第百五十話  何度も失敗を繰り返して生まれたものが今と言う時代①

「はあっ、はぁっ……コロナっ、バアアストぉぉぉおおらああああっ!」


 もう何発放ったのだろうか。息を切らせ声を枯らし、魔法を撃ち続けるぽっぴんであったが、この要塞を破壊するどころか足止めもできず、傷一つ付けることさえできずにいた。


「くそおっ! もう一発」

「もうやめろぽっぴん、何度やっても無理だ」

「くそったれがあっ! 一体何でできてやがるんだこの建物おっ!」


 アダマントでできてるって言ったのはおまえだろうが、ぽっぴんの魔法をまるで受け付けないなんて、やはりこの要塞の守りは鉄壁のようだ。ローリンのエクスカリボーンでも傷つけるのは難しいかもしれない。そもそも、あれもロストギアム、今では失われたシンドラント文明の武器だとティアラちゃんは言っていた。と言う事はこの要塞はそれらの攻撃にも耐えうる設計になっているはずだ。

 どうしたものかと悩んでいるとソフィリーナが声を上げる。


「まずいわべんりくんっ!」

「今度はなんだよぉ。俺に言われてもどうすることもできねえぞぶっちゃけえ」


 こいつら、なんか問題があるとすぐに俺に報告してくるけど、俺にだってできることとできないことがあるんだよ。いつもこいつらが振ってくる厄介事は、大抵俺には解決できないことばかりだし困っちゃうよねほんとに。


 そんな俺の言葉は無視してソフィリーナは慌てた様子で前方を指差しながら叫ぶ。


「このままだとぽっぴんの村の上を通るわよこれっ!」


 眼下に見えてきた村を見て俺とぽっぴんは青褪める。


 これはまずい。非常にまずい。あそこにはオーウェンさんが、マーサさんが、村長のばばあがいる。このままでは村に大損害を与えるどころか、村人たちが犠牲になってしまうかもしれない。


 この窮地に俺はマジで焦る、なんとかすぐにこの絶滅要塞を止めなければと焦れば焦るほどに、どうしていいのかわからずただ慌てふためいているとぽっぴんに杖で頭を叩かれた。


「落ち着いてください二人とも、村の皆なら大丈夫です。火山の噴火や洪水なんかの大災害に備えての避難訓練もしています。今頃みんな安全な場所に逃げているはずです」


 杖をギュッと握り締める手は震えていた。それでも気丈に振る舞うぽっぴん。今この場で家族の安否が一番心配で仕方ないのはぽっぴんの筈なのに、そんな不安を押し殺して俺達のことを励ます姿に恥ずかしくなってしまった。


「心配するのは全てが終わってからにしましょう。今はこいつを止めることだけに集中するんです」

「わかったわぽっぴん」


 ソフィリーナが返事をして、俺は大きく頷いた。


 落ち着いてきた所で俺は二人に、今思いついたことを話した。


「外からの攻撃が駄目なら中から攻撃するしかないんじゃないか? ロボット兵達の攻撃で壁を破壊したり、ローリンの攻撃でも床や壁が壊れていたから内部は弱い可能性があると思うんだ」

「なるほど。そもそもこれは外部からのどんな攻撃も受け付けない、難攻不落の要塞と呼ばれていました。であれば内側から破壊されることなんて想定していないかもしれませんね」


 俺の提案にぽっぴんは目から鱗、なるほどなるほどと感心した様子で何度も頷いていた。


「だとしたら狙う場所は一つ、この要塞の心臓部エンジン。つまりはおそらくメームちゃんが囚われている所が俺達の目指す場所だ」


 こういう巨大兵器を破壊する場合、大抵がエネルギー炉を破壊して暴走させるってのが定石だ。上手くいけばメームちゃんを助け出し、時の歯車を取り戻して、絶滅要塞を破壊することが一辺にできるかもしれない。

 とにかく急いでその場所を探そうと走り出そうとすると、ソフィリーナがじっと考え込んだまま動かない。


「どうしたんだソフィリーナ、時間がないんだ急げよ」

「いいえべんりくん。わたしはここに残るわ」

「はあ? なに言ってんだよ? 残ってどうするんだよ」


 ソフィリーナはいつになく真剣な表情になると、俺とぽっぴんを順番に見て告げた。


「今からエンジン部を探していたら間に合わないわ。その間に村はめちゃくちゃよ」

「でも、そうするしか他に手はないだろ」

「だから、わたしが時間稼ぎをするからべんりくんとぽっぴん二人で行って」


 そう言うとソフィリーナは振り返り両手を横に広げると大声で魔法を唱えた。



「ゴッデス・エターナル・ジェイルっ!」



 突如前方に現れる巨大な魔方陣、そこから光の鎖が現ると要塞から生えている脚に絡みついた。おそらくは四方から拘束しているのだろう。瞬く間に巨大な光の鎖が絶滅要塞の動きを封じ込める。それでも尚、前へ進もうとする要塞。


「さらにもう一縛りっ! ゴッデス・エターナル・ジェイルっ! 緊縛之二乗っ!」


 なんだかSMっぽい感じに聞こえるのはなんだろう? まあいいや。


 ソフィリーナの魔法で完全に要塞の動きが止まった。ギシギシとそこら中から軋む音が聞こえてくる。駆動部に負荷がかかっているのか、脚の関節部分などから白い蒸気が噴き出していた。


「ふにゃぁ~~~~。もううごけまへ~ん」


 弱々しい声をあげながらソフィリーナはヘナヘナとその場に突っ伏してしまう。どうやらかなり体力を消耗したようだ。

 ソフィリーナを壁にもたれ掛らせると俺は頭をぽんぽんと優しく叩いて褒めてやった。


「やっぱおまえってすげえな。大したもんだぜ」

「あったりまえでしょ。わたしは女神なんだから、とは言ってもこれだけの大きな物を拘束するのは骨が折れるわ。流石にもう限界、少し休んで回復したら後を追うから先に行って」


 帰ったら好きなだけ酒飲ませてやるからゆっくり休めと言って、俺とぽっぴんはソフィリーナを置いて先を進むのであった。



「とは言ってもどこを目指すのですかべんりさん?」

「わかんねえ。わかんねえけどとりあえず上だっ!」

「なぜ上なんですか?」

「さっきのあの大砲。あんなエネルギーを生み出す程のジェネレーターがそんな遠い場所に設置されているなんて思えない。だとすればエンジンも近いんじゃないのか?」


 俺の説明を少しばかり疑問に思いながらも、渋々納得するぽっぴん。まあ俺は理系じゃないからな、そういうのはよく知らんよ。


 どっちかと言うとこっちが本音。ラスボスが下の階で待ってましたなんて締まらないだろ? そういうもんなんだって。ってのは言わずに、俺とぽっぴんは要塞内に戻ると階段を駆け上がるのであった。




 つづく。

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