第三十話  嫁にするならロリ魔族?③

 なにを言っているのか? あいつらを殺すって?


「え? なんで? なんかイラっとする気持ちはわかるけど、殺したくなるくらいかな?」


 俺の返答になにやら文句を言っているソフィリーナだが気にしない。それよりもメームだ。なんだか先ほどまでとは雰囲気が違うと言うか、妙な感じがするのは気のせいだろうか?


「メ……メームちゃん?」

「あいつら、べんりのこと取る?」

「え? どういうこと?」

「めーむから、べんりのこと取る?」


 取るもなにもメームちゃんのものではないんだけど。まあなんだ。突然知らない奴らが現れたから、自分の遊び相手を取られると思ったのかもしれない。それにしても「殺す」だなんて物騒な言い方をする子だな。それはちゃんと良くないことだと教えてあげないといけないな。


「べんりは、めーむのことすき?」

「んー、さっき会ったばかりだけど、まあ好きだよ。でも、殺すなんて言葉を使っちゃ駄目だよ。そんなメームちゃんは嫌いだな」


 そう言うとオロオロしだすメームは、次第に涙目になりついには泣き出してしまった。


「びえーん! びえーん!」

「あわわわわ! ごごご、ごめんメームちゃん。嫌いになんてならないから泣かないでくれえええ」

「こんな小さな子を泣かすなんてあんたって本当に最低ね」


 うるせーな馬鹿女神、いいから早く服着ろよ。俺はしゃがんでメームの頭を撫でてやると首に腕を回してギュッと抱きついてくる。くっそぉぉ、いちいち愛くるしいなあもうっ!


「めーむはちゃんといい子にしてるから。ちゃんとべんりの好きなおよめにさんになるから」


 うんうん。良い子だな。俺の嫁としても申し分な……ん?


「今……なんて言いました?」


 怪訝顔でソフィリーナ達を見ると、汚物でも見るような目で俺のことを見下ろしている。マジでやめて。


 え? なんでそんな話になってるの? まあ小さな女の子が優しそうなお兄さんを好きになっちゃうみたいなことはよくあるけれど、メームちゃんと会ってからの一連の流れでなんかそんな空気あったっけ? プリンあげたから気に入られたのかな?


「ま……まさか……」


 そんな俺とメームを見て何かに気が付いたのか、ローリンが険しい表情で俺に問いかけてくる。


「べんりくん……その子になにをしたんですか?」

「だから何もしてねえって!」

「じゃあ、なにかされましたか?」

「なにかって……おでこに……チューされた?」


 その瞬間ローリンは酷く焦った表情になり近づいてくると、俺の前髪を右手で上げおでこを出す。


「そ……そんな……」


 酷く困惑した表情でふるふると震えだすローリン。


 え? どうしたんですか? 一体何があったんですか? ちょっとやだ。なんでソフィリーナとぽっぴんにこそこそと耳打ちしてるんですか? え? 二人ともなんでそんなげんなりした表情で俺のことを見つめているんですかああああっ!?




 俺は今ローリンの前で正座をさせられている。そして正座している俺の膝の上にちょこんと座ってゼリーを食べているメームと、目の前には鬼のような表情で仁王立ちしているローリンの姿があった。

 なぜそのような状態でいるのかは俺にもわからないが、とりあえずここは逆らわない方がいいと俺の本能がそう警告していた。


「つまり、その子が寝ている時に角を触ったんですね?」

「は……はい……ほんの出来心だったんです……」

「いいですかべんりくん。その子は魔族です。今、べんりくんの額に浮かび上がっている契約の紋章がそれを証明しています」


 け……契約だと? ローリンは一体なにを言っているんだ?


「魔族にとって、男性が女性の角に触れると言う事は……そ、その……」

「ふ……触れると言うことは?」

「そ……その、つまり……け」

「け?」

「けけけ、結婚を申し込むことを意味しますっ! つまり、べんりくんはメームさんにプロポーズをして彼女はそれを受け入れてしまったんですっ!」


 は? ななな……なんだってえええええええええええっ!?


 なにがどうしてそんなミラクルが起きたんだ? 意味わかんねえっ! え? ママに聞いてみるってそういうこと? 一度見てみたいとか言ってたよね? それってお母さんに俺のことを紹介しに行くってこと?


「あーあ、これ擦っても消えませんね。どうします?」


 唾で湿らせたティッシュでゴシゴシと俺のおでこを擦りながらぽっぴんが言う。

 汚ねえなこのやろう、あと痛いからやめろ。


「ま、まあでも、仮契約って言ってたし、子供の言う事だし、いい大人が真に受けて……」

「べんり、めーむにうそついたの?」


 俺の膝の上にいるメームが潤んだ瞳で見上げてくる。


 嘘なんて吐きませんよ! ぼかぁこんな可愛らしい女の子を傷つけるような嘘は吐きませんよおっ!


 ローリンは大きな溜息を吐くと、困り果てた様子で俺に言う。


「とにかく、これは非常に困ったことになっています。彼女の方からべんりくんに契約の魔術をかけている以上、彼女か或いは彼女以上の存在にしかそれを解除することはできません」

「て言うか、この状態だとなにがいけないの?」

「べんりくんは今、人間ではなく魔族になってしまっています」


 え? なにそれ? どういうこと?


「それってまずいの?」

「非常にまずいですよ」


 そうなの? って感じでぽっぴんとソフィリーナの方を見ると二人して、うんうん、と頷いている。

 それにしたってこんな小さな女の子と婚約だなんて、嬉しいけど、いやちがくって、将来が楽しみだよね、でもなくて、そんなことが……ねえ?


「ところで……メームちゃんって今何歳なのかな?」


 そこは重要だ。あと何年待てば法律的にオーケーな年齢になるのか、それだけは確認しておかないとな。


 するとメームは俺に向けて右手の指を四つ立ててみせる。


「ああ、四……」

「ひゃくさい」


 は?


「めーむ、よんひゃくさい」


 はいっ人生の大先輩でしたっ! なんじゃそりゃっ!? こんな可愛いおばあちゃん見たことねえよ。幼児退行って肉体まで退行しちゃってんじゃん、魔族すげえなおいっ!


 魔族ならさもありなんという感じらしく、ローリンもぽっぴんもそれを否定しない。つまり本当なのか。どうしよう? 見た目がロリでも400歳なら結婚できちゃうよね?


 どうしたものかと困り果てていると、突然外から怒鳴り声が響いてきた。



「ここが聖騎士が居るという道具屋かっ! 出てこい聖騎士ローリンとその仲間達いっ!」



 次から次へともうなんなんですか?



 つづく。

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