第百八十話 消えた聖剣と迫りくる脅威②
ローリンは怪訝顔をしながら俺達のことを見つめている。
俺達はバックヤードから飛び出すと、とにかく今すぐにローリンにバレるのは得策ではないと店内で時間稼ぎを試みることにしたのだ。
「お、おかえりローリン。早かったじゃないか」
「た、ただいま。三人揃ってお出迎えなんてどうしたんですか?」
俺のことを睨みながらそう言うローリン。はっきり言って超疑わしい目つきで俺達のことを見ているのだが、急にぺこりと頭を下げると謝ってきた。
「店をほったらかして飛び出してしまってごめんなさい。べんりくんの話もちゃんと聞かないで変な風に疑ってしまって、べんりくんは困っている人のことを放っておけないタイプだから、きっとなにか事情があってあの子を連れて来たんですよね?」
「あ、あぁぁ、ま、まあな」
やばいやばいやばい、そいつがエクスカリボーンを盗んでいったなんて知ったらローリンはどう思うのだろうか? 怒り狂うのか? 嘆き悲しむのか? どちらにしろその感情はルゥルゥだけではなく俺にも向けられることは間違いない。下手をしたらソフィリーナとぽっぴんも巻き添えを喰らう恐れがある。それをわかってか、二人も全力でエクスカリボーンが盗まれたことを隠そうとしていた。
「まあとにかくいいじゃないそんなこと。店もあんまり混んでいないし、今日はもう疲れたでしょローリン? 今から温泉にでも行かない?」
「え? でもソフィリーナさん。まだお昼過ぎですよ?」
「いいじゃない、いいじゃない。たまにはのんびり昼間から温泉にでも浸かって疲れを癒しましょうよ」
ソフィリーナの強引な誘いに俺の方をちらちらと見ながら躊躇するローリンであったが、俺が「それはいいそうするといい。なんだったら2~3時間くらい入ってくるといい」と言うと、不承不承な感じではあるが「それならば」と承諾した。
「なんか申し訳ないですけど折角ですから。じゃあロッカーに着替えを取ってきますね」
「ちょおおおおおおっと待ったああああああああっ! なにを言っているのですかソフィリーナさんっ! 今温泉は清掃中だから夕方過ぎまで使えませんよっ! こんちくしょうっ!」
バックヤードに着替えを取りに行こうとするローリンに、咄嗟に機転を利かせて止めるぽっぴん。
危なかった。あのままローリンが着替えを取りに入って、ロッカーを開けたら終わりだった。ギリギリのところで一命を取り留めたぜ。「そうだったけ?」とわざとらしく頭を掻いて惚けるソフィリーナのことを恨めし気に睨み付けてやると、ごめんごめんと目で謝ってくるのであった。
くっそぉ。この後どうすればいいんだ。いずれバレるにしても、とにかく今すぐこのことをローリンに告げる勇気は俺達にはない。できれば少しずつやんわりと真実を告げることによってお互いの精神的ショックを和らげたい。
「じゃあ、私はこのままお店番に戻りますね。そういえば品出しの途中だったことも忘れてました」
そう言うと再びバックヤードにストックを取りに行こうとするローリン。
「だああああっ! ストップっ! ストップ・ザ・ローリンっ!」
「なんですかべんりくん? ストックを取りに行きたいんですけど」
「今は駄目だっ! バックヤードの水場の排水溝が溢れて酷いことになっているんだ。だから皆こうして外に出てきてたんだよ」
我ながらバレバレの嘘だとは思う。ローリンも完全に疑わしい目で俺のことを見つめてなんだか冷たい口調で聞いてくる。
「ふーん……だったら掃除しなくちゃ」
「いやいやいや、あれはもう素人でどうこうできるレベルじゃない。A25とマーク2が帰ってきたらやらせるから、とにかく今はドアを開けるな」
「でも私の鎧とかエクスカリボーンとかも気になりますし」
その言葉にギョッとして固まる俺達。平静を装おうと心掛けてはいたが、やはりローリンの口からエクスカリボーンと言う単語を聞くと冷静ではいられなかった。
そしてローリンは俺達のそんな反応を見逃さない。俺の顔を覗き込むとニコニコと笑いながら質問してくる。
「べんりくん。なにか隠してません?」
「い、いぃえぇ、な、なにもぉぉぉ?」
「私の目を見て話してくれませんか?」
顔近いよ。ローリンは俺の目と鼻の先まで顔を近づけると、ニコニコと笑いながらではあるが、明らかに苛立ちの籠った声で問いかけてくる。俺が答えられずにいるとソフィリーナとぽっぴんに対しても同じように質問するのだが、全員黙ったまま何も答えない。
これじゃあ完全になにかを隠してますよと言っているようなもんなのだが、今更ほんとうのことを言うわけにもいかずにいると、再びローリンがバックヤードの中に入って行こうとした。
「や、やめるんだローリンっ! 中は危険だっ! 今入ったら死ぬぞ(俺達が)」
「そうよローリンっ! 今日はもう諦めて帰りましょう。わたしとぽっぴんは寝床がないから家に泊めてっ!」
「ローリンさん中は今やばいですからっ! なにがやばいってあれです。臭いですっ! めっちゃ臭い何かがあるから、もうそれは臭いですよおおっ!」
三人で必死に止めようとするのだが、人間戦車ローリンの前に成す術もなく腰にしがみついたまま引き摺られていく。俺達の必死の抵抗も虚しくローリンは自分のロッカーの前に辿り着いてしまった。
そしてロッカーの中を確認すると膝から崩れ落ちるのであった。
つづく。
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