第百二十四話 希望と言う名の船に乗り②
しばらく船室でゆっくりとした俺達は夕飯時になったので食堂へと向かう事にした。
その道すがら獣王が不満を漏らす。
「なんで俺だけ船底の荷台なんだわん」
かなり不服そうな顔をして文句を言っているのだが女子達は全員それを無視。俺もスルーしようとするのだが、獣王はズボンに噛みついてきて珍しく食い下がってくる。
「なんで俺だけ一等客室じゃないわん! 皆一人一室与えられているのに、なんで俺だけえ!?」
「うぅるせえなぁ。お前は客じゃなくてペット扱いなんだよ。周りに
「俺はペットじゃねえっ! なんだ? おまらそういう認識だったのか!? 俺の事を仲間じゃなくて単なる犬だと、ペットだと思っていたわんっ!?」
単なる犬じゃねえかよ。まあ人語が操れて口から光線とか撃てる珍しい種類だとは思うけどな。
「だっておまえ、語尾に“わん”とか付けてるし。そもそもなんで最近ずっとその姿なんだよ? 獣人の姿になればいいだろ?」
「そ……それは……。俺は普段この姿でいることにより、余剰魔力を体内に蓄積しているわん。いざと言う時にその力を発揮してメイムノーム様を守る為だわんっ!」
あーはいはい。嘘だね。俺は知ってるんだぞ。おまえが、とある下心からその姿でいることをな。
そんな言い合いをしていると前方からエルフのお姉さん達がやってくる。エルフ達は俺達に気が付くと話しかけてきた。
「かわいいー。撫でてもいいですか?」
「どうぞ」
「なんて言う名前なんですかぁ?」
「獣王です」
「えー!? かわいい~」
短いスカートでしゃがみ込むもんだから獣王の位置からはパンツが丸見えだろう。体中を撫でまわされ「くぅんくぅん」なんて甘えた声を出し、舌を出しながらハァハァ言っている姿からは、はっきり言って“獣の王”たる威厳などはまったく感じられなかった。
「またねー獣王ちゃ~ん」
「べんりくんもまたねー」
しばらくお姉さん達とお喋りすると、どうやら同じ一等船室のフロアーにいるらしいことがわかった。
手を振りながら去って行くエルフのお姉さん達に笑顔で手を振りかえす俺は、見事彼女達の部屋番号をゲットすることに成功したのであった。
「おまえ、どっちが好みだ?」
「俺は、ロングヘアーの方だわん」
「そうか、俺はショートボブの子の方が好みだ。被らなくてよかったな」
こいつと一緒に居るとこういうラッキーなことがあるからやめられないぜ。
さてさて飯を食いに行く途中だったんだ。
俺と獣王は鼻歌混じりにスキップしながら意気揚々と食堂に向かうのだが。
「あの……すいません。俺達の席は?」
「は? どちらさまですか? ここは私達四人のリザーブ席なんですけど?」
ローリンは俺達の方へは向かずに食事を続けながら棘のあるトーンで言ってくる。
「いやその、メームちゃ……メイムノームさん? 違うんですよ。その……」
「これでは我も婚約を考え直さなくてはならんかもしれんな。魔族の婚約破棄は死を持って償ってもらうことになると言う事だけは覚えておけ。それと犬、おまえはもうクビだ」
俺に冷たい視線を送ってくるメームちゃんは、青褪める獣王の事を蹴り飛ばすのであった。
ソフィリーナは既にベロンベロンに酔っていて、問い詰められる俺達の事を指差しながら笑っている。ぽっぴんは豪華な飯に夢中でそんなことはまったく眼中にない様子だ。
結局俺達は席には着かせて貰えず、仕方がないので部屋に戻ってコンビニから持って来ていたカップ麺を啜るのであった。
その夜、俺はなんだか寝付けなかった。
船旅は初めてというわけではないのだが、波で揺れる度に目が覚めてしまい浅い眠りを何度か繰り返しているような状態で酷く気分が悪かった。
船酔いってわけでもないし困ったもんだ。このままベッドでゴロゴロしていても眠れそうにないので夜風にでも当たろうと思い、俺は上着を取り出すとデッキへと出ることにした。
「うぅぅ、さぶっ!」
一人なのだがつい声にだしてしまった。
真冬の夜の海上は潮風が刺す様に冷たかった。おかげでモヤモヤとしていた気分も晴れて頭もシャキっとする。
空を見上げると満天の星々が輝いて見えた。まるでユカリスティーネさんの居た、時の狭間のようだなんて思ってしまう。
そういえば、ユカリスティーネさんは今頃どうしているのだろうか? あれから俺は勝手にこっちに戻ってきてしまったので心配しているかもしれない。
ソフィリーナと違って気配りができて優しくてかわいいし、本当に姉妹なのかよと疑ってしまうくらい出来た妹さんだ。
また会いたいな……。
そんなことを思っているとなんだか彼女の声が聞こえた様な気がして、ほら、空から悲鳴が……って、え?
「きぃぃぃぃぃいいいいいいいやぁぁぁぁああああああああああああっ!」
空耳かと思っていたその悲鳴が段々と頭上から近づいてくると、その声を出している人物の姿も見えてくる。
「おやかたっ! そらからおんなのこがっ! ぐふぉっ!」
その人物は俺の上に落下すると「いたたた」と声を上げてお尻を擦っていた。
いやまじでこれ、普通だったら重傷だよ? 下手したら死んでもおかしくないからマジやめてよね。
それはまあ置いといて、俺の腹の上で尻を擦っている人物を見て俺は驚く。
「え? ユカリスティーネさん? なんで?」
「べ、べんりさんっ!? よかったすぐに会うことができて」
ユカリスティーネさんは俺に気が付くと安堵した様子で抱きついてくる。彼女の温もりと柔らかい感触を感じて俺はうっかり反応しそうになってしまった。
「ちょ、ちょちょちょ! なんでユカリスティーネさんがここに?」
もう少しその感触を楽しみたかったのだが俺は彼女の肩を掴んで離れると、ユカリスティーネさんはハッとして思い出したように告げるのであった。
「大変なんですっ! 時の歯車を悪用している何者かの所為で、このままでは未来がむちゃくちゃになっちゃいます!」
つづく。
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