第六章 古代の亡霊と真理の探究者
第百十五話 超古代からの使者? 時空を超えた侵略者の巻①
「ほ、ほんとうに大丈夫なんですかわんっ!?」
獣王はこれから自分の身に起こるであろう事態を察したのか、恐怖に震えしきりに安全を確認している。
「だいじょうぶだいじょうぶ。ちょっとうくだけだから」
「う、浮く? 一体どうなるわんっ!? なにが始まるわんんんんっ!!」
それをメームちゃんが宥めすかし、着々と実験の準備を進めていた。
時刻は午前11時半。昼間の公園に俺はメームちゃんと獣王を連れてお散歩がてら遊びに来ていた。
そして今は何をやっているのかと言うと。コンビニの雑誌にあったペットボトルロケットの作り方を読んだメームちゃんは興味津々、是非ともこれをやりたいと言う事なので公園で実験をしているわけなのだが、そこは流石魔王の娘、ただ単に飛ばすだけでは面白くないと言う事なので、大量のペットボトルを使用して有人飛行を目標に作りたいと言い出したのだ。
そう言えばなんかのテレビ番組で見たことある様な気がする。その時は一応人体を浮き上がらすことに成功していた様な気がした。
さてさて、いきなり人で試すのは余りにも無謀ではないか? と俺が忠告したところ、メームちゃんは逡巡するのだが、すぐに路線変更。それだったらまずは“犬”を飛ばそうと言う事になったのである。やはり、ロケット開発に携わる者はどの世界でも、まずは犬を打ち上げるのかもしれない。と俺は思った。
最初はなにをされるのかわからず物凄く抵抗した獣王であったが、メームちゃんが睨みを利かせると大人しく背中にペットボトルを装着するのであった。
「てぃあら、ここ押さえてて」
「メームちゃん、これなに? 今からなにするの?」
「みてればわかる。おもしろいよ」
そしてもう一人、今回の実験に立ち会っている子が居る。それは、お祭りの時にメームちゃんが仲良くなったティアラちゃんだ。
散歩の途中彼女と出会ったので、メームちゃんがこれからおもしろいことをするからと誘ったのだ。あれからもちょくちょく一緒に遊んだりしているみたいなので、俺はなんだかとても嬉しかった。二人の仲の為に獣王には限界を超えて、是非にとも
「それじゃあいくよ。ふぁ~いぶ、ふぉ~、すりぃぃぃ、つぅぅぅ、わん、じぇろぅ、イグニッションっ!」
カウントダウンを始めるメームちゃんは魔法を使い空気を圧縮してペットボトルの中に注入すると、蓋の部分はメームちゃんお得意のエネルギー弾(小型)を複数作り一辺に消し去る。すると中の水が一気に噴出し、その圧力に押されて獣王は上空へ……とは飛ばずに、バランスを崩したペットボトルと一緒に錐もみしながら地面を転がって行った。
途中なんだか鈍い音がして「ごふっ!」とか言っていたような気がするけど、たぶん大丈夫だろう。
「ちょっとしっぱい」
「もう~、メームちゃんびしょびしょだよー。風邪ひいちゃうよ?」
淡々と言うメームちゃんの横でそう言うティアラちゃんも、メームちゃんと一緒にペットボトルの水を浴びてずぶ濡れになっていた。
季節はもう冬。この寒い中よく水遊びができるもんだ子供ってすげえなと、感心して見ていたのだが。
「へっくちっ!!」
メームちゃんがくしゃみをすると鼻水がでろりと垂れた。俺がポケットティシュでそれを拭ってあげると。
「ぺくちっ」
今度はティアラちゃんである。頭までずぶ濡れであるのだが、それはまるで鴉の濡れ羽色。綺麗な黒髪から水を滴らせ鼻を真っ赤にして震えている。
「はいはい今日はここまで、このままだと本当に風邪引いちまうから、お家に帰って温泉に浸かって温まるぞ!」
「おんせんっ! おんせんっ♪ おっんっせ~ん♪」
ご機嫌な様子で温泉の歌を歌いだすメームちゃん。その横で不思議そうな顔をしているティアラちゃん。
「どうしたのティアラちゃん?」
「え? 温泉って、これから行くんですか? え? どこに?」
「ああ、うちのコンビニの下の階層に温泉が沸いてるから。あれ? 知らなかったっけ? ティアラちゃんも一緒に入る?」
俺の言葉に一瞬驚いた表情を見せるも。すぐに恥ずかしそうにもじもじしだすティアラちゃん。あ……、いやいやそういう意味じゃないからな。おいおい、やめてくださいよ。まるで俺が少女と一緒に温泉に入らないか? って誘ったみたいになったじゃないか。
しかし、ティアラちゃんは顔を真っ赤にしながらボソっと呟いた。
「お……おにいさんとだったら、いいですよ」
メームちゃんと3つか4つくらいしか変わらないのに、なんと言うか、妙に色っぽい目つきで俺のことを見つめてくる。そんな視線についドキっとしてしまうのだが、当然俺はロリコンはロリコンでも、ロリコン紳士なので変な勘違いはしないのだあっ!
そんなこんなで俺達は体が冷え切ってしまう前に帰り支度を済ませて家路へと着くのであった。
なんか忘れてるような気がするけど、まあいいや。
温泉でしっかり温まってコンビニに戻ってくると、俺は二人にコーヒー牛乳を買ってあげる。ぽかぽかになったメームちゃんは飲みながらうとうとし始めていた。
「あー、メームちゃんはもうおねむかなぁ。おい獣王! 今日はうちに泊まるってリリアルミールさんに伝えて来いよ」
俺がそう言うと床に伏せていた獣王は、なんだか不貞腐れた様子で首だけをこちらに向けると不満そうに答える。
「俺はおまえの使い走りじゃないわん」
そう言うとそっぽを向いて不貞寝し始める。
やれやれ、そんなに俺達に置いて行かれたのがご不満だったんですか、まったく大人気ない奴だ。子供じゃねえんだからいつまでも不貞腐れてんじゃねえよ。
「いいのかそんなこと言って? メームちゃんが戻って来なかったら半狂乱になったリサがここに駆け込んできて超ウザいぞ」
俺の言葉に獣王は「ちっ」と舌打ちすると、のそのそと起き上がり出て行くのであった。
そういえばティアラちゃんはどこに行ったんだろう? トイレかな?
ティアラちゃんの姿が見当たらないのだが、そこへご機嫌な様子で鼻歌を鼻ずさみながらぽっぴんが帰ってきた。
「なんだ、随分とご機嫌だな。なんかいいことあったのか?」
「ふんふんふーん♪ 今日は市場でなかなか良い素材が手に入ったので、これから奥で実験ですよぉ~。私の知的好奇心は底知れないですからねえ、なんてったって賢いですからっ!」
サムズアップしながらバックヤードに入って行くぽっぴん。
まあなんだ。明日は休みだからな、少しくらい夜更かししても許してやるか。なんて思っていると奥からぽっぴんの怒声が聞こえてきた。
「おまんっ!? なに晒しとんじゃきしゃああああああああああっ!」
つづく。
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