第十四話 プッチンパポペ大賢者④
オネェ口調の声が木霊すると震えあがる屍人達。そんなに恐ろしい奴らなのだろうか、その根暗マンさんって奴と三重死とかいう奴らは。
そして、ふと横を見やるとぽっぴんもカタカタと震えている。え? まじっ!? そんなに恐ろしい奴らなのっ!?
「や、やばいですよべんりさん」
「おまえほどの奴が震え上がるほどに恐ろしい敵なのか? 今日会ったばかりだけど」
「恐ろしいなんてものじゃないです。あれは最早……生理的に受け付けませんっ!」
ぽっぴんが叫ぶのと同時に現れる四つのシルエット。
「我は魔界・三重死が一人! ブ・チョウ!」
「同じくっ! カ・チョウ!」
「同じくっ! カカリ・チョウ!」
「「「我ら三人揃って魔界・三重死! チョウ三兄弟っ!」」」
うわぁぁぁ……なにそれダサーい。てーかなんであいつらピチピチのレザーパンツに上半身裸なんだよ。なんかすっげーガチムチだし、これってひょっとして。
「そしてぇ! あたしがこの(株)死霊會社長! ネクロマンサー尾崎よ!」
サングラスに口髭、ピチピチの革ズボンに直肌サスペンダー、なんか股間がもっこりしてるんだけど、胸毛もふっさふっさじゃねえか。
こいつはどっからどう見てもHG……いや、フ〇ディマ〇キュ〇ーじゃねえか。
「さんばでぃとぅらぁぶ? こんな所でサボってないでとっとと持ち場に戻りなさ……ん? 誰かしら? その子達」
根暗どころかオカマだった。やべえぞマジでやべえぞ。ぽっぴんは青褪めてガタガタと震えているし、ローリンは面食らって動けないでいるじゃねえか。
「べ、べっべべべべべんりさん、気持ち悪いです。無理です。私、あいつらを直視できません!」
「気持ちはわかるが落ち着けぽっぴん。戦いの最中に敵から目を逸らすな」
「べ、べべべべべんりくん、な、なんなんですかあの人達? あれはなにかのコスプレなんですか?」
「ある意味そうだな。おまえも落ち着けローリン。とにかくだっ! 人を見た目で判断するなっ! 今時性差別は人権侵害で訴えられかねないんだぞ! オカマは根は優しい奴が多いし、何よりトークがおもしろいから話してみたら印象が変わるかもしれないぞっ!」
なんでそんなに詳しいのかと、じーっと見つめてくる二人であるが、別にオカマバーとかに行ったことがあるわけじゃないからな……ないからな?
「なかなか良いこと言うじゃないあなた。ちょっと見た目もかわいいし、ぐっどおーるどふぁっしょんらヴぁーぼ~い、あんたあたしのタイプよ」
そう言って俺にウィンクしてくるネクロマンサー尾崎。おぇぇぇぇ、やめてください俺はノンケです。
「あ、あのー……尾崎さん」
「なぁに?」
「ちょっとご相談がありまして」
「ん? 今はフリーよ。彼氏とはこないだ別れたばかりだから、あたしのアンダープレッシャーに耐えきれなくてすぐに壊れちゃったのよ」
おいてめえ! いい加減にしろよ! 名曲達のタイトルをその汚ねえ口から出すんじゃねえ! 下ネタしか言えねえのかこの野郎!
「いや、そうではなくて、ここに集まっている社員の皆さんから相談されまして」
「相談? なