第百二十話 超古代からの使者? 時空を超えた侵略者の巻⑥

 目の前の黒髪少女の言葉に一瞬頭が回らず俺は固まってしまう。しかしその少女の手にする物、時の歯車が俺の思考を再び走らせた。


「ティアラちゃん、一体なにを言って……いや、そんな月並みな驚き方はやめだ。その言動から見るに、俺達に敵対する者ってことは明らかだっ! 目的を言えっ!」


 目の前に居る少女はティアラちゃんであるが、その言動や物腰は最早俺達の知っているそれとはまるで別人に感じた。いや、これこそがティアラちゃんの本性なのだろう。

 俺の言葉に「ふーん……」とつまらなそうな顔をするとティアラちゃんは不満気に答える。


「なーんだ。もうちょっと驚くかと思ったのに、意外に頭の回転が速いのね。まあいいわ、逆に話が早くて助かるし」


 ティアラちゃんはクスクスと笑いながらゆっくりと歩みを進めると、物質転移装置の所で足を止めた。

 そしてポッドを撫でるように、真っ白でしなやかな指を這わせると妖艶な笑みを浮かべながら再び話す。


「おにいさん。前に私が言ったこと覚えてる?」

「言ったこと? なんのことだ?」

「んぅん、ぽっぴんぷりんがどこからきたのか? って話よ」


 ぽっぴんがどこからきたのか? そういやそんなこと言っていたな。それがどうしたって言うのか。それと今、突然現れて時の歯車を手にしていることと、一体なんの関係があるのか?


「わけのわからないことを言って話をはぐらかそうとでもしているのか? 俺はおまえの目的はなんだと聞いているんだ」

「そうねぇ、でもあながちそれも、関係のない話ではないのよ? ねえ? ぽっぴんぷりん」


 今度はぽっぴんに問いかけるティアラちゃん。


「なんのことでしょうか? 一体あなたは何がしたいのですか? まあ、それを返せと言ったところで素直に返してくれないであろうことはわかりますが」


 話を振られたぽっぴんも困惑した様子で答える。


 全員がわけが分からず動くに動けないでいる。なによりティアラちゃんとは別にもう二人いる、あの黒ずくめの男女が気になる。

 男の方は黒いタキシードに身を包み、女の方は黒いミニスカートのドレスを纏っている。二人とも目隠しの様な眼帯をしているのも気になる。

 二人は微動だにせずまるでお人形のよう、じっとこちらを見据えたまま不気味な気配を漂わせている。


 するとローリンが俺の横に来ると小声で警告した。


「べんりくん。あの二人はかなりの手練れです。さっきから歯車を奪い返す隙を窺っているのですが、寧ろこちらが隙を見せたらやられる可能性があります」


 ローリンクラスが警戒しなくてはならない相手だと? 魔闘神との戦いの時ですらどこか余裕のあったローリンが緊張した面持ちで言っている。これって結構ヤバイんじゃね?


 ティアラちゃんは不敵な笑みを浮かべながらもう一歩踏み出してきてぽっぴんに言った。


「ぽっぴんぷりん。私からのアドバイスをちゃんと読み取って、この装置を完成させてくれたことに感謝するわ」

「むむ!? どういうことですか? あなたが赤ペン先生の正体だとでも言うのですかっ!?」

「その通りよ。あの暗号はあの時、私が書き込んだもの」

「なにを馬鹿なっ! あれはあなたのようなお子ちゃまが読み解けるような公式ではありませんでしたっ!」


 声を荒げるぽっぴん。わかってはいるのだろうが、言わずにはいられないのだろう。

 杖を持つ手がふるふると小刻みに震え、その表情は悔しさを滲ませていた。


「お子ちゃま……ね。まあこの姿じゃしょうがないわね。でも、私がシンドラントの生き残りだって言ったら、信じてくれるかしら?」


 シンドラント? なんかどっかで聞いたことあるな? どこだっけ?


 その単語の意味することがわからず、ティアラちゃんの言葉に耳を傾けるしかないのだが、ぽっぴんだけが理解したのか再び声を荒げる。


「それこそありえません。10000年以上も昔に滅んだ古代王朝の生き残りだなんて、それこそ荒唐無稽な話です」


 ぽっぴんが言い返すと、ティアラちゃんは待っていましたとばかりに満足げな表情をして、黒髪をかき上げると予想だにしない事実を俺達に告げるのであった。


「違うわよぽっぴん。シンドラントが滅亡したのは今から1千万年以上も前のこと、もう今ではその名称すら人類史には残されていないわ」


 するとぽっぴんは呆けたような表情になり固まる。まったくもってわけがわからない。一体こいつらはなんの話をしているのだ?


「おいローリン、あいつらは何の話をしてんだ? シンドラント王朝ってなんだ?」

「聞いたこともありません。そう言えば、十二宮へ向かう時に使ったエレベーター、ぽっぴんちゃんが古代シンドラント王朝時代に発明され今では失われた文明だと言っていましたね」


 それだっ! どっかで聞いたことがあると思ってたんだよ。て言うか、ローリンも知らないの? まあこいつもこっちに来てから2年弱だもんな、知らないことがあっても当然だ。むしろその方が多いだろう。

 俺はメームちゃんの方を見るのだが小さく首を横に振る。ソフィリーナも同様だ。メームちゃんもソフィリーナも知らないのか、じゃあそれを知っているぽっぴんってなんなんだ?


「ば……馬鹿な? 一千万年? そんなアホな話がありますか……。人類がこの世に誕生してから10万年ですよ? それよりも昔の話だなんてそんな……」

「ねえ、ぽっぴん。あなた、もっと幼かった頃の記憶ってある?」

「あ、あるに決まっているじゃないですか?」

「それは、いつの時代の記憶かしら?」


 なんだなんだ、一体どうなっているんだ? ティアラちゃんが問いかければ問いかけるほどにぽっぴんは見るからに動揺の色を濃くしている。

 ティアラちゃんは悪戯な笑みを浮かべ、まるでぽっぴんを挑発するかのように身体を揺らした。


「うふふふ、もうわかっているんでしょう? それともわかっていても認めたくないのかしら? だったら私から言ってあげましょうか? “ポッピヌプリム”とは、シンドラント語に於ける“真理の探究者”という意味の言葉。あなたは超古代文明、シンドラント王朝時代の人類の子孫なのよ」



 その衝撃の言葉にその場にいた誰もが息を呑むのであった。




 つづく。

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