第三十二話 嫁にするならロリ魔族?⑤

「べんりくんっ! パワビタンZですっ! 飲めますかっ!?」


 ローリンは俺の口の中に強引にパワビタンを含ませると、手で鼻と口を塞ぎ飲み込ませる。

 そのおかげで俺はすぐに怪我も回復し意識を取り戻すのだが、朦朧とした意識の中で見た光景を思い出すと、ローリンに問いかける。


「い、今のは? 獣王さんをあっと言う間に倒しちゃった女の人は一体」


 その問いにローリンは一瞬暗い顔をするも、俺から視線を外し前方をキっと見据える。その先に居るのは……。


「彼女……ですか?」


 そうだ。あの白く輝く銀色の髪をしたおっぱいの大きい、なんかエロい恰好したお姉さん。


「彼女は……メームさんです」

「は? 今なんて?」


 ローリンの言った意味がよくわからず聞き返す。しかし、ローリンは真剣な眼差しで、いや、あれは敵を見据える眼だ。目の前の銀髪の美女に対して敵意を剥き出しにしている。


「べんりくん。信じられないかもしれませんが、彼女はメームさんです。べんりくんがやられた姿を見てメームさんは酷く動揺した様子だったのですが、突然叫び声をあげるとあの姿に変わり、獣王を消し去ってしまいました」


 なにを言っているのかよくわからない。あの可愛らしいロリっ子だったメームが、あんなグラマーな美女に変身したと言うのか? だったらそれは……超ラッキーじゃね? 俺は心の中でガッツポーズを決める。惜しむらくは変身シーンを見れなかったことだ。


「よ、よくわからないけど。メームちゃんがあの姿になったというのなら俺は勝ち組だ。さっそくお義母さんに紹介してもらって」


 そう言いながら立ち上がりメームに近寄ろうとすると。


「危ないっ!」


 ローリンが叫び俺に飛びつくと二人で地面を転がる。その上をエネルギー弾が通り過ぎ洞窟の壁面にぶつかるとその部分を円形に抉り取り消滅した。


「うあああああああああああああああっ!」


 叫び声を上げたのはメームであった。


 な、なんだ? 獣みたいな声を上げて、まるで理性を失っているかのような……。まさか、暴走……しているのか?


 その瞬間、なんの力もない俺から見てもわかるほどに、メームの全身から真っ黒な力の源流のようなものが溢れだした。


「すさまじい魔力です。信じられません、あんな化け物見たことないですよ……」


 あのぽっぴんが、かなり真面目なトーンで零す。


「ぐぅぅぅぅぅ……」


 呻り声を上げながら俺達を睨み付けるメーム。最早目の前に居る者はすべて敵に見えているのかもしれない。


「これはもう迎え撃つしかありません。ぽっぴんさんっ!」

「がってんしょうちのすけ。私の全身全霊を懸けた魔法で援護します!」


 え? 迎え撃つって? いつの間にかそれぞれの武器を手にしているローリンとぽっぴん。二人は剣と杖を構えるとそれをメームへと向けた。


「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待てっ! ローリンのその剣はやばいだろっ!? 城をふっ飛ばす程の威力のもんを人に向けて使うなよっ!」

「彼女は人ではありません! と言うか最早あれはそんなレベルのものではありません。彼女のあの魔力は、はっきり言って魔王クラス。いや、それ以上と言っても過言ではありません」


 魔王クラスだって? そんな、だったらメームちゃんは一体何者だって言うんだ。


 そんなことをしていると、痺れを切らしたぽっぴんが動く。なんかこいつって結構好戦的だよな。と言うか魔法が使いたいだけのような気もしてきた。


「ええい、問答無用ですっ! 止めるにしろ倒すにしろ攻撃するしかありませんっ! いきますよっ! サンライトおおっ! ダークフィラメントおおおおおおおおおっ!」


 ぽっぴんが突き出した杖の先から黒い火球が飛び出すとそこからプロミネンスのように火柱があがりメームに襲い掛かる。しかしメームが手を翳すとそこからエネルギー弾が放出されてぽっぴんの魔法を掻き消してしまった。

 間髪入れずに間合いを詰めていたローリンが斬りかかると、メームの手に光が収束し剣の形を成しローリンの一撃を受け止めた。

 二人の剣がぶつかり合うたびに凄まじい衝撃波がこの階層を駆け抜ける為、俺もぽっぴんも地面に伏せて戦いを見ているしかなかった。


「な、なんなんだありゃ? どっちも化け物じゃねえか」

「むぅ……これでは私が魔法を撃ち込む隙がありません」


 しかしその斬り合いも徐々にローリンが劣勢になりメームが押し始めた。

 メームの剣を受けきれずに弾き飛ばされたローリンが地面を転がる。


「ロ、ローリンっ!」

「そこでじっとしていてくださいっ! べんりくんがこの戦いに巻き込まれたらひとたまりもありませんよっ!」


 手を突き出して俺を制止するローリン。いや、おまえはなんで大丈夫なんだよ? 本当に普通の女子高生だったのこの人?


「やはり全力でやるしかありません。死なないでくださいね! エクスっ! カリボオオオオオオオンンっ!」


 あああああああああっ! だからその名前叫ぶのやめてええええええっ!


 ローリンの必殺の一撃。レギンス帝国に伝わる最強の伝説の剣。まるでなにかをパクッたとしか思えないような名前と技がメームに炸裂する。

眩い光の衝撃波に包まれるメームであったが、俺達は直後起こった光景に目を疑った。


「あああああああああああああああっ! ああああああっ!」


 メームが咆哮すると、両手から放出された巨大なエネルギー弾がローリンの一撃を飲みこみながら俺達に向かってくる。


 大量の土砂を吹き飛ばした。いやそれどころか城を吹き飛ばすほどの一撃を押し返し飲み込むメームの一撃。最早俺達にあれを止める手立てはない。このままあのエネルギー弾に飲み込まれて消滅するしかないのか……。


 覚悟を決めたその瞬間。俺達の前に踊りだす人影、その人物が両手を前に翳し叫ぶ。


「ゴッデス! ウォーーーーーーールっ!」


 まるでオーロラのような光のカーテンが目の前に展開されると、メームのエネルギー弾を弾き返した。


「間一髪だったわねっ! あとは女神であるこのわたしに任せなさいっ!」



 振り返りながらサムズアップしてみせるソフィリーナの姿に、俺はなんだか無性にイライラするのであった。



 つづく。

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