第七十話  選ばれし9人の歌姫達①

 チラチラと俺のことを上目遣いで睨んでくるローリンは、「はぁ……」と小さな溜息を吐くと質問を続ける。


「それで? 私になにを頼みたいんですかべんりくん」


 舞歌祭ぶかさいを盛り立てる手伝いをすると約束した俺は、まず計画の第一段階としてローリンの元へとやってきた。

 そこで先ほどまでのエミールさんとのやりとりを説明するのだが、ローリンはなぜか少し不機嫌な様子、一体なにが気に食わないのだろうか?


「おまえコスプレイヤーだったって言ってたじゃん? まあ今もそれコスプレみたいなもんだけど。つまりメイクとか得意だろ? おまえのその技術でこのエミールさんをメイクアップして欲しいんだよ」

「は? メイクを? なんの為にですか?」


 いやだから説明したじゃん。俺のエンパイアーアイドルプロジェクトの内容をちゃんと聞いてなかったのかよこいつ。


「そりゃおまえ。歌と踊りって言えばアイドルだろ? だからこのエミールさんをだな」

「アイドルプロデュースするってことですか? なるほどぉ……べんりくんって本当に節操ないですよね。こないだだって、メームさんと結婚するとか言っておきながら、そのお母さんにプロポーズしちゃうし、かと思えば今度は姫殿下のお友達にご執心なんですか? ふ~ん」


 あーもうっ! なんなんだよこいつめんどくせえな。嫉妬か? 嫉妬してんのか? 構ってちゃんかよまったく。


 話が進まないので苛々していると、ローリンの言葉に異常な反応を示したのはオルデリミーナであった。


「ロ……ロロロ、ローリン? け、けけけ、結婚とはなんだ? ぷ、プロ……ぽ……プロポーズとは一体なんの話だあああああっ!?」

「あ、姫殿下は知りませんでしたっけ? 実はかくかくしかじかでして」


 ローリンの説明にオルデリミーナは口をあんぐりと開けて固まっている。一体なんだって言うんだ。

 するとオルデリミーナは俺の方へ歩み寄ってくると胸倉を掴みあげて怒声をあげた。


「きさまあああああああっ! あの時、私のことを一生守ると言ったあの言葉は嘘だったのかあああっ!」

「えええええっ!? なにそれ言ってねえし!? 俺そんなこと言ってねえしぃっ!」

「言ったであろうっ! 地下ダンジョンで生き埋めになり二人きりになったあの時、私の眼を見つめながら、わ、わわわ、私となら生きていると実感できると、だから、き……きき、君のことを一生守ってみせるとおっ!」


 顔を真っ赤にしながら堂々と嘘を吐くオルデリミーナ。いや、こいつの中ではそれが真実なのだろう。一体どんなフィルターを通したらあの時のあの台詞がそんな風にねじ曲がって伝わるんだよ。吊り橋効果ってやつか? て言うか魔族と聖騎士が和解したって件はどうでもいいのかよ。


「べんりくん……最低ですね」


 俺のことを冷ややかな目で見つめるローリン。おまえには言われたくねえし。


 そんなこんなで、今回の件とはまったく関係ないことでひとしきり大騒ぎして一息つくと、俺はまた舞歌祭の話を再開する。



「と、とにかくだ。今回の俺の計画ではエミールさんだけではなくて、他の人達の助けも必要不可欠になってくる。それはローリン、おまえだけではなくてソフィリーナやぽっぴん、それからメームちゃんやリサなんかにも手伝って貰おうと思ってるんだ」


 俺の真剣な態度に流石にローリンも今度はちゃんと説明を聞いていた。


「一体なにをしようとしてるんですかべんりくん?」

「まあそれは後でちゃんと説明するから。そういうわけで今夜、店が閉まった後にうちにもう一度集まって貰いたいのだがいいだろうか?」


 エミールさんとオルデリミーナに問いかけると、二人は顔を見合わせた後大きく頷くのであった。



 その日の夜。



「皆さん、本日は大変お忙しい中お集まり頂き誠にありがとうございます。さて、皆さんにお集まりいただいた理由は、昼に少しだけご説明したかとは思いますが、改めてここで詳しくご説明させて頂きたいと思います」


 今、俺の目の前には九人の女性が居る。全員俺が昼の内に声をかけておいた女性たちである。

 皆椅子に腰掛けて正面に立つ俺のことを怪訝顔で見つめているのだが、その九人とは。


 エミール。オルデリミーナ。ソフィリーナ。ローリン。ぽっぴん。メーム。リリアルミール。リサ。シッタシータ。


 それぞれ年齢も職業も種族も違うが、性格や人間性はともかく全員見た目だけは並み以上の持ち主ばかりだ。エミールは普通だけど。


「ねー、べんりくん。なにをしようとしてるの? なんかの面接?」

「おしいな、ソフィリーナ。面接なんて野暮なことはしない、君達はもう既に俺基準で最終選考を通った選ばれし者達なのだよ。主に顔面偏差値で」


 ソフィリーナは眉を顰め小首を傾げているのだが、こいつは馬鹿だからそれで納得したようだ。


「べんりさん。私はプリンを貰えると聞いたからここに来たのですよ。約束はちゃんと守ってください」

「うるせーな。来たもなにもおまえはここに住んでるだろ。あとでプリンはやるから大人しくしてろ」

「むぅ……」


 不満そうに頬を膨らますぽっぴん、こないだの一件で更にプリンへの執着が増したような気がするなこいつ。


 そして皆が皆、思い思いの質問をしてくるのだが、質問タイムは後で設けるので今はまず見て貰いたいものがあると言って黙らせると、俺は売り場に移動させておいたバックヤードのテレビにスマホを繋いだ。最近のコンビニにはテレビに映像を出力するケーブルも置いてあったりするから本当に便利だよね。


「今から皆さんにご覧いただく動画。これは私が以前暮らしていた国で、空前の大ブームを巻き起こしたアイドルグループのPVになります。それに今回の舞歌祭を成功させる最大のヒントがあります。それでは、ご覧ください」


 皆が皆、固唾を飲んでテレビ画面を見つめている。俺はスマホの動画再生ボタンをタップした。


 薄暗い店内で煌々と輝くテレビ画面に映し出されたのは、テレビアニメのライブシーンの映像であった。




つづく。

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