第四十話 第一の宮の守護者①
「それでは、参りましょうっ!」
ローリンの一声で気を引き締める。ここから先はどんな強敵が待ち受けているかもわからないのだ。一瞬の気の弛みが命取りになる可能性もある。呪いではなく敵に殺されてしまっては元も子もないからな。
「私は一足先に戻らせて頂きます」
そう言ったのはリサさんであった。
どういうことだ? 俺は疑問に思い聞き返した。
「え? 一緒に行かないんですか?」
「色々とセッティングがござ……いえ! 私が居なくなったことを感づかれたら色々とあれでしょうしとにかくっ! 何事もなかったかのようにしてきますのでっ!」
なんだか怪しいなこいつ。やっぱり俺達のこと嵌めようとしてんじゃねえのか? まあいいや、そうだったとしても現状は、魔王の元に行かなければならないことに変わりはないわけだし、騙されたフリをしといてやるか。
俺はリサさんを送り出す前に最後の質問をした。
「ところでリサさん……ずっと気になっていたのですが」
「なんでございましょうか?」
「なんでボロボロだったんですか?」
リサさんがこの店に飛び込んできた時傷だらけだったのは、追っ手かなにかにやられた所為だと思っていたのだが違うのだろうか?
するとリサさんは、フっと口元に笑みを浮かべると入口の方を指差して言う。
「あれは、あそこの段差で転んだんです」
あぁそう……なんか色々考えて損したわ。
そうしてリサは去って行った。
その際、名残惜しそうに何度も振り返りメームちゃんに手を振るのだが、全部無視されたのであった。
「よーし、そんじゃあ気を取り直して行こうぜっ! よくよく考えれば、こちら側には最強の聖騎士様と、大賢者様が居るんだ。相手が黄金〇闘士だったとしても引けはとるまい」
ちなみに俺は戦力外な。俺は戦闘担当ではなくどちらかと言うと頭脳担当の方だから、バトルは女子達に任せておけばいい。
「べんりくんべんりくん! いざとなったらわたしも戦うから任せてよ」
ソフィリーナが腕をくるくる回しながら意気揚々と言う。
そういやこいつ女神だしな。実は魔族とかに対して絶大な効果の技とかが使えたりするのかもしれない。
「えー、本当に大丈夫なのかよ?」
「任せてよっ! こう見えてわたし、派遣とはいえ女神検定一級を持ってるんだから」
ん……今なんて? 派遣? 検定? どういうことだ?
「え? 検定一級って……」
「そうよ。すごいでしょっ! それでも最近は就職難で、資格持ちでもなかなか雇ってくれる所がなくてね。まあ派遣って言ってもやる仕事は一緒だから、キャリアも長いし頼りにしてくれていいのよ」
嘘だろ? こいつ……派遣社員だったのかよ。て言うか女神ってそういうもんなの? もういいや、それでこいつが駄目な理由が理解できた気がするよ。
さあ今度こそ本当に行くぞ! いい加減マジで出発しないと俺死んじゃう。
ようやく店を出ると俺達は下の階層へと向かう。獣王の説明では20階まで降りれば
道案内役で獣王を先頭に、その獣王にメームちゃんが跨り乗っかって行く。俺達はその後ろを4人でゾロゾロと連れだって進んで行った。
20階層までは特にモンスターと出会うこともなくすんなりと行けた。
まったく敵にエンカウントしないなんて逆に不気味でもあったが、楽に来れたので良しとしよう。
エレベーターの前まで行くとぽっぴんが感心した声をあげる。
「むむ!! これは驚きです。この装置は、古代シンドラント王朝時代に発明されたと言われている魔法昇降箱に酷似していますね。今は失われた技術とされているものなので私も実際に目にするのは初めてなのですが、間違いないでしょう」
ほぉほぉ、珍しく賢者っぽく博識なところを披露できたじゃないか。加減の出来ねえ大火力魔法をぶっ放すだけのお馬鹿さんではなかったんだな。
「なんか今、心の中で私のこと馬鹿にしませんでした?」
「してないよ。むしろ褒めてた」
若干、小ばかにしたけどな。
箱の中に入り壁に付いているフロアパネルにぽっぴんが触れて魔力を流し込むと、ふわっと浮き上がるような感覚がした。エレベーターで感じるのと同じなのでこれは下っているのだろう。
どれくらい下ったのだろうか? ようやく止まると扉が開き俺達は箱から降りる。
外に出た瞬間、全員の口から感嘆の声が漏れた。
目の前には壮大な景色が広がっていたからだ。そこには草木が生い茂り、美しい花畑が広がっていた。
こんな地下に自然豊かな場所があるだなんて思いもしなかった。それになんだか太陽が昇っているかのように明るい。まるで地上と変わらないじゃないかとさえ思えた。
獣王の後に続き進んで行くとギリシャ建築風の建物が見えてきた。
そこで一度足を止めると獣王が振り返り言い放つ。
「ここからはもう後戻りできないわん。戻れる時は、12人の魔闘神達全員を打ち負かし魔王様に拝謁することができたか、或いは魔闘神に敗北し死体となってか、そのどちらかだわん! 覚悟はできたわんっ!?」
死は元より覚悟の上! と言うかマジで命懸けなのって俺だけじゃね?
「四の五の言ってったって始まらねえからな……」
俺は覚悟を決めると拳を前に突き出す。
するとソフィリーナ、ローリン、ぽっぴんも拳を前に突き出してそれを合わせた。
「女神の祝福をみんなに」
ソフィリーナが言う。
「聖騎士の名に誓って、みなさんをお守りします」
ローリンが続く。
「私の魔法と頭脳で、あらゆる困難を振り払ってみせます」
ぽっぴんも続く。
獣王の上に跨ったメームちゃんも拳を上に伸ばしてちょこんと触れた。
「めーむもがんばる。あとわんちゃんも」
「俺もですか? わん」
全員の気持ちが一つになったところで俺は気合いを入れた。
「行くぜっ! 絶対に全員で無事生きて帰ってこようぜっ!」
さあ! ここからが俺達の本当の戦いだ。12人の魔闘神達を倒して必ずや魔王の元に辿りつく、そして俺とメームちゃんの結婚式を挙げるのだっ!
第一の宮まで行くと既にそこの主が表に出てきて待っていた。
「お待ちしていましたよ皆さん」
笑顔でそう言い放ったのは、美しい鎧を身に纏ったリサであった。
つづく。
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