第百一話 聖騎士? いいえ普通のJKです。①
「明日は二人でデートでもしてくるといいわん」
そんな獣王の言葉が切っ掛けだった。
客足の途切れる昼下がり、今日はそれほど忙しくないのでソフィリーナとぽっぴんにはお休みをあげて、俺はローリンと二人店番をしていたのだが。
「べんりくんはいつもそうですっ! そうやって適当に返事してちっとも私の話なんて聞いてくれないじゃないですかっ!」
ヒステリックに金切り声をあげるローリンを前にまた始まったと思う。それが態度にも出ていたのだろう。俺のうんざりした表情にローリンはもう怒り心頭、顔を真っ赤にしながら捲し立ててきた。
「べんりくんの為に言ってるんですよっ! 少しは地上に出て陽の光を浴びないと、最近はなんだか夜型になってるみたいだし、日中はボーっとしていることも多いですっ! そんな不健康な生活をしていたらいつか身体を壊しちゃいますよっ!」
おまえは俺のおかんかよ。まったく、最近はこんな感じで俺の生活態度を注意することが多くなってきたので非常に鬱陶しい事この上ないのだ。
「うぅぅるせえなあ。なんで異世界に来てまでそんなことに気を使わないといけないんだよお?」
「なんで異世界に来てまで向こうと同じようなだらけた生活するんですかあっ!」
「べつにいいだろう? 異世界だからこそまったりスローライフを送りたいんだよ俺はぁ」
「スローでもいいから規則正しい生活をしてくださいいいいっ!」
そんな感じで口論しているとひょっこりと顔を出したのは獣王だった。
「また痴話喧嘩をしてるのかわん?」
「ち、ちがいますっ! もういいです……。ハァ……私、休憩もらいますね……」
そう言いながら深い溜息を吐くと、トボトボとバックヤードへと引っ込んでしまうローリン、その背中を獣王は不思議そうな顔で見つめているのであった。
「ローリン嬢はなにをあんなに落ち込んでいるわん?」
俺が先程までのローリンとのやりとりを説明すると、獣王は呆れた様子で俺のことを見てきた。
「まったく、おまえはどうしようもない男だわん。ローリン嬢はおまえのことを心配して言ってくれているわん。それをまったく聞く耳持たないなんて子供だわん」
「うっせえなぁ、おまえまで説教かよ」
「説教してくれる相手が居る内が華だわん。誰にも相手にされなくなったら本当に見捨てられた時だと覚えておくといいわん」
あぁこいつ……。十二宮の時一人だけ除け者にされてたもんなぁ。
なんて説得力があるんだと思い、俺は憐憫の情を禁じ得ないのであった。
そんなこんなで俺は商品棚の整理でもしようとレジカウンターから出て行くのだが、獣王は暫く考え込んでいた。
そしてなにか急に思い出したのか、俺の元に駆け寄ってくる。
「べんり。俺の背中の辺りを探すわん」
「な、なんだよ急に?」
「いいから!」
獣王の気迫に押されて俺は、背中の毛の中を弄るとなにか紙切れの様なものを取り出した。
「それはこないだ懸賞に応募して当たった演劇のチケットだわん。丁度二枚あるしローリン嬢を誘うといいわん」
なんの懸賞だよ。異世界にもそういうのあるんだな。ていうかこいつ懸賞とかに応募してるのかよ犬の癖に。
「えぇぇぇ。気分転換ならソフィリーナあたりと二人で行ってくればいんじゃね?」
しかし俺は気だるげにそう答える。だいたい演劇なんて柄でもないし、なにより出かけるのがめんどくさかったのでそう言うのだが、獣王はチッチッチと舌打ちするとなんだかしたり顔で言ってきた。
「ああ見えてローリン嬢はロマンチストな乙女だわん。だから異性と二人で演劇でも見ればいい気分転換になるわん」
そういうもんなのだろうか? 女心というものはよくわからない。
「明日は二人でデートでもしてくるといいわん」
そんなこんなで俺はローリンとデートをすることになるのであった。
次の日。
朝の8時に中央広場の皇帝像の前で待ち合わせをする。昨夜、というか今日だけど、3時頃までうっかり起きていた俺は案の定寝坊をしてしまい15分ほど遅刻してしまった。
「やっべぇなぁ。ローリン怒ってるだろうな。夜更かししていて寝坊したってのは黙っておこう」
それでも俺は走らない。なぜなら疲れるからね。朝っぱらから全力で走るなんてそれこそ身体に悪いってもんだ。朝は布団の上で無駄にゴロゴロしているのが一番、身体にもそして精神衛生にも良いと思うのだよ。
そんな感じで自分で自分に言い訳しつつ約束の場所にやってくるのだが。
おや? ローリンの姿が見当たらないぞ? 朝の中央広場はそれほど人影もなく、とは言っても体操をしたりランニングをしている健康的な人達の姿はチラホラあるのだが、銅像の前には金髪の少女の姿はなかった。
「なんだよ。ローリンの奴も遅刻かよ。まったく時間にルーズな奴だぜ」
ブツブツと文句を言いながら銅像の前で5分ほど待っていると背後から声をかけられた。
「べ……べんりくん」
やっと来やがったか。俺は文句を言ってやろうと思い振り向くのだが。
「どちら様でしょうか?」
目の前にはローリンではなくて黒髪セミロングの美少女が立っていた。
紺色のワンピースに薄い山吹色のカーディガンを纏った可憐な少女は、ちょっと困ったような表情をするとクスっと微笑んだ。
「なに言ってるんですかべんりくん。私ですよ」
え? も、もしかして?
目の前に居る見知らぬ美少女。
それは金髪のウィッグを取った。
聖騎士のコスプレをしていない普通のJKであった。
つづく。
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