第百七十九話 消えた聖剣と迫りくる脅威①
「じゃあまあ、とりあえず奥で待つか。しばらくしたらあいつも戻って来るだろうし、お茶でも出すよ」
「それはかまわないがべんり。あの珍妙な恰好をしている奴らはなんだ? あれもおまえの女なのか?」
ソフィリーナとぽっぴんのことを無視する俺であったが、ルゥルゥはこの馬鹿二人の放つ存在感をスルーすることはできなかったようだ。できれば触れないで欲しかったんだが仕方ない。
「ちょっとべんりくんっ! なんで無視するのよ。ローリンのこと探してんでしょ? 私達が見つけてあげるわよじっちゃんの命をかけてっ!」
「そうですべんりさん。真実はだいたい一つです。私達はそれを知っているっ!」
やっぱめんどくせえな。どっかの漫画の登場人物の決め台詞みたいなことを言いやがって、おまえらは暇だから遊びたいだけだろ。
「うるせえな。いちいち探しに行かなくてもその内戻ってくるからいいよ」
「なぁにを悠長なことを言っているのよっ! もしかしたら今頃ドラゴンが現れてその討伐の為に召集されてるかもしれないじゃないっ! そうなったらその子はしばらくローリンに会えないかもしれないのよっ!」
そんなことになってたら、おまえらが行ったところでどうにもならねえだろ。ぐずぐずと文句を言い続けるソフィリーナとぽっぴんを後目に、俺はルゥルゥのことを見るのだがよくわからずに首を捻っていた。
「て言うか、制服のまま出て行ったんだから、エクスカリボーンと鎧を取りに戻って来るだろ」
「ああもうっ、ああ言えばこう言うっ! そんなこまけえことはいいんだよっ、探偵ごっこさせろよっ!」
「やっぱそれが本音か。おまえらのおふざけに付き合うほど俺は暇じゃない」
「はあ? いつも、暇だー暇だーって言ってるくせになにが忙しいのよ?」
「ローリンが出て行っちまったから店番の代わりが居ねえだろうがっ! てーかおまえらも手伝えよっ!」
そう言うとソフィリーナは口笛を吹いてそっぽを向く、ぽっぴんは「そう言えばそろそろプリンの時間でした」とか、わけのわからないことを言いながらこの場を離脱しようとしたので、俺は首根っこを掴んで逃がさなかった。
「店番なんてA25とマーク2にさせとけばいいじゃないっ!」
「あいつらは家事全般をやってんだぞ。これ以上扱き使うつもりか」
「はあ? あの子達は家政婦ロボなのよ? その為に生まれてきたんだから、人間に扱き使われることはむしろ至福の喜びでしょうよ」
へらへらと笑いながら、なに馬鹿な事言ってんの? って顔で俺のことを見るソフィリーナ。
なんて奴なんだ。こいつ本当に女神かよ? 単なるクズじゃねえか、まあ知ってたけど。俺は呆れ果て、醒めた目でソフィリーナのことを見ているとぽっぴんがキョロキョロとしながら何かを探している。
「どうしたぽっぴん?」
「いえ、あのちっぱい娘はどこに行ったのですか?」
そう言えばルゥルゥの姿が見えない。俺達が口論している間に消えてしまっていた。トイレにでも行ったのだろうかと思っていると、丁度そのトイレから出てきたのはモヒカン頭のおっさんであった。
俺達がじっと見つめているのでなんだか照れくさそうに「あ、トイレ借りてたよ」と言うと、申し訳なそうに煙草を買って出て行くのであった。
その後、店内をくまなく探したのだがルゥルゥは見つからなかった。
「か、神隠しにでもあったのか?」
「なにを馬鹿なことを言っているのですか。そんな非科学的なことがあるわけないでしょう。こういう時は文明の利器、監視カメラで確認するんです」
呆れ顔でぽっぴんに言われバックヤードに行くと監視カメラを確認する。そこに映っていたものを見て俺達は全員血の気が引くのであった。
「ど……どうすんのよこれ……」
「いや……どうすんのと言われても……どうしよう?」
「こ、これはまずいですよべんりさん。今ローリンさんが戻ってきたら……」
三人でローリンのロッカーの中を見ながら青褪める。
監視カメラに映っていたのは、聖剣エクスカリボーンを抱えたルゥルゥがバックヤードから出てきて、抜き足差し足俺達の横を通り過ぎ店の外へと出て行く姿であった。
つまり、聖剣エクスカリボーンが盗まれたのである。
「おい探偵姉妹……依頼がある」
「女神探偵事務所は惜しまれながらも閉鎖しました」
顔を背けながらそう言うソフィリーナの両肩を掴むと、俺はもうどうしようもないくらいに動揺した声で言う。
「出番だぞ名探偵っ! 聖剣が盗難にあったんです探してくださいっ!」
「知らないわよ……け、警察に相談しなさい」
「おまえ探偵ごっこしたいって言ってたじゃねえかよっ! おいっ、こっち見ろよっ! 目を背けんじゃねえっ!」
正直俺はマジで焦っていた。このことをどうやってローリンに説明すればいいんだ? て言うか言えるわけがない。俺の連れて来た女が聖剣を盗んで行きました。それに気が付きませんでしたなんて言おうもんならたぶん殺される。あいつが本気で怒ったら俺なんて紙屑同然、ワンパンで死ぬだろう。
するとぽっぴんが背後で大声を上げる。
「ああああああああああああっ!」
「ど、どどど、どうしたぽっぴんっ!?」
振り返ると酷く慌てた様子でぽっぴんは監視カメラのモニターを指差した。
「ロ、ローリンさんが帰ってきました」
つづく。
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