第百十六話 超古代からの使者? 時空を超えた侵略者の巻②

 扉越しに聞こえてくるぽっぴんの怒声に驚き、俺はバックヤードへと駆け込んだ。


 奥のプライベート空間、ぽっぴんのエリアには様々な小物が散乱しており、どこで手に入れてきたのか足の短いちゃぶ台の様な机の上にはアイデアをしたためたノートが山の様に積まれているのだが、その一冊を手にしたティアラちゃんがオロオロとしながらぽっぴんに詰め寄られていた。


「きしゃん、おいのアイデアばがめてからに、なんばしよっとかああっ!」


 なんでどっかの方言みたいになってんだよ? どことは言わないけどさ。


 ぽっぴんの凄まじい気迫にティアラちゃんはビビッて声もだせないのか、涙目になって口をぱくぱくさせている。


「おいぽっぴん、ティアラちゃんが怖がってんだろやめろよっ!」

「黙れぇええっ! あれは私が長年かけて積み重ねてきた研究の成果が記されたものっ! それを盗み見るなんてふてえ野郎だ!」

「そんなもんをそこら辺に適当に置いとくなよ。大体相手はまだ子供なんだぞ、そんなに怒らなくても」

「喋るなああっ! 子供だろうが年寄りだろうが関係ねえっ! あれはあたいの血と汗と涙の結晶なんだ!」


 なんでさっきからいちいち口調が変わるんだよ。こいつ本当はふざけてんじゃねえのか?


 まじめに相手にしない方がいいと思い始めるのだが、黙って震えていたティアラちゃんが恐る恐る口を開く。


「あ、あの……わたし、そんな大事なものだなんて知らなくて、ごめんなさい勝手に見て」

「いいんだよティアラちゃん。大方ポエムとかなんだろどうせ、恥かしい黒歴史を覗かれて逆切れしてるだけだから気にしなくていいよ」


 俺がティアラちゃんを庇ったのが気に食わなかったのか、ぽっぴんは不貞腐れて俺達の事をバックヤードから追い出すのであった。

 それにしてもノートを見られたくらいでなにをそんなに怒っているのか、そんなに恥ずかしいことを書いていたのかと、俺はあいつをからかういい材料が手に入るのではと思いティアラちゃんに聞いてみることにした。


「ティアラちゃん。あのノート、なにが書いてあったの?」

「え? 駄目ですよ。そんなこと聞いちゃ、あのお姉ちゃんがまた怒りますよ」

「いいからいいから、大体あんな所に出してるってことは本当は誰かに見て貰いたいんだよあいつ」


 そう言うとティアラちゃんは、しょうがないなぁという表情になると手招きをして俺に屈むように言う、そして耳元でそっと呟いた。



「ぽっぴんぷりんが一体どこからやってきたのか……」



 え?


 意味がわからずきょとんとしているとティアラちゃんは不敵な笑みを浮かべるのだが。


「もうおうちに帰らないと、ママとパパが心配するわ。おにいさん、今日はありがとう。バイバイ」


 そう言うと先ほどとは打って変わって無邪気な笑顔になり、手を振りながら店から出て行くのであった。




 ティアラちゃんが帰ってから暫くの間、俺は彼女の言葉が頭から離れなかった。


 ぽっぴんがどこからやってきたのか?


 そう言えばあいつ、どっから来たんだろう? ちゃんとした出身地も聞いたことないし、知っていることといえば本名がポプラ・スウィートミントということと、年齢が14歳ということだけだ。

 ローリンかオルデリミーナに聞けばわかるだろうか? あっちの世界とは違いこの異世界では人々の出生地を正確に把握するのは難しい。広大な帝国領土に点々とある小さな村まで把握するには、その領地を治める領主にでも聞いてみないとわからないってもんだ。それも税金をちょろまかす為にちゃんと帝国に申告しているかどうか疑問だったりするし、要するに流れ者の出自を完璧に調べ上げるのは難しいのだ。

 もちろん今は帝国の中心地である帝都に住んでいるのだからここでちゃんと登録されている。出自のはっきりしない者は仕事を探すのも難しいし、なによりそういう輩はなにかあった時にいの一番に疑われるから、ちゃんと役所で登録して身の上を証明できるようにして、尚且つちゃんと税金を納めておいたほうがいいってのは元居た世界と変わらないのだ。


 あれから二時間、夜の八時を過ぎるとメームちゃんがもぞもぞと起きだしてきた。


「べんり。のどかわいた」

「ん? なにが飲みたい?」

「あまいの」


 持ってくるからちょっと待っててねと言うと、俺はジュースを取りに行くのだが、ぽっぴんがなにやらずっと静かにしているのが気になってそっとバックヤードを覗いてみた。


 するとぽっぴんは自分のスペースに座り込みじっとなにかを読み耽っているように見える。それは先程のノートのようなのだが、一心不乱にページを捲って別のノートになにかを書いてはページを捲ると言う事を繰り返していた。


 まあ今日は実験に没頭したいって言ってたし静かだから放っておくか。


 俺はカルピスを手に取ると冷蔵庫のドアを静かに閉めてメームちゃんの元へ戻るのであった。



 次の日。



「で……ででで、できたああああああああっ!」


 突如聞こえるぽっぴんの大声で全員が叩き起こされると、目の下に隈を作ったぽっぴんが捲し立ててくるのであった。



「できましたよっ! これさえ作ることができれば、メームさんの体内にある時の歯車を取り出すことが可能かもしれませんっ!」



 つづく。

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