第三章 婚約、魔王十二宮での闘い

第二十八話 嫁にするならロリ魔族?①

「いい加減にしてくださいっ!!」


 店内で怒鳴り声を上げ俺に詰め寄るローリン。

 まったく、お客様の前で失礼ですよ。そういうのは店を閉めてからにしてください。

 なんて言おうものならもっと怒りそうなのでやめておく。他の客たちもローリンの実力は知っているし、なにより怒った時のローリンに下手に関わると面倒なので、触らぬ神になんとやら、皆黙って遠巻きに見ているだけだ。


「一体いつになったら時の歯車を探しに行くんですか? もうかれこれ3か月以上も経とうとしているんですよっ!」

「ああ、あれねー。いやぁ、なんて言うかさあ……探して見つかるもんなのかね?」

「べんりくんが言っていたんじゃないですかっ! 冒険者の方々から情報を集めているって。もういい加減有力な情報は手に入ったんですよね?」


 ああ、あれね……あんなの口から出まかせですけどなにか? 大体、時の歯車なる物がなんだかよくわからないのに情報もなにもないですよ。あと俺にそんな交渉能力ないですから。

 俺が視線を逸らしたことに気が付いたローリンは涙目で迫ってくる。


「やっぱりあれ嘘だったんですねっ! なにも情報なんて聞きだせていないんですねええええっ!」

「お、おおお、落ち着けローリン! あれだ、俺はこの三カ月間でこの町の冒険者達と仲良くなることをまず最優先にしたんだよ。だいたい新参者の俺がいきなり金で解決ワオっ! みたいなことしたら皆の顰蹙を買っちゃうだろ? だからまずは俺のこの社交能力で皆のハートを鷲掴みにしてからだな?」

「そうやっていつも適当なことばっかり言ってバカバカバカあーっ!」


 そんな感じで今日も一日を平和に終えたわけだ。


 とりあえずローリンには焦らずゆっくりと今後のことを考えよう。あと、原因を作ったソフィリーナが一番なにもやってねえ。ってことだけを強く訴えて言いくるめておいた。

 今は女子三人連れだって温泉に行っている。覗きに行こうものならぽっぴんの獄炎魔法とローリンの気合い砲で殺されかねないので、学習能力の高い俺はもう二度とそのような過ちは犯さないことに決めたのだ。


 さてさて、間もなく夜の7時を回ろうとしている。もうかれこれ1時間近く客も来ていないし閉店しようかなと思っていると鳴り響くメロディ。


 テレテレテレンテ♪ テレテレテン♪


「いらっさぁせぇ」


 ちぇ、せっかく閉めようと思っていたのに。まあしょうがない、この客が帰ったらとっとと看板の明かりを消してしまおう。そんなことを思いながら入ってきたお客さんをみるのだが……。


 あれ? いない? いや……居た。


 視線を下ろすと小さな幼女が一人、テテテっとスイーツのコーナーに駆け寄って行くのが見えた。


 こんな時間にあんな小さな女の子が一人出歩いているなんて親はなにをしているんだ。と言うかここダンジョンですよ? そんなレベルの話じゃないですよね? 一体どうやってここまで来たのだろうか? 親と一緒に来たのかな?


 色々な疑問が頭に浮かぶのだがまあいいや。どんなに小さな子供であったとしても客は客だ。俺は年齢や性別で人を判断したりしないからな。あと幼女かわいい。

 しばらく眺めていると幼女はプリンを手に取りそれをマジマジと見つめている。


 おやおや。プリンが欲しいのかな? やっぱりお子ちゃまはプリンが大好きですね。


 そんな姿を見ていると、つい顔が弛んできているのが自分でもわかってしまう。幼女を見ながらニヤニヤしているなんて完全に不審者ですよねこれ。


 すると幼女は蓋をビッと引っぺがして、容器を口の上でひっくり返しプリンを一気に口の中に放り込むとぺろり、その味に舌鼓を打つと満足げな顔をしてもう一つプリンを手に取った。


「ちょおおおおおおおおおっと待ったあああああああ!」


 俺の声にビクっと身体を振るわせると恐る恐る俺の方を見る幼女。あらやだかわいい。


 頭の横から生えている二本の小さな角。耳はツンと尖がって、青い瞳に桜色のふんわりウェーブのかかった髪の毛がとても印象的だった。


「お嬢ちゃん、一人で来たのかな?」


 俺はなるべく幼女を怖がらせないように優しい声で、ニコニコと笑顔で近寄って行く。


「ママは一緒じゃないの?」

「……ママ?」

「うん。居る?」

「ママは……いない」


 そう言って寂しそうな顔をする幼女。


 しまったああああああああ! 俺の馬鹿! いきなり地雷踏んじゃいましたよ。


「ご、ごごご、ごめんね。ここには一人で来たの?」

「ひとり」

「今食べたプリンはね。お店のなんだけど……」

「美味しかった」

「ありがとう。パティシエも喜んでるよきっと」


 いやいやそうじゃなくてね。これは参ったぞ。こんな小さな女の子に金払えなんて、俺にそんな畜生にも劣るようなことは言えないよ。


 俺が頭を抱えていると幼女はまたプリンを平らげる。


「あぁぁぁぁ。まあいっか、賞味期限も近いし。美味しい?」

「美味しい」


 結局幼女はタダで四つもプッ〇ンプリンを食べるのであった。


「お腹いっぱい」


 そう言うとその場でごろりと横になる幼女。自由だなこの人、無銭飲食した店でごろ寝しようだなんていい度胸じゃないか。


「お嬢ちゃん、お名前は? 俺の名前はベンリー」

「なまえ?」


 幼女はしばらく考え込むと(寝転がりながら)答える。


「めーむ」

「メームちゃん?」

「うん、めーむ。べんり、ちょっとこっちきて」


 メームはちょいちょいと俺を手招きすると横に座るように言う。

 しょうがないので言われた通り横に胡坐を掻くと、メームはもぞもぞと俺の膝の上に乗っかってきて、すーすーと寝息を立て始めた。




 なにこのかわいい生き物おおおおおおおおおおおおおっ!




 俺はそのまま動くことができないのであった。


 つづく。

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