第三十三話 魔王の娘と時の歯車①
「いやぁ。一時はどうなることかと思ったけれど、みんな無事でよかったよ」
ちょっと遅めの食卓を囲みながら笑顔で団欒する俺達。
対面に座るローリンはちょっと不満そうな顔だがホッと胸を撫で下ろした様子で言う。
「私の技が返されたのはちょっと悔しいですけど、怪我人がでなかったのは本当によかったです」
「俺は腹に穴が開いたけどな」
右手に座るぽっぴんがカップ麺を啜りながらこちらもまたちょっと不満そうにしている。
「私の最大最強の攻撃魔法を使っていれば一瞬で方が付いてましたよ」
「わかったよ。今度地上でやらせてやるから絶対に地下ではぶっ放すなよ」
そして俺の膝の上にはアイスキャンディーをペロペロと舐めているメームちゃん。
だいぶ疲れたのかアイスを舐めながらウトウト舟を漕いでいる。
「メームちゃんはもうおねむの時間かな?」
「うぅん。ねむくないよ……くぅ~」
皆がまだ起きているので自分も起きていたいのだろうが、我慢できずにアイスを全部食べ切る前にメームは眠りに落ちてしまう。まあお子ちゃまだから仕方ないよね。
そんな姿を皆で微笑ましく眺めているのだが……。
「ちょっと、どういうことよこれっ!」
一人席から立ちあがり不服そうな表情で怒声をあげるソフィリーナ。
「なんだよ。いきなり大声だすなよメームちゃんが起きちゃうだろ」
「なんだよじゃないわよっ! なんなのよっ! 前回恰好よく登場したわたしの活躍はどうなったのよっ!?」
「ああん? 知らねえよそんなのぉ。なんかやったっけおまえ?」
「きいいいいいいっ! あんた達がやられそうなところに颯爽と登場して助けてあげたじゃないのっ! 普段からあまりわたしのこと尊敬していないようだから、女神としての威厳を見せつけてやろうと思ったのに台無しじゃないのよっ!」
威厳を見せつけてやろうなんて考えからして、もう誰もおまえのことなんか尊敬してくれねえよ。なんて思いつつ、あの後どうなったのかを簡単に説明しよう。
メームの放ったエネルギー弾をソフィリーナの出したオーロラの壁が弾き返していざ反撃か、と思ったところで戦いはあっけなく終わりを迎えた。
どういうことかメームが力尽きその場に倒れると、謎の閃光エフェクトに包まれて元の可愛らしい姿に戻ったのである。円盤になったらこの光もなくなってきっと見えるのだろう。ちなみに元の姿と言ったが、どう考えてもあっちのエロいお姉さんの方が真の姿だよね? まあいいや。
そして暫く気を失っていたメームであったが、一時間くらいしたら目を覚まして何事もなかったかの様子で元気なので、お腹も空いたし夕飯をとることにしたのだ。
「その子一体なんなのよ?」
「さあ? 俺もさっぱり。最強に可愛い生物だと言う事だけは判明しているが」
俺のことを母親の所に連れて行こうとしていたところを見ると、一応家族は居るみたいだし。それに獣王がメームのことを「メイムノーム様」と呼んでいたのも気になるな。なにか特別な存在なのであろうか?
「そういや、獣王さんって死んだの?」
すっかり忘れていたが消されたとか言ってたよね? 誰も怪我人が居ないと言ったが死人がでてるじゃねえか。ちょっとかわいそうだな。
「死んでいませんよ」
俺の問いに答えたのはソフィリーナでもローリンでもぽっぴんでもなかった。
声のした方向、店の入り口の方を見やると三人の男達が立っていた。
「な? 誰だお前達? いやそれよりも、獣王が死んでいないってどういうことだ」
俺は先頭に立つ白いローブを纏ったビジネスマン風の眼鏡をかけたイケメンに問いかける。ちなみにイケメンって、“いけ好かねえ面の男”の略だよね? え? 違う?
「彼ならここに居ますよ」
イケメンはそう言うと手に持っていたリードを俺に見せる。その足元、首輪に繋がれた柴犬の姿を見て俺は絶句した。
「ま……まさか、その犬が……獣王だ……と?」
あんなにDQN丸出しな感じだった輩の正体がこんなつぶらな瞳の可愛らしい柴犬だったなんて……なんか超ウケるw
「わんちゃんっ!」
いつの間にか起きていたメームが駆け寄って柴犬に抱きつくと犬も嬉しそうな様子だ。
「あんたらは一体何者なんだ?」
「失礼。申し遅れました。私達は……」
「いやちょっと待てっ!」
名乗ろうとするイケメンの言葉に被せ気味に俺が大きな声を上げると、全員が緊張した面持ちで固唾を飲む。
「とりあえず、狭いからもう一回外に出よう」
全員でゾロゾロと連れだって外に出ると向かい合って仕切り直し。
「あんたらは一体何者なんだ?」
「私達は魔王様に仕える魔界四貴死」
イケメンは不敵な笑みを浮かべると自己紹介を始めた。
まずイケメンの左手に居るのが「破壊王のブッチャーハシム」そして右手にいるのが「呪術王インポテック」どっちもかなりふざけた名前である。
「そして私が、大神官ビゲイニアです」
なんでおまえだけ「〇〇王」って名乗らないんだよ。そこはちゃんと統一しとけよ。
「なるほど……で、その魔界四貴死の残りのメンバーが揃ってなにしに……」
「獣王は我々四貴死の中でも最弱ぅっ!!」
え? なに急に? テンションたっかぁ。
「奴を倒したからと言っていい気になるなよ聖騎士一行っ!」
「いや、倒したのはその子なんですけど?」
俺が指差すと驚いた表情で三人がメームちゃんを見下ろす。そんなこともお構いなしにメームちゃんは柴犬と戯れている。
イケメンはずり落ちた眼鏡を中指であげながら上ずった声で答えた。
「ま、まあ……こんな姿になってしまったとはいえ獣王も元四貴死の一人です。彼の名誉を傷つけるようなことを言うのもここまでにしましょう」
気を取り直すとビゲイニアは再び話し始める。
「今回私達はあなた方に敵対する為に来たわけではありません」
「どういうことだ?」
「それはこの少女、メイムノーム様のことで折り入ってお願いしたいことがあって来たのです」
やはりメームちゃんの本当の名前はメイムノームって言うのか。
「一体……メームちゃんは何者なんだ?」
ビゲイニアは一瞬口元に笑みを浮かべると神妙な面持ちになり俺の質問に答えた。
「ここにおられます御方は、メイムノーム・リゲリア・フォン・デュ・ユーフィリア様。魔王様の実の娘であらせられますっ!」
長くて覚えられないからメームちゃんでいいや。
つづく。
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