効果があるかどうかはわからない。ぶっつけ本番の賭けになるかもしれないが、これが効けば火竜の鱗の鎧を突破することができるはず。
そしてそれを成功させるにはもう一つ。だんまりを決めている水晶竜がなにも手出しをしてこないことが必須ではあるが。
完全に綱渡りの作戦であったが、それに皆が乗ってくれた。
「よっしゃっ! そんじゃあ頼むぞ二人ともっ! 囮は俺の役目じゃあああああっ!」
叫ぶと俺は洞穴から飛び出した。その様子を身を伏せて隠れていたローリンが察して出てこようとするのだが、今は動くなと俺はローリンを制止する。
俺は火竜を攪乱しようと走り回る。近づいてみてわかった。火竜の灼熱の炎の様に真っ赤だった鱗はどす黒く変色していた。
火竜が雄叫びを上げると俺は手で耳を塞ぐのだが、鼓膜がビリビリと鳴り痛い。頭がガンガンする。それでも足を止めるわけにはいかないと走ろうとするのだが、火竜が羽ばたくと俺は風圧で地面を転がった。
岩が剥き出しの地面を転がったのだ。体中が痛むのだがそれでも俺は火竜の気を引こうと立ち上がり走り出す。
そして俺のことを追ってこようと洞穴に背を向けた瞬間。火竜の背中で爆炎が上がった。
ぽっぴんの放った獄炎魔法が命中したのだ。炎を身に纏う火竜に炎の攻撃など意味がないと思うかもしれないが、俺は先程の熱排気っぽい動作と、鱗の状態を見てある考えが浮かんだのだ。
立て続けに火炎を吐いた火竜はおそらく、自分の火炎の熱でダウンしてしまわないように今はクールタイムに入っているのではないかと。
しかし、鱗の防御力は健在であった。ぽっぴんの魔法を喰らいながらビクともしない火竜。それでもぽっぴんは魔法での攻撃を続ける。背中の一か所に集中して獄炎魔法を浴びせ続けると、黒い鱗の一部が赤く変色し始めていた。
そして、すかさず次の魔法が放たれた。
「ニヴルヘイムっ!」
でたっ! これはミリガンシアだ。俺をスライムから救った氷雪系最強魔法。そのあまりにも厨二臭いネーミングに口にするのはちょっと恥ずかしいのだが、凄まじい冷気が火竜の熱せられた背中へと浴びせられると、赤く変色していた鱗が一気に冷やされる。
すると狙い通り。熱せられて膨張していた部分が急激に冷やされた為に亀裂が入った。
「今だローリンっ!」
俺が叫ぶのと同時であった。
「勝機っ! 逃しませんよべんりくんっ!」
既に火竜の背後に回り跳躍していたローリンは、亀裂の入った部分に目がけて拳を突きだすのであった。
つづく。
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