第四十三話 第二宮とんで第三宮のふれんず?②

 目の前いる生物の名前を俺達はまだ知らない。


 見た目は間違いなくアルパカなのだが直立二足歩行なのがまずおかしい。そして人語を介しているのもおかしい。いや、それはいいか、仲間に喋る犬がいるし。

 それにしてもどういうことだ? あれの通りならここ第三の宮には双子のあれがいるはずなのだが、このアルパカが双子なのだろうか?

 俺達が何も言えずに立ち尽くしているとアルパカの方から話しかけてくる。


「ここにお客さんが来るのは久しぶりだよぉ」

「そ、そんなに誰も来ないのか?」

「来ないね、全然来ないね」


 よし、まずここまでのやりとりは予想通り。


「ち、ちなみに、俺達は客じゃないんだが」

「なんだぁ、客じゃないのかよ。ぺっ」


 これも想定内だ。よしよし、上手く俺の思い描いた通りに話しが進んで行っているぞ。


「わんちゃんっ!」


 しかしメームちゃんがそう言ってアルパカに駆け寄り抱きつく。


 くっ! いきなり想定外の展開ですよ! メームちゃん、それ犬じゃないから、て言うかもしかしてモフモフできるものは全部犬だと思っているのか? であればアルパカはモフモフの最上位クラスの生物だからな、言うなればキングオブモフモフだ。


「あんれぇ~、メイムノーム様までいらっしゃったんですかぁ。これは美味しい紅茶を淹れないとぉ」

「めーむ。ぴーちのやつがいい」

「はいはい。アイスピーチティーだね。ちょっと待っててくださいねぇ」


 そう言うとアルパカは奥に行って作業を始めるのであった。


 せっかくやる気満々だったのにぽっぴんは拍子抜け、かくいう俺達もこれからあいつと戦うような感じもしないので気を抜いていたのだが、一人だけ、いや一匹だけ違った。


 なにやら一匹殺気立ち苛々している様子の獣王、一体どうしたと言うのか?


「獣王、どうしたんだ?」

「あ? おまえらこそ気を抜いてんじゃねえ、あいつは敵なんだぞ」

「とは言っても、なんだかそんな感じじゃないしさ」


 それでも納得のいかない様子の獣王。どうしてそこまであのアルパカに対して敵意を剥き出しにするのか、なにか奴に対して因縁でもあるのかと勘繰ってしまう。

 しかしそこで俺はあることに気が付く、メームちゃんがアルパカにしがみ付いてずっとモフモフしている様子を見て獣王は苛々しているみたいだ。


 こいつ……まさか……。


「……嫉妬か」

「はあああああっ!? べ、べつにそんなんじゃないしいいいいっ! だいたい俺は愛玩動物じゃねえんだよっ! モフモフなんかされたって嬉しくねえのっ! 俺は獣王だよ? 獣の王なんだよっ!? わかるうううっ!?」


 なにが獣の王だよ。おまえは最早「けもの」だよフレンズなんだよ。


 そんなことをしているとアルパカが皆の分の紅茶を淹れてくれる。俺達はアルパカがセッティングしてくれたテーブルに着き放課後ティータイムを楽しんだ。


「ふ~、なんか落ち着くな」

「そうですね、これにプリンがあれば言う事ありませんね」


 ぽっぴんも一息つきながら言う。紅茶のお茶請けにプリンかよ。まあ、ありっちゃありなのかな?

 ソフィリーナとローリンもまったりした様子だ。


 それにしてもなんだか気持ち……よく……。まさか!?


 俺は咄嗟にアイテム袋からパワビタンを取り出すのだが他の皆は間に合わなかった。全員テーブルに突っ伏してしまっている。


「くっ、迂闊だったぜ。敵の出すもんに何の警戒心も持たずに口をつけちまうなんて」


 俺はパワビタンのおかげでステータス異常も回復したが、他の皆は眠りに落ちてしまっている様子だ。


「ふふふ。もしこれが睡眠薬ではなく致死性の毒だったら、あなた方は既に命がなかったですよ」


 こいつの言うとおり。だが、だとしたらミスを犯したのはこいつも一緒だ。


「確かに、命のやりとりをしているってのに危機感がなさすぎた。だがそれはおまえも一緒だぜ。即死性の毒を盛らなかったおかげで、俺はこうして意識を保ち反撃するチャンスを得た。これはおまえの隙だっ!」

「なるほど、それは一理ありますね。いいでしょう! この第三の宮の守護者、アルパ・カシーノがあなたのお相手をして差し上げましょうっ!」


 一体こいつがどのような能力を持つ相手かはわからないが、今戦えるのは俺しかいない。はっきり言って勝つ自信はないけどやるしかないよなぁ。でも痛いのは嫌だしなぁ。


「待ちな! おまえの相手は俺がするぜ」


 俺が迷っているとそう言って前に出たのは獣王であった。


「獣王おまえ、私の出した紅茶を飲まなかったの?」

「生憎俺は紅茶なんて洒落たもんは口に合わないんでな。べんり、こいつの相手は俺がする絶対に手を出すんじゃねえぞ」


 なんだこいつ、なに言ってるんだ柴犬のくせに。て言うかマジで戦うつもりなのか?


「お、おいっ! おまえ、そんな姿でやるってのかよ?」


 俺がそう問いかけると獣王は振り返りもせずに背中で語り始める。


「べんり、おまえは体格や容姿が相手に劣っているって理由だけで諦めちまうのか? 違うだろ? 男ってのはなぁ、そんな見てくれだけで戦うんもんじゃねえんだよ……気持ちだよ。魂だよ! 気持ちが負けちまったらそこで勝負は終わりなんだよ」


 おいおいなにカッコつけてんだよ。おまえ……マジかよ? そんなこと言ったってよ。おまえは……おまえは。



「四貴死最弱の単なる犬が魔闘神に勝てるわけないじゃんっ!」



 俺が止めるのもお構いなしに飛びかかる獣王であったが、アルパ・カシーノにワンパンで伸されるのであった。



 つづく。

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