第百十九話 超古代からの使者? 時空を超えた侵略者の巻⑤
「な、な、にゃ……にゃんじゃこりゃあああああああああっ!」
スマホで撮った写真を見せてやると頭を抱えて雄叫びをあげるぽっぴん。尻尾をふりふりしながら身悶えているのだがなんだかその姿が妙に……。
俺は我慢できずに猫耳の裏をこちょこちょとしてやる。
「にゃ、にゃんっ! にゃんですかいきなり……って、ふにゃぁぁぁぁ」
顎の下を擦ってやるとぽっぴんは恍惚の表情を浮かべるのであった。
これは完全に猫だ。猫娘だ。いや、猫賢者。なんでもいい、とにかくなんだ、堪らないぞこれは、猫耳尻尾美少女なんてたとえそれがぽっぴんだったとしても、くそったれがあああ! 俺は今、不本意ではあるがぽっぴんに萌えてしまっている。
「よーしよしよしよし」
「ごろにゃ~ん♪」
頭を撫でてやると俺に擦り寄ってくるぽっぴん、そんな姿を見てローリンはぷるぷると震えながら叫ぶ。
「な、なんなんですかあれっ!? ずるいですっ、反則ですっ! 私だって
「え? なんで? 嫌だわん」
おいローリン、その言い方はなんか色々と誤解を招きかねないからやめろ。相手が犬ってのもあれだ。
そんな感じで、てんやわんやの大騒ぎをするのだが、メームちゃんがぽっぴんの元へやってきてなにやら物凄い殺気を放ちながら言う。
「おい猫娘、そこまでにしておけ。我の中の歯車を取り出すのが今回の目的だろう?」
「そ、そうだったにゃん。こほん、それでは気を取り直して」
ぽっぴんは咳払いをすると頬を紅くして恥ずかしそうにしながら仕切り直す。その間も尻尾がふりふりと揺れているのがあざとい。
「どうやら実験は成功のようです。こうやって無事、生物を転移させることができましたし、予定外ではありましたが、同じポッドから転移すると生物同士の融合も可能だということがわかりました」
簡単に言ってるけどおまえ結構綱渡りなことしてるからな。一歩間違えば猫をベースにした人間との
「じゃ、じゃあ、今度はおまえとその猫を分離する実験が成功すれば」
「それはできません」
「は? なんでだよ?」
ぽっぴんは装置の横に付いているタコメーターを指差しながら言う。
「燃料があと一回分しか残っていないのです。この一回でメームさんの中から時の歯車を取り出します」
その言葉に全員が冷や汗を流す。
大丈夫なのかよ?
ぽっぴんはメームちゃんの生体データをインプットする為にまずは問診から始めていた。
「毎日平均で何時間寝ていますか?」
「10時間くらい」
「お煙草は吸いますか?」
「吸わない」
「運動は一日にどれくらい?」
「さあ?」
なんじゃそりゃ、健康診断かよ。相変わらずふざけているようにしか見えないのだが、なんだかんだでこんな装置を実際に作り出してしまったんだから大したものである。
今はぽっぴんのことを信じてメームちゃんのことを任せるしかないと思うのだが、それにしてもやはり不安だ。
獣王も同じ気持ちなのだろうか、俺の足元にやってくると心配そうに聞いてくる。
「メイムノーム様ご自身がやると言ったとはいえ、本当に大丈夫かわん?」
「獣王……。そうだな、心配な気持ちはわかる。俺も完全に不安な思いを払拭できたわけじゃあない。でもよ、あのぽっぴんが大丈夫だと言っているんだ。信じようぜ」
俺の言葉に獣王のみならず、隣で聞いていたソフィリーナとローリンも微笑みながら頷いていた。
そして、装置になにやら入力を終えるとぽっぴんはこちらにやってきた。
「皆さん、準備が整いました。いよいよ、メームさんの体内から時の歯車を取り出す
メームちゃんは既にポッドの中に入っている。今度はちゃんと異物が入っていないかもチェックして、機械のモニターにもオールグリーンという安全を報せる文字が出ている。
