第百二十一話 超古代からの使者? 時空を超えた侵略者の巻⑦

「と、わけのわからないことを供述しており今後の精神鑑定の結果が待たれる状況です。べんりさん、あいつの言う事はまったくもってデタラメなので、さっさと叩きのめして時の歯車を奪い返しましょう」


 なんだかもうめんどくさくなったぽっぴんが、ティアラちゃんのことを指差しながら言い放つ。まあそれでも構わないのだができることなら穏便に済ませたい。俺はおまえら好戦的な女共と違って暴力反対の平和主義者なのだ。


「ティアラちゃん。目的を教えてくれっ! もし君に敵対する意思がないと言うのであれば争う必要なんてないだろう? 歯車だって何に使うのか教えてくれれば、少しの間だったら貸したって構わないんだ」

「な!? なにを言っているのべんりくんっ! そんな危険なことは女神として許すわけにはいかないわっ! あれはすぐに回収して元の場所に戻すべきよっ!」


 どの口で言うんだこの馬鹿女神、おまえだけには言われたくねえ。


 ソフィリーナが慌てて俺の言葉を否定するのだが、そんな様子をティアラちゃんは楽しげに見つめている。そしてクスリと笑うと俺達に向かって告げる。


「目的ねぇ……。私達シンドラントの民は太陽神を崇める信仰深い一族だったわ。太陽の恵みに育まれ、魔法と自然の調和の元で平和な暮らしを送っていたの。ある日、侵略者達が現れるまでは」


 その瞬間ティアラちゃんの顔が憎悪に染まる。それは憎しみ、怒りの感情であった。


「国がたちまち戦禍に飲み込まれるとそれは留まることを知らなかった。シンドラントの魔法技術は科学と融合し、次々と殺戮を生むだけの魔法科学兵器が開発されていったわ。人々は恐怖した。全ての生物を滅ぼす程の兵器を自ら生み出してしまったことに」


 淡々と話すティアラちゃんの言葉に俺もローリンも他人事とは思えなかった。まるであっちの世界に於ける人類の歴史そのものではないか。人類は戦争を繰り返し、その過程で様々な兵器を開発して行き、遂には核の炎を生み出してしまった。その、人類どころか生きとし生ける者、全てを滅ぼしかねない兵器を二発も喰らった国に俺とローリンは生まれ育ったのだ。


「デタラメです。シンドラントの滅亡は王族達の慢心によるもの、王族同士の覇権争いによる衰退が原因。滅ぶべくして滅んだのだと、私はそう教わりましたっ!」

「誰からそう教わったのかしら?」

「誰からって……それは……」


 口籠るぽっぴん。どうやら確証はないらしい。むしろ自信満々にまるでそれを見てきたかのように雄弁に語るティアラちゃんの言う事の方が正しいように聞こえてしまう。


「あなた達にも教えておくわね。シンドラントが開発した兵器の中には、一夜にして国そのものを消し去ってしまう程の威力の物があったと言う事を」

「まさか!? おまえはそれを再び作ろうって言うのかっ!?」


 否定も肯定もしない。ただ黙って俺のことを見据えるティアラちゃん。


 正気かこいつ? 何の為にそんなことを? それで時の歯車が必要な理由もわからない。なんにしても目的がわからない以上、時の歯車を取り返さなくてはならない。


 そう思った刹那、動いたのはメームちゃんであった。


「ごちゃごちゃと御託を並べるのは終わりだ。そんなことは我の知ったことではない。その歯車はべんり達に必要な物、返すつもりがないならば力づくで取り返すっ!」


 ちょおっと! 意外に脳筋なメームちゃんの行動に俺は慌てるのだが、それに続いたのはローリンであった。


「仕方ありません! 話しの続きは歯車を取り戻してから聞きますっ!」


 あああああもうっ! うちの女子達はどうしてこうも力づくで物事を解決しようとするのかなっ!


 ローリンが剣を抜き、メームちゃんは姿を変える。人間と魔族の中で最強の二人がティアラちゃんに飛び掛かるのだが、その間に割って入ったのは黒ずくめの男女であった。


 女の方が素手でローリンの剣を受けると回し蹴りを浴びせる。間一髪ローリンもそれを躱して距離を取る。

 メームちゃんの方はエネルギー弾を放つのだが、男が両掌を前に翳すと掻き消された。

 そのまま戦闘に突入する。俺達は成す術なくそれを眺めているしかないのだが、ローリンの剣が相手の左腕を切り飛ばすと俺達は目を疑った。


「ロ、ローリンっ! いくらなんでもやりすぎ……!?」


 女は腕を切り落とされたのにも関わらず苦痛の声もあげず、それどころか傷口からは血も出ていない。よおく見ると剥き出しになった傷口には、配線のようなものがびっしりと詰まっておりそれが血管のように脈打っていた。


「べんりくん。これは、人ではありませんっ!」


 ローリンが叫ぶと離れた所で爆発音。そちらに振り返ると男の頭を手にぶら下げながらメームちゃんがゆっくりと歩いてくる。


「こんな玩具おもちゃで我の事を止められるとでも思ったのか? 舐められたものだな」


 頭をティアラちゃんの足元に放り投げるメームちゃん。いやいや、なんかちょっと怖いよメームちゃん。浮気したら俺もあんな風にされちゃうのかな?


 転がる頭を見下ろしながらニタニタと気味の悪い笑みを浮かべるとティアラちゃんは女に向かって言う。


「PP800をスクラップにしてしまうなんて驚いたよ。さすが魔王の娘と言ったところか。MM1000もういいよ。メイムノームの生体データのコピーは取れたから」


 そう言うティアラちゃんの手にはスマホの様な端末が握られており、物質転移装置のコンソール部分に繋がれていたケーブルを引き抜いた。


 メームちゃんの生体データのコピーが取れたとはどういうことだ?


「まさか! そのデータを取る為にわざわざこんな装置をっ!?」


「ご名答」


 ティアラちゃんが答えた刹那、足元にあった男の頭が発火、大量の煙を噴き出すと辺り一帯に充満する。煙幕に身を隠し逃げるつもりだ。

 俺達は煙にまかれて身動きが取れない、すると煙幕の中からティアラちゃんの声が響く。


「ぽっぴん。もしもあなたが自分の秘密を知りたいと言うのであれば故郷に帰りなさい。巡礼の丘であなたのことを待つわ」


 そう言い残してティアラちゃんの気配は消えた。



 煙が晴れると全員の無事を確認し、ぽっぴんの元へ行くと俯いて肩を落としていた。

 そしてぽっぴんは覇気のない声で俺に問いかけてくる。


「べんりさん……私は一体何者なのでしょうか……」


 あんな突然の告白、誰だって受け止めきれないだろう。俺はどう返事をすればいいのか迷うのだが……いや、すぐに答えはでた。


 俺はぽっぴんの左右のほっぺを摘まむと引っ張って上を向かせる。


「いだだだだだだ! あにふるんれすかぁっ!」

「おまえが誰かだって? 決まってるだろ? おまえはぽっぴんだろうが、賢い美少女大賢者(仮)のぽっぴんぷりんだ」

「(仮)は余計ですっ!」


 ぽっぴんは俺の手を払いのけるとほっぺたを擦ってぶつぶつと文句を言っている。


 そして。


「まあ……べんりさんがそう言うならそうなのでしょう」


 そう言ってにっこりと微笑むと猫耳をピコピコと動かすのであった。



 おまえ……猫と融合したままじゃん。



 つづく。

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