第七十二話 選ばれし9人の歌姫達③

 今この場で歌って踊って見せろと言うローリンの無茶振りに動揺の色を隠せないエミール。他の皆はなにも言わずに黙って成り行きを見守っているという感じだ。

 流石にこれは酷だろうと止めに入ろうとするのだが、先に口を挟んだのはオルデリミーナであった。


「ロ、ローリン、急に何を言うんだ。流石にいきなりと言うのは無理があるだろう、まだ練習もなにもしていないのだ。上手くできるわけがない」

「わかっています姫殿下、私はなにも上手く歌え、上手く踊れとは言っていません。エミール副団長が引っ込み思案なのも存じています。だからこそ、今この場でそんな無茶振りにも応えられる覚悟を見せて欲しいのです」


 なるほど、ローリンの言う事は一理ある。これから俺達がやろうとしていることはそんなに甘いものではないと言う事だ。こんなたかが数人の前で臆して、恥かしがってなにもできないと言うのであればお話にならないだろう。


 ローリンの言葉を不安気な顔で黙って聞いていたエミールであったが、胸の前でキュっと握り拳を作ると覚悟を決め立ち上がる。


「わかりました。ローリンさん……いえっ! 皆さんに私の覚悟、お見せしましょうっ!」


 そう言って皆の前に立ち深呼吸を二回すると、エミールは歌い始めた。



「わぁぁぁたあああぁしはあああああえみ~ぃぃぃぃいるぅぅううほのかあああああすうううううゆうううちゅうううううん~」



 嘘だろ……。誰だよ歌と踊りは得意だって言ってたのは? あ、オルデリミーナだ。予想通り下手だったなやっぱ、どうすんだよこれ?


 騒音をまき散らしながらカクカク踊るロボットみたいになっているエミールの姿を見て、俺のみならずその場にいた全員ががっくりと肩を落とすのであった。



 そして、次の日から過酷なトレーニングの日々が始まった。



 舞歌祭が開催されるのは約一か月後、それまでにこのド素人達を一端のアイドルに育て上げなければならない。そこでまず俺は個々人の能力を見極める所から始めた。


 評価項目は、歌唱力、ダンス、演技力、容姿、潜在能力の五つ。それをそれぞれ五段階で評価した。


 そしてこれがそれぞれの成績表だ。



 まずコンビニ組。


 ソフィリーナ

 歌唱力4・ダンス3・演技力5・容姿4・潜在能力4


 ローリン

 歌唱力3・ダンス3・演技力4・容姿5・潜在能力4


 ぽっぴん

 歌唱力2・ダンス5・演技力5・容姿3・潜在能力3



 次に魔族組。


 メイムノーム

 歌唱力3・ダンス2・演技力1・容姿4(変身後5)・潜在能力∞


 リリアルミール

 歌唱力5・ダンス2・演技力1・容姿5・潜在能力2


 リサ

 歌唱力ゴミ・ダンスカス・演技力変態的・容姿見た目だけはマシ・潜在能力知りたくもない


 シッタシータ

 歌唱力5・ダンス5・演技力5・容姿5・潜在能力5



 そして騎士団組。


 オルデリミーナ

 歌唱力3・ダンス3・演技力1・容姿4・潜在能力2


 エミール

 歌唱力1・ダンス1・演技力1・容姿1・潜在能力センスの欠片もない




 この結果は一応客観的に見たものではあるが、当然俺が評価している以上若干の主観は入ってしまっているかもしれない。


 ソフィリーナが意外に卒なくこなすので少し驚きはしたが、それにしても圧倒的な実力のシータさん。やはりなにをやらせても絵になると言うか。本当にこの人、魔神じゃなくて女神だろマジで、いやまあ男だけど。


 それにしても、肝心の騎士団組がまるで使い物にならない。こいつらは最早裏方に回した方がいいレベルだ。


「う~ん……このままだとやっぱ、シータさんとリリアルミールさんとソフィリーナがセンター候補かなぁ」

「べんりべんり?」

「うん? どうしたのメームちゃん?」


 頭を悩ませていると俺の膝の上でメームちゃんが見上げながら質問してくる。


「めーむのそろ曲はある?」

「どこでそんなことを覚えたのかなぁ?」

「そふぃりーながゆってた。ゆうしゅうな人材にはそろでびゅーってのがあるって」


 あいつか……。


「うーん。がんばったら考えておくね」

「うん。めーむがんばる」


 そう言うとメームちゃんは膝の上から飛び降りてパタパタと皆の元へ走って行き再び練習を始めるのであった。



 毎日午後5時に閉店すると6時から特訓を始める。それは夜中の1時を回ることもあった。

 なにせ時間がないのだ。一日の労働後の練習は過酷かもしれないがそれでも足りないくらいだ。まあ体力に関してはコンビニのドリンクで回復できるので問題はないけどね。


「ふぅぅ~、まあまあ合わせられるようになってきたかしら?」

「流石です姐さん、はいこのタオルで汗を拭いてください」

「ありがとうぽっぴん」


 ぽっぴんから真新しいタオルを受け取ると汗を拭うソフィリーナ、そしてキンキンに冷やしたドリンクを飲みながら騎士団組の方へ目配せすると聞えよがしに言う。


「あーあ、それにしても。誰かさん達が足を引っ張っている所為で全然進まないわよねえ」

「まったくですね姐さん。まあ、センターは姐さんがするのは当然として、あいつらやる気あるんですかね?」


 その言葉に騎士団組は言い返すこともできず項垂れている。酷い言われようであるが、実際にオルデリミーナとエミールは足を引っ張っていると言わざるを得ない。

 なにをやらせても標準のオルデリミーナとまるで上達しないエミールのペア。エミールに合わせている分オルデリミーナは全然進歩が見られない。

 立場上どちらにもいい顔をしなくてはならないローリンも口を出せずにいた。


 魔族組は魔族組でマイペースであった。

 すべてをパーフェクトにこなすシータさんを筆頭に、抜群の歌唱力のリリアルミールさんと、愛くるしさでは髄を抜くメームちゃん、そしてその周りをチョロチョロするリサ。



 はっきり言って纏まりがない。このままではギスギスした空気のままこのチームは空中分解してしまう。まずいぞぉぉぉ、非常にまずい状況だぁぁぁ。


 と言うわけで俺は皆を集めるとある提案をすることにした。




「強化合宿を行いたいと思いますっ!」



 つづく。

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