第百九十一話 神話の時代より続く聖戦の序曲②
ドラゴンを撃退し、聖剣も取り戻すことができた。
地下に閉じ込められていた冒険者達は、ビゲイニア達が降りてきた場所から無事地上に戻ることができた。ルゥルゥとアマンダはいつの間にか姿を消してしまっていたが、まああいつらならたぶん大丈夫だろう。聖剣も無事戻って来たのでローリンも、追う必要はないと言っている。
そういうわけなので。
「これにて一件落着っ! と、行きたいところだけど」
俺は眼鏡のことを見ながら眉を顰めた。
「なんですか?」
「いや、まあ一応礼を言っておこうと思ってな」
「ほほぉ、あなたにしては殊勝な心構えですね」
ちっ……いちいちムカつくやつだぜ。まあ、こいつらが来てくれたおかげで無事だったと言えなくもないので、しょうがないから一応お礼は言っておいた。
「そう言えば、獣王は来てないのか?」
「彼の実力では我々の戦いにはついてこれないでしょうから何も知らせていません」
うわぁ、相変わらず仲間外れなのかあいつ、絶対に後でこのことを知ってまた拗ねるんだろうなぁ。
スヤスヤと眠るメームちゃんのことを抱きかかえながら涎を垂らしているリサのことを横目で見ると、メームちゃんは寝ながらリサのことをぶっ飛ばすのであった。
「それでは、我々は戻りますのでメイムノーム様のことをよろしくお願いします」
そう言って頭を下げると魔闘神の面々は帰って行くのだが、去り際にシータさんがなにやら不安気な表情で俺に話しかけてきた。
「べんりさん。その……」
「どうしたんですかシータさん?」
「いえ……その……」
なにか言いたげな様子であったが「なんでもありません」と言うと、シータさんもその場を去るのであった。
なんか引っ掛かるがとにかく疲れた。今はもう帰って温泉にでも浸かってひと眠りしたいところだ。他の皆も同様、パワビタンを飲んだとはいえ、ドラゴンを相手にして緊張しっぱなしだったから相当疲れた様子であった。
「さて、本当にこれで一件落着だ。帰ろうぜ」
俺達はコンビ二へと戻るのであったが……あいつら、なんで全員で降りてきたんだろう?
「ロ、ロロロ、ローリン様あああああああっ! 一大事ですっ! また戦争が始まってしまいましたぁぁぁぁ」
開口一番、涙目でローリンの元へ駆け寄ってきたのはサーヤであった。
コンビニに戻ると俺達が戻ってくるのを待っていたのはサーヤと、そしてエミールであった。
戦争が始まってしまう? 俺達は怪訝顔をしながらエミールの方を見るのだが、いつになく真面目な表情になるとエミールはローリンに向かって言う。
「聖騎士ローリン様。軍からの招集が掛かっております。すぐに出立のご準備を」
「あー無理無理、なに言ってんだよエミール。俺達は今日疲れてるから明日にしてくれってオルデリミーナに言っといて」
俺はいつもの調子で言うのだがエミールは眉一つ動かさず冷たい口調で俺に告げた。
「べんりさん、これは冗談ではありません。ドラゴン討伐の話は聞いています。しかし、皇帝陛下直々に聖騎士ローリン様への招集命令が出ているのです。この命令は絶対です。逆らうのであれば、近衛騎士団である私はあなたを斬らなければなりません」
ごめんなさい、ちょっと悪ふざけが過ぎました。
エミールも申し訳ないという表情で俺のことを見る。今は急いでいるので詳しい事情はサーヤに聞いてくれと、準備もそこそこにエミールとローリンは地上へと行くのであった。
そして残されたサーヤはと言うと、俺達三人の視線を浴びてオドオドとしながら口を開く。
「あ、あああ、あのその、せ、僭越ながら、わた、私から皆さんに、その、事情を説明して……」
完全にキョドってるじゃねえか。どうやら俺達がドラゴンを撃退したと言う話をミリガンシアから聞いていたらしく、マジでビビっているらしい。
むふふ、いっそのことそれを利用して色々とやっちゃおうかな? なんてゲスいことを考えていたのが顔にでていたのだろうか。サーヤは涙目になりながらマジで引き気味に俺に言うのであった。
「あ、あああ、あの、その、たべないでください」
「たべねーよ」
なんだこのやりとりは、どっかで聞いたことあるような気がするけど気のせいだろう。それを見ていたソフィリーナが呆れ顔で俺の肩を叩く。
「べんりくんがエロい目でこの子の事を見てるから怯えちゃってるじゃない。ねぇ? ぽっぴん」
「えぇ、まったくもって変態ですねべんりさんは。思えば初めて私と会った時もおっぱいを揉んだり、キスを迫ったりと、セクハラエロ親父そのものでした」
それを聞いたサーヤはますますドン引きして俺から距離を取るのであった。
そんなわけで、とりあえず店の中に入ると一息ついてから俺達はサーヤの説明を聞くことにした。
「皆さんが地下へドラゴン討伐に向かってからすぐでした。私が騎士団の元へ救援要請に向かおうとしていた時です。火急を報せる早馬が城内へと入って行きました」
神妙な面持ちで話し始めるサーヤ。俺達もこれは茶化す場面じゃないなと空気を読み、黙ってサーヤの話しに耳を傾ける。
どうやら北方の軍隊が北の山脈を越え進軍して来ていると言うのだ。それは数にしておよそ5万。大軍隊である。そんな数を引き連れて山を越えようなんて、これは本気で殺りにきているとしか思えなかった。
しかし驚くべきはそれだけではなかった。軍隊の中におかしな連中が混じっているというのだが。
「軍隊の中にはモンスター達も居て……それを率いているのは魔族らしいのです」
サーヤの言葉に、集会所でルゥルゥの言っていたことを思い出す。
北の魔王軍。
その言葉が俺の脳裏から離れないのであった。
つづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます