第百二十五話 希望と言う名の船に乗り③
未来がむちゃくちゃになる。
ユカリスティーネさんの言葉に俺は眉を顰める。時の歯車を悪用している者、それはティアラちゃんの可能性が高い、もちろん別の誰かが過去に行って悪さをしている可能性もあるが、今俺が思いつく人物と言ったらティアラちゃんくらいだ。
そんな俺の思いに気が付いたのか、ユカリスティーネさんは俺のことをジトーっと睨みながら聞いてくる。
「今、時の歯車はどこにあるんですか?」
「いや、その……ぬ……」
「ぬ?」
「盗まれちゃった」
お茶目な感じで誤魔化してみようとしたが、当然そんな手段が通用するはずもなくユカリスティーネは怒り心頭、俺の胸倉を掴みながら声を荒げる。
「どういうことですかああああっ!? メームさんの体内から取り出せたのならなんですぐに返しに来なかったんですかっ!? あれは危険なものだってあれほど言ったじゃないですか、ソフィリーナも一緒に居たのになにやってたんですかあああっ!」
だってしょうがないじゃん、取り出すことができたと思ったらすぐに盗まれちゃったんだもん。ほんとすぐよ? ほんのちょっと目を離した隙なんだからね? それよりも苦しいから手を離してよ。結構乱暴なのねこの子も。
息が詰まり俺がぐったりなり始めると、ユカリスティーネさんはようやく手を離してくれるのであった。
「なるほど……砂時計は別のことに使ってしまったのですね。そんで、別の方法で歯車を取り出したけれど、直後盗まれてしまったと」
「仰る通りです……面目ない」
ユカリスティーネさんは大きく溜息を吐くと、右手で顔を覆い俯いてしまう。それにしても、俺はさっきからあることを疑問に思っていた。
どうしてこの人はこの異世界にやってくることができたのだろう? 来かたが分かるんなら帰り方も分かるんじゃないの? そう思いユカリスティーネさんにそれを聞いてみた。
「ところで、こっちの世界に来れるんだったらなんでもっと早く来なかったんですか?」
「別に自分の意志で来たわけではないです。今回、ソフィリーナのやったことが神様にバレたんです」
え? まじで? そりゃあまあ、こっちに来てからもう一年だもんな。そりゃバレるよね。て言うかあいつやばいんじゃね?
「時の管理棟に一緒に忍び込んだ女神達は大目玉を食らい。三か月の減給と、一ヶ月間トイレ掃除の罰を受けました」
「そりゃお気の毒に、ちなみになんでバレたんですか?」
「メンテナンスに来た業者が発見しました。今は代わりの部品を入れ直しましたから問題はありません」
なんだよメンテで部品交換できるのかよ。俺はてっきりあの歯車は唯一無二のもので、あれじゃないと駄目なのかと思ってたわ。じゃあ、特に問題はないんじゃねえの?
「しかし、だからこそ、そのあぶれている時の歯車が問題になっているのです」
そりゃそうだよね。やっぱ問題だよね。
「歯車を手にしているその人は、べんりさんが行ったものとは比べものにならないほどの時間跳躍を行っています。それも何度もです。一回に何百万年も時間逆行を行っているんですよ? 普通の人間だったら一回で精神が崩壊してしまいます。まったくもって信じられません」
「ティアラちゃんは自分の事をシンドラント人だって言ってました」
俺の説明にユカリスティーネさんは顎に手を当て考え込み、ブツブツと独り言を言っている。
「シンドラント……シンドラント……どっかで聞いたことあるような? シンド……ラ!? 思い出しました。シンドラント王朝、かの悪名高い
え? なにそれ? 超厨二臭いんですけどw
「なるほど、その末裔ならさもありなんと言ったところでしょうか」
「ソフィリーナは知らないって言ってましたけど、知ってるんですか?」
「当然です。私は星読みの観測官ですよ? 星を読むには様々な時代の知識が必要なんです。当然それが何千万年前の物だったとしても頭の中に入れてありますよ」
へー、すごいな。やっぱりソフィリーナとは大違いだ。俺は感心するのだが、そう言えばユカリスティーネさんがここに飛ばされてきた理由はまだ途中だった。
まあ飛ばされてきた理由は、今回、時の歯車を失くした一件に深く関わっているソフィリーナの妹であり、何度か俺と会っているユカリスティーネさんを送り込むのが一番手っ取り早いと神様に言われたらしい。はっきり言って罰ゲームだと俺は思った。
自分は関係ないと嫌がるユカリスティーネさんを神様は、半ば無理矢理異世界に転移させたらしい。て言うかそんな
そんなこんなで今俺の目の前にいるユカリスティーネさんは、涙目になりながら捲し立てて来るのであった。
「とにかくっ! 時の歯車を取り戻せば今回の事はチャラにしてあげるって神様も言ってますから早く取り戻してくださいっ! そして早く帰らせてくださいっ! 私はソフィリーナと違ってリアルは充実しているんです。だから異世界に逃げ込みたいなんてこれっぽちも思ってないんですぅぅぅう!」
そんなこんなで真夜中の船のデッキで二人大騒ぎをしているのだが、ふと俺はある違和感に気が付いた。
「なんか、この船止まってません?」
「え? そうですか? 暗くて海面も見えないからそう感じるんじゃないですか?」
手すりから身を乗り出し下を覗き込むユカリスティーネさん。落ちるかもしれないからやめなさい。
「やっぱりおかしい。なんだか静かすぎる」
俺は嫌な予感を感じて駆け出した。
その後ろをついてくるユカリスティーネさんも、俺の緊迫した様子を察したのか真剣なトーンで聞いてくる。
「一体なんですか?」
「わからない。でもなんだか嫌な予感がする。とりあえず船の後方に行ってスクリューが動いているかどうか確かめる」
俺の言葉にユカリスティーネさんは大きく頷くと、それ以上はなにも聞かずに黙ってついてくるのであった。
つづく。
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