皆が固唾を飲んで見守る。ソフィリーナは女神の祝福をと祈りを捧げ、ローリンは胸の前で手を握り祈るように目を瞑る。獣王は毛を逆立て不安の色を隠せないのだが、絶対に目を逸らさないと意気込んでいた。
そして俺は、ポッドの覗き穴から見えるメームちゃんと目が合うと右手の親指を立てて笑ってみせた。メームちゃんもそれに応えるように微笑み返してくれた。
「それでは行きますっ! これでなにもかも万事解決ですっ! 時の歯車を取り出して、メームさんの命を救いっ! 世界の崩壊を食い止めてっ! そして、皆さんも……」
そこまで言ってぽっぴんはボタンを押すのを一瞬躊躇するのだが、直後ボタンは押し込まれるのであった。
ゴウンゴウンと呻りを上げる物質転移装置、メームちゃんの入っているポッドから光が漏れた刹那、別の二つのポッドから轟音が鳴り響く。
暫くすると、プシューっと音を立てて二つのポッドの扉が同時に開いた。
中から溢れ出てくる煙に紛れて、片方からゆっくりとメームちゃんが姿を現した。
全員が駆け寄るとメームちゃんはにっこり笑った。
やった……やったのか? 遂にメームちゃんの中から時の歯車を取り出すことに成功したのか?
もう一つのポッドの方へ視線をやると、煙が晴れ中から溢れ出る虹色の輝き、駆け寄って中を覗き込むとそこには小さな歯車が輝きを放ちながら浮かんでいた。
「や……やったあああああああああああっ!」
成功だっ! 全員が歓喜の声を上げる。俺がメームちゃんを抱きかかえると、メームちゃんも俺に抱きついて喜んでいた。
「よかった。本当によかった。うぉぉぉ~んおんおんっ!」
「ありがとう。なかないでべんり、こういうときはわらうものよ」
感極まったローリンや獣王も涙を流しながら俺に飛びついてくる。
「ふふふーんっ! それもこれもすべて大賢者である私のおかげですっ! 感謝してくださいねっ!」
「ああ、おまえは正真正銘の猫耳美少女大賢者だよ、ありがとうな。にゃっぴん」
「にゃっぴんってなんですかっ! 変な名前付けないでくださいっ!」
さて、喜びの余韻に浸りたいところではあるが、とりあえずは時の歯車を回収しておこう。また失くしたりしたらエライことだからな。そんでもってこのことをリリアルミールさん達、魔族に報告して、今夜はパーティーだな。
そんなことを考えながら俺はポッドの中を覗くのだが。
「あれ? こっちじゃなかったっけ?」
時の歯車が見当たらない。ポッドを間違えたかな? そう思い、もう一つの方を覗き込むのだが……。
「べんりくんなにさっきからポッドの中を何度も出たり入ったりしてんのよ?」
「ソフィリーナ……。おまえ、時の歯車回収した?」
「え? わたしはしてないけど」
嘘だろ? え? 誰かが取り出したのか? なんでないんだよっ!?
俺が狼狽えているのを他の皆も気づき始める。確かにさっきまでポッドの中に浮かんでいたはずの時の歯車が見当たらない、誰もそれを回収した者はいないと言うのだ。
これはどういうことだ? 消滅しちまったのか? わけがわからず混乱していると背後から何者かの声が響いた。
「探し物はこれかしら?」
その声に全員が振り返るとそこには三つの人影。
長身の男に、細身の女性、そしてその二人の間には見覚えのある……。いや、それはここに居る全員が知っている人物であった。
「ふふふ、ご苦労様。ずっと待っていたのよこの歯車が取り出される瞬間を」
そう言いながら手にした時の歯車を俺達の方に見せる黒髪の少女。
ティアラは妖艶な笑みを浮かべるのであった。
つづく。
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