第百四十九話 血反吐に塗れ辿り着く復讐の果て④
「だとしても俺はティアラちゃんのことを……」
「わかっていますべんりさん。何も命まで取るとは言っていません。ちょいとキツイお灸を据えてやろうと言っているのです」
いやいやいや、おまえあれ、完全に
とにかく後を追ってティアラちゃんのことを止めなければ、どうやればいいのかわからないけれど、いざとなったらふん縛ってでも止めるしかない。
急いで先を進もうとすると、突然“ズシン”と激しい縦揺れを感じた。地震かと思ったが、すぐにこの建物自体が動いたのだと直感する。ゴオンゴオンとなにかが振動するような音が響き渡ると、間もなくして小さな横揺れを感じた。
「……移動してねえかこれ?」
「はい、間違いなく動いてますね」
俺の問い掛けに冷や汗を流しながら答えるぽっぴん。
つまり、なんかのお城だと思っていたこの建物自体が“絶滅要塞”であったと、俺達はそこで初めて気が付いた。まさか、既にその中に居たなんて思いもしなかったと焦っていると、いつの間にか先を進んでいたソフィリーナが前方で大きな声をあげる。
「ちょっとべんりくんっ! 早く来て! これ見てよ早くっ!」
「うぅるせえなぁ、なんだよ? 今それどころじゃねえんだよ」
文句を言いながら声のする方へ進むと外の明かりが射しこんで見えた。ちょうど外壁の部分に出てきたらしく、俺達は目の前の景色に絶句する。
前方の小山を見下ろすような恰好で目の前の景色が大きく上下に動くと、左方向へスライドした。この建物は完全に移動している、しかも超デカい。
「ちょっとべんりくん危ないからやめなさいよ。高いところ苦手なんでしょっ?」
「そんなこと言ってる場合じゃねえっ! なんだよこれ馬鹿じゃねえの? 山よりでけえ城が動いてんぞっ!? マジ馬鹿じゃねえの? シンドラント馬鹿じゃねえのっ!」
壁から身を乗り出して建物の外観を見回すが、デカすぎて全体像はわからない。もうスケールのアホさ加減に呆れていると、城のてっぺん辺りからなにか筒の様なものが伸び始めた。
俺はそれを見上げたまま嫌な予感がした。エンジンが高速で回転するような甲高い音が鳴り出すと、筒の先が淡く光り出す。
「やべえ……」
呟いた瞬間、パッと辺り一面が明るくなった様に感じると、水平線の向こうで光の柱が立った。
そして雷の様な音が轟くと爆発が起きたのだ。山の向こうで爆炎が上がり、しばらくして小さな衝撃波がここまで届いた。
「嘘でしょ……信じられない、こんな兵器が存在するなんて」
ソフィリーナが真っ青になりながらそう零し、ぽっぴんは爆発のあった方角を睨みながら唇を噛んだ。
そんなことより、今の砲撃を受けた場所のことが気になる。どこなんだあれは? まさか帝都のある方角じゃねえよな? じゃなかったとしてもどこか街とか、村とか、人がいるような場所に撃ち込まれたのだとしたら、あんな大爆発じゃ一瞬で沢山の命が奪われてしまったのではないか?
そう考えると俺は血の気が引いた。そんな恐ろしいことをティアラちゃんがやったと言うのか? それだけではない、間接的とはいえ俺達の所為でもあるのだ。俺達がこの異世界に来たことにより多くの命が失われたかもしれない。そう思うと俺は事の重大さに心臓がバクバクとうるさいくらいに鳴り苦しくなった。
『今のは挨拶代りのようなものだ。着弾地点は海の上、海岸線の村や町には多少の津波被害はあるかもしれないがな』
建物中に木霊するティアラちゃんの声、どこかにスピーカーが付いているのだろう。こちらからの声が届くかはわからないが俺は叫んだ。
「やめろおっ! あんなもんを使って本当に世界を滅ぼす気かよっ! てめえふっざけんじゃねえぞっ!」
俺の声が聞こえたのかどうかはわからないが、ティアラちゃんはそのまま続ける。
『あの光は帝国のみならず、他の大陸の国々にも見えていただろう。今頃あれを見て、国を治める者どもはさぞ慌てふためいているだろうな』
可笑しくて仕方ないと言った様子が、声の調子からも見てとれる。なにが可笑しいのか、俺は初めてティアラちゃんに対して怒りを覚えた。
『あれだけの威力を目の当たりにしたのだ。どこぞの国が天をも貫かんばかりの威力を見せた大量破壊兵器を開発したとなれば黙っていられるか? 見ものだぞ。絶滅要塞の登場により、今をもって世界は破壊と殺戮の道を歩み始めたのだあっ!』
ティアラちゃんの言っていることはあながち間違ってはいない。あんなとんでもない威力の兵器なんてこの世界には存在していない。今はあの光がなんだったのか理解できずに慌てているだけかもしれないが、あれが人の手によって作り出された兵器の一撃だと知ったら人々は恐怖するだろう。
そしてそれはおそらく、戦争の抑止には成り得ない。全員が同じものを持っているのならまだしも、たった一つしか存在しない人類を滅ぼせる兵器なんて世界の癌でしかない。世界の覇権を狙っている者からすれば絶対に手に入れたい代物だ。或いは、その為に兵器の開発競争が起こる可能性もある。
もう、ティアラちゃんを止めるだけでは済まない状況になってしまった。ティアラちゃんの野望を止める為に、メームちゃんを助け出し、時の歯車を取り戻したら、この要塞を破壊して二度と動かないようにしなければならない。
それにしても、古代の戦争によって家族を奪われたティアラちゃんがどうしてこんなことを、世界に戦争の火種を蒔くような真似をするのか? 憎しみと怒りだけに駆られて、本当に憎むべきものがなんなのかも忘れてしまったのだろうか?
「こんなことして……ティアラちゃんは……ティアラちゃんの辿り着く場所は絶望しかないじゃないか……」
俺が俯き押し殺すような声で言うと、コツンと軽く頭を叩かれた。
頭を上げるとぽっぴんが、杖を降ろしながら俺に言う。
「絶望の先は終わりではありません。私がこの悪魔の兵器を破壊してやりますから、べんりさんは安心して見ていてくださいっ!」
そう叫ぶと、ぽっぴんは要塞の真下に向けて魔法を放つのであった。
つづく。
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