第百二話 聖騎士? いいえ普通のJKです。②
金髪ではないので一瞬わからなかったが、落ち着いて見るとローリンだ。気がつかなかったのは、最初にあった頃より髪が伸びている所為でもあったかもしれない。
「お、遅かったな」
なぜだか照れくさくなりドキドキしながら俺は言うのだが、ローリンはちょっぴり膨れながら俺のことを睨んできた。
「なに言ってるんですか。私は約束の時間の十分前にはここに来ていたんですよ」
「え? そうなの? 俺が来た時には見当たらなかったけど」
「べんりくんが迷子にでもなっているんじゃないかと思って探しに行ってたんです」
まーたそうやって俺のことを子供みたいに……いかんいかん、ここで言い返してしまってはまたいつものように喧嘩になってしまう。なんだか知らんが獣王の野郎が偉そうに、今日だけはローリンに何を言われても相手のことを立てて反論するな。と言うので、しょうがないので謝っておこう。
「そ、そうだったのか、遅れてごめん」
「なんだか今日は随分と素直ですね?」
そう言って訝しげな表情で俺のことを見るのだが、素直に謝ったら謝ったでこれだ。まったくもって解せぬ。
それにしても……。
「ローリン、その恰好は?」
「あ、気がつきました? これ」
「そんな服よく売ってたな。こっちの世界では見かけない恰好なんで一瞬違和感を感じたよ」
「買ったんじゃないですよ。これは自分で作ったんです」
え? マジで? すげえな。服って自分で作れるの?
俺が感心しているとローリンは嬉しそうに説明をしてくれる。
綺麗なドレスなんかを着られるのは嬉しいのだが、可愛らしい現代の洋服がどうしても欲しくて自作したのだと言うから恐れ入った。まあ、趣味が高じたものだからさほど難しくはなかったとは言っているがやはりすごいと思う。
「いやぁ、すげえすげえ、マジですげえわ。へー、洋服って自分で作れるもんなんだなぁ」
「もう、そんなたいしたものじゃないですよ。それよりどうですかこれ?」
そう言うとちょっと照れくさそうに上目遣いで聞いてくるローリン。どうと言われても、うんまあすごいと思うよ、マジで。
「店で売ってる物みたい」
「そうじゃなくって……」
なんだか少し不機嫌な様子。なんだよ、最高の褒め言葉だと思ったんだが違うのか?
獣王が言っていた。今日のデートでは、とにかくローリンのことを褒めろと。なぜ俺がローリンの事をいちいち褒めなくちゃいけないのかはわからないが、獣王曰くそうしてやったらローリンが喜ぶと言うのだ。そりゃまあ褒められて気を悪くする奴はいないと思うが。
「本当にそれだけですか?」
なんだそのおねだりする様な目つきは、いつもと様子が違うなこいつ。そんなに褒めてほしいのか? 欲しがり屋かおまえはあっ!
「に、似合ってると思うぞ。特にその……。なんか前より髪も伸びて、と言うかちょっと大人っぽくなった?」
そう言えばこんなマジマジとローリンのことを見るのなんて久しぶりかもしれない。年下の女子高生で子供だと思っていたのだが、なんだかこうやって見ると大人の女性になったなぁ。なんて思ってしまった。
俺の言葉にローリンは俯いてふるふると震えはじめる。
しまった! 間違えたか? やっぱり服のことを褒めれば良かったのか? ユ○クロで売ってそうって言えばよかったかな?
「そ、そそそ、それじゃあっ! 行きましょうかっ!」
しどろもどろになりながら歩き始めるローリン。一体なんなんだ? わけがわからないまま俺は横に並び演劇場へと向かうのであった。
「それにしても演劇ってこんな早い時間からやるもんなの? 夜にやってるのかと思ってた」
「夜間だと明かりが採り辛いですからね。陽の昇っている時間帯にやるのが一般的なんです」
へー、そうなんだ。まあ蝋燭なんかの明かりで劇場を照らしても薄暗くてなにも見えないしな。魔法を使えば明るくはできるけど、あれ高いんだよ。こないだの、まぁぶるちょこっと。のライブは魔族が協力してくれたけど、毎回あんなのをやってたら採算が合わないのだろう。
「ところでべんりくん、朝食は食べてきましたか?」
「いんや、俺は朝飯は食わないタイプだから」
「やっぱり。少しでもいいからちゃんと朝食はとったほうがいいですよ」
「そんじゃまだ時間あるしどっかでなんか食ってく?」
俺が尋ねるとローリンは、ふふん! と自慢げに大きな胸を張り手に持っていたバックを突きだす。
「そうだと思ってちゃんとお弁当を作ってきました。飲み物も持って来たので劇場で一緒に食べましょう」
「おー、気が利くじゃないか。おまえの弁当は美味いからな、コンビニ弁当ばっかだとやっぱ飽きるから無性に食いたくなる時があるんだよ」
「な、ななな!? なに言ってるんですかっ! 今日のべんりくん変ですっ!」
なんなんだよ? 変なのはおまえの方だ。今度はマジで褒めてやったのに真っ赤になりながら怒り出す意味がわからない。
とまあそんな感じで他愛もない会話をしながら街を歩いていると、これはこれでデートっぽいと言えばデートっぽいと思うのであった。
「そう言えば、今日観る演劇ってなんていうやつなの? ロミオとジュリエット?」
「違いますよ、こっちの世界にシェイクスピアがあるわけないじゃないですか。今日観るのはそのなんと言うか……」
なんだか恥ずかしそうに口籠るローリン。そうこうしている内に劇場前に辿り着き、演目を見た時に俺はその理由を理解する。
『聖騎士物語 ~ 聖剣を受け継ぎし者 ~』
ああ、これは恥ずかしいね。すごく恥ずかしいね。
つづく。
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