第七十一話 選ばれし9人の歌姫達②

 動画が終わると静まり返る店内、俺は電気を点けると再び皆の前に立ちゆっくりと告げる。


「と言うわけで、皆さんにはこれをやってもらいます」


「できるかあああああっ!」



 間髪入れずソフィリーナが叫びいつの間にか手にしていたビールの空き缶を俺に投げつけてきた。


「あっ、てめえ! いつの間に飲みやがったんだこのやろうっ!」

「うるせーっ! あんた馬鹿でしょ? なんでこの歳になってこんな恥ずかしいことをしないといけないのよっ! あんたここに居るメンバーの平均年齢わかってんの? そこの角とかチ〇コとか生えてる一団の所為で200歳近いのよ? BBAアイドルグループなんてどこに需要あんのよっ!」


 魔族組を指差しながらなんか叫ぶソフィリーナであるが、チ〇コとか言うなよマジで……。


「わ、わわっわ、私はいっこうに構いませんよおっ!? メイちゃんがこの恰好で踊る姿を、ぐへへ……この目に焼き付けてげへへ……ハっ! でも一緒にやったらステージの下からスカートの中覗けないっ!」


 そう言いながら頭を抱えて悩みだすリサに飛び蹴りを喰らわせるメームちゃん。うんうん、いつもの光景だね。この茶番は繋ぎのMCに入れようと思っていると、その横で神妙な面持ちをして顎に手を当てていたシータさんが手を上げる。


「べんりさん質問です」

「なんでしょうシータさん?」

「これはとても重要なことですので、後腐れのないようにちゃんとお答えください」


 な、なんだろう? 結構真面目なトーンだぞ。ここはふざけないでちゃんと答えた方がいいな。この人、魔神に最も近い魔族だし。


「わ、わかりました。ちゃんとお答えします」

「ずばり、センターは誰がやるのでしょうか?」


 シータさんの言葉に全員の動きが止まる。そしてその視線が俺に集中するのであった。


 しまった、そこまで考えてなかった。確かにそれは重要なことだ。アイドルグループに於いてのセンター争奪戦は熾烈を極める。ここでの人選を誤れば、このアイドルプロジェクトは始動する前に頓挫してしまう恐れもある。


 どうする? 誰だ? 誰にするべきなんだ? ここはやはりエミールにするのが自然な流れだよな? よしっ!


「そ……そりゃもちろん、エミ」


 そこまで言って俺は口を噤む。


 な……なんだよこいつら……。俺がエミールと言おうとした瞬間、あの子だけはないでしょ? みたいな目で全員俺のことを睨み付けてきている。


 戦争だ。もう既に戦争は始まっていたっ!


 くそっ、なんてことだ。よくよく振り返ってみれば、なんかここに集まった時から既にピリピリしたムードだったような気がする。

 ソフィリーナもローリンも最初は渋ってたくせに、なんでここに来て闘争心剥き出しにしてんだよ。


「はいはいは~い。べんりさん、は~い」


 ニコニコしながら手をあげるのは魔王・リリアルミール。


「はい、リリアルミールさん。どうぞ」

「一番おっぱいが大きい人がセンターと言うのはどうでしょう?」


 その言葉に全員が青褪める。なぜなら、言った本人が一番大きいからだ。

 次にエミール、ローリン、ソフィリーナと言う順だろうか。それ以外はまあはっきり言って、目くそ鼻くそだ。


「な、なぜ胸の順なのでしょう?」

「その方がバランスがいいと思いませんかぁ?」


 全然わからない。なんのバランスなんだ? まあおっぱいが大きいことは良いことだと思うが、ちっちゃいのも良いことだ。


 その後は皆が皆、ああした方がいいこうした方がいいと、自分が有利になる条件合戦になり始めたので、センターは今後の練習や上達度合いを見て決めるとして保留にしておいた。


「さて、と言うわけで皆さん。今更言うまでもないとは思いますが、このエンパイアーアイドルプロジェクトの成否によって、来年以降も舞歌祭が継続されるかどうかが決まると言っても過言ではありません」

「いやいや、まだやるとは言ってないんだけど」


 ソフィリーナが手を振りながら突っ込みを入れてくる。

 ふざけんなよ。さっきまで、センターは美の女神である自分以外にはありえないでしょ? とか言って騒いでたくせに、て言うかおまえは単なる派遣社員だろ。


 と、ここまでほぼ黙って聞いていたローリンが口を開いた。


「まあ、ここまで来たらやってみてもかまわないですけど。始める前に確認しておきたいことがあります」


 やけに真面目なトーンで話すので、皆固唾を飲んでローリンの言葉に耳を傾ける。


「どんなことでもやるからには、私は手を抜くつもりはありません。だから再度確かめさせてもらいます。エミールさんっ!」

「は……はははっ、はい?」


 突然名前を呼ばれたのでものすごく動揺した様子で返事をするエミール。

ローリンはエミールの眼を真っ直ぐ見据えると問いかける。


「あなたは本気で舞歌祭の廃止を食い止めたいと思っているのですね?」


 その問い掛けにエミールは一瞬迷った様子を見せるのだが、すぐにローリンの眼をキリっと見つめ返すと決意の言葉を発した。


「はい。私はこのレギンス帝国伝統の舞歌祭を、オルデリミーナ皇女殿下の為に昔の様に再び活気溢れるものにしたいです」

「エミール。おまえ、そんなことを思って」


 エミールの言葉にオルデリミーナは少し目を潤ませる。


 その決意を前にローリンは微笑んで頷くと立ち上がり、エミールに向かって更に言い放った。


「ならばあなたのその覚悟っ! 今ここでお見せくださいっ! 今この場で、我々の前で歌って踊って見せてくださいっ!」


 ローリンの唐突な提案にエミールだけではなくその場に居た誰もが驚くのであった。



 つづく。

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