第四十一話 第一の宮の守護者②

 余裕の笑みを浮かべながら俺達のことを見ているリサさん。誰もがこの展開に驚き言葉を失っているようだが、俺はその時まったく別のことを考えていた。


 うぜえ……こいつマジうぜえっ! メームちゃんが毛嫌いする理由が理解できたぜ。こいつ絶対にあれだ。ここでこうやってドヤ顔したいが為に散々小芝居うってやがったんだ。

 だってさっき上でセッティングがどうたらこうたらとか言ってたもん、その部分聞き逃してねえからな。ちっきしょうぉぉぉ、ムカつくうううう。


「リ、リサ……おまえ、魔闘神の一人だったのか?」

「騙すような真似をしてしまいすみません獣王さん」


 獣王は悔しさを噛み殺すような表情をするのだが、口元に小さな笑みを浮かべると「やっぱりな。薄々感づいてはいたよ」みたいなことを言う。なんかもうそのやりとりがムカつく。

 早くこの茶番を切り上げなければ、そうしないとなんかやる気なくなりそうだよ俺。


「あー、はいはい御苦労さんだったねえ。皆行くぞー」


 俺は皆に先に進むことを促し、リサの横を素通りしようとしたその時。


ヴァージンっ!処女の ロオオオオ細道オオオド!」


 リサが叫んだその瞬間、俺はそこから先へ一歩も進めなくなった。

 体が動かないわけではない、感覚は正常だし、手も動くし足も動く、ただ前へ一歩踏み出す、ただそれだけのことができないのだ。


「な……なにをした?」

ヴァージンロード処女の細道は鉄壁の守り。技を受けた者が童貞であれば、そこから先へは一歩たりとも進むことは敵いません。ちなみにこの技は魔闘神が三人がかりでも破ることはできないと既に証明済みです」


 な……んだと? なんでそんな強力な技を……なんで童貞だけなんていう限定条件に設定してんだよこいつ! 皆で意気揚々とやってきたら、「童貞お断り」って言われてそこから先は自分だけが進めないなんて……なんて惨たらしい技なんだよ! こいつ鬼かよ! て言うか魔闘神の中に童貞が三人もいることが既に確定っ!


「お、おそろしい技ね。これじゃあ八方塞よ。べんりくんにはどうやったって先に進むことはできないじゃない。いきなり詰んでるじゃないこれ。どうする? もう帰る?」


 おいっ! ふざけんなよ駄女神! 童貞だから諦めようとか、そんなの……そんなのあまりにも酷い差別じゃないかあっ! 童貞差別じゃないかああああっ!


 俺は涙目になりながら皆を見つめる。


「うぅぅぅぅぅ……童貞であることがこんなにも苦痛なことなんて初めてだぁぁぁ、うぐっ、えぐぅっ、うああああああんっ! もうおまえらのうちの誰でもいいからこの場で筆おろししてくれよおおおおおおっ!」


 その言葉に全員がドン引き、て言うか例え誰かがしてくれたとしてもその瞬間俺は死ぬ。あまりにも動揺しすぎてそのことを失念していたことに気が付いたのはこれよりもずっと後の話です。


 取り乱す俺に向かってリサが怒声をあげる。


「狼狽えるな小僧おおおおおおおおおっ!」

「狼狽えるわこのドMがああああああっ! だいたいてめえの所為でこうなってんだよこのやろうっ! ぶっ飛ばすぞっ!」

「え? そ、そうなんですか? ご、ごごご、ごめんなさいっ!」


 俺のあまりの怒りにリサの方が狼狽え始める。なんなんだよこいつ、一体なにがしたいんだよ。


「あ、あの、私はただ、皆さんに助言をする為にちょっとしたドッキリを用意しただけでして、べ、べつに邪魔をしようってわけではないんですよ? 本当ですよ?」

「うるせえっ! 例えその気はなかったとしてもおまえは童貞おれたちの心を酷く傷つけたんだっ! 童貞はナイーヴなんだぞっ! 絶対に許さないからなっ!」




 とまあそんなわけで、ヴァージンロードは解いてもらってリサの話を聞くことにする。

 リサはその間メームちゃんに太腿を何度もパンチされていたが気にしない。と言うかそれ喜ぶだけだからやめた方がいいよメームちゃん。


「ここから先は、88の魔闘士の頂点に立つ魔闘神達が待ち受けています。彼等を相手にあなた方はそんな武器で戦いを挑むつもりですか?」


 リサはローリンの剣と、ぽっぴんの杖を指差して言い放つ。


「こ、これは聖剣ですよ? それでも通用しないと言うのですか?」

「む……失礼ですね。私の愛杖は無敵の杖ですよ」


 すこしムッとした顔で二人は反論するのだが、それを窘めるようにリサは小さく首を振り言う。


「いいえ。どんなに強力な武器でも手入れを怠ればそれは鈍ら《なまくら》と同然。あなた方は気づいていないかも知れませんが、その二つにはこれまでの死闘で負ってきた無数の傷がついているのです」


 へー、俺この展開知ってるなぁ。


「私には聞こえますよ。武器達が苦痛の声を上げているのが、ですからそれを私が今この場で治してさしあげましょう」


 リサがそう提案すると、ローリンとぽっぴんは二人顔を見あわせて同時に頷くと冷たく言い放った。


「「結構です」」


 きっぱりと断ってやって俺達は先を進むことにした。


「まったく、ドMガチレズメイドの所為で無駄な時間を浪費しちまったぜえ」

「べんり。あいつころす?」

「メームちゃん、殺すなんて言っちゃ駄目ですよぉ。て言うかあんな奴に触っちゃダメですよ。変態が感染うつりますからねー」


 なんか後ろから叫び声が聞こえるけど気にしない気にしない、ここから先あと11人も相手にしなくちゃいけないんだから急がないとね。



「うわあああああんっ! 無視しないでくださいよぉぉぉぉおっ! 放置プレイですか? 放置プレイですかあああああっ!?」



 つづく。

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