第三十一話 嫁にするならロリ魔族?④
「居るのはわかってるんだぞおおっ! 出てこいやああああっ!」
一体誰が外でいきり立っているのでしょうかまったく、こんな時間に近所迷惑ですよ。
チラッと店の窓から外を窺って見ると、毛むくじゃらのオオカミの様な顔をした変な獣人が居るのが見えた。
「俺は魔界四貴死が一人、獣王・ワールフだっ!」
またなんか変な称号をもった人? がやってきましたよ。あいつらそういうの好きなのかな? 厨二病全開じゃねえか。
「聖騎士ローリンよ。お主の知り合いか?」
「え? し、知らないですよぉ」
俺が尋ねると迷惑そうな顔をして頭をぶるぶると横に振るローリン。同じようにぽっぴんの方を向くと、こちらも知らない様子。
そういやソフィリーナが見当たらないな。奥に着替えに行ってるのか? まあ静かだからいいや。
とりあえず返事はせずに様子を窺うのだが、獣王はお構いなしにがなり立てる。
「おめえが見境なしに魔王城を吹っ飛ばした所為で、俺達はこんな地下に住まなくちゃならなくなったんだ! 絶対に許さねえからなああああっ!」
あーやっぱりそうでしたか。まあとんだ逆恨みってもんだ。魔族ってんだからきっとこの帝国に侵略してきた奴らだったのだろう、国を守る為に戦った結果がそれなんだからしょうがねえだろ。
「ま、まあ戦争だったんだからしょうがないよな?」
「い……いえ……それがその……」
ローリンは青褪めながら白状した。
「えーと……つまり。別に魔族とは戦争していたわけではなく、剣の練習で小高い丘を狙ってやったら、たまたまそこに魔王城があったと?」
「は……はい」
「それを皆が、魔王をやっつけたと持ち上げるもんだから。いい気になってしまったと」
「ち、違いますよぉぉぉぉ。あれよあれよと話が大きくなって行って本当のことを言いだしにくい空気になっちゃったんですよぉぉぉ」
なんて言う奴なんだ。英雄どころかこいつが諸悪の根源じゃないか、聖騎士どころか暗黒騎士だぜこいつ。
ローリンは涙目で釈明するのだが同情の余地はないな。こいつには後で厳しいお仕置きが必要だろう。
とにかく今はあの獣王さんにきちんと説明して謝るしかない……。
「とにかく、めんどくさいから倒しちゃいますか。バーニングっ!ヘルフレアアアアアアアアアアっ!」
ええええええええ!?
人が穏便に済ませようとしているのに、ぽっぴんがまさかの不意討ちを浴びせかける。
灼熱の炎が獣王に襲い掛かるのだが、慌てた様子で間一髪避けてくれた。
「チっ、中々にすばしっこい獣ですね」
なんなんだよこいつら? 仲間だと思っていた奴らがこんなに卑怯で極悪非道な奴らだったなんて、マジで引くわぁ。
「な、なんて奴なんだっ! 姿も見せずに屋内からいきなり奇襲攻撃を仕掛けるなんて、騎士の風上にもおけない奴だっ! 恥を知れ恥をっ!」
あーローリンの所為にされてますね。なんかもうボロクソに言われてますね。俺の横でローリンは膝を抱えて落ち込んでいた。
もういいや、ここは俺が出て行ってなんとかするしかあるまい。従業員の不手際は雇用主である俺の責任だ。平身低頭、謝り続ければ許してくれるだろう。たぶん……。
意を決して店から出て行こうとしたところで、俺はその光景に驚愕する。いつの間にかメームが店の外に出ていて獣王の背後から近づいていたのだ。
「ま、まずいっ!」
俺も慌てて店から飛び出すのだが、その瞬間メームは獣王の背後から飛びかかりモフモフの尻尾に抱きついた。
「わんちゃん」
え? なに? ホームラン王ですか?
なにやら嬉しそうな様子で尻尾に抱きつきモフモフしているメームであったが、それに気が付いた獣王がイラついた様子で振り返る。
「あぁんっ? 誰だ人の尻尾に飛びついてきやがったのはぁ……ぁぁぁぁああああああああっ!?」
その瞬間青褪め、まあ毛で覆われているからわからないけど、顎が外れるのではないかと言うくらいに口を拡げて驚愕する獣王。
そしてワナワナと震えだすと冷や汗をダラダラと流しながら声を絞り出す。
「メ……メイムノーム……様? な、なんでこんなところにぃぃぃぃ?」
「わんちゃん、しっぽふわふわ」
驚いている獣王であったが俺の存在に気が付くと気を取り直して睨み付けてくる。
「なんだてめえ? 聖騎士の仲間かあ?」
「い、いやぁ。仲間と言うか、友達と言いますか。その……」
「べんり。わんちゃんしっぽふわふわ」
あー、そうですねー。ふわふわよかったですねー。
「メ、メイムノーム様、あやつとお知り合いなのですか?」
「めいむは、べんりのおよめさんになるの」
「な? なにいいいいいいいいいいいいっ!? な、ななな、なにを仰っているのですか?」
「だから、これからママにあいにいくの」
その言葉に、目ん玉が飛び出るのではないかと言うくらい目をひん剥いて驚愕している。更に獣王は俺の額の紋章に気が付く。
「な……なんてことだ……こんなことが……こんな、人間の雄とメイムノーム様が……そんなことは……そんなことは絶対にあってはならないぃぃぃぃいいっ!」
そう叫ぶと獣王は、獣のように大きな口を開くと光線を吐き出す。
刹那、俺は腹に衝撃を感じた。なにが起きたのかわからず反射的に腹を擦ると、滑っとした生暖かい感触がした。
「あれ? これ……血?」
「べんりくんっ!」
「べんりさんっ!」
ローリンとぽっぴんが必死の形相で駆け寄ってくるのが見えるが、俺はその場に膝を突き倒れ込んだ。
「はっはっはあああああっ! ぶっ殺してやったぜえ人間があっ!」
獣王の笑い声が遠く感じる。
しかし薄れゆく意識の中、俺は確かに見た。
美しい、とても美しい白銀の悪魔が獣王を消し去るのを……。
つづく。
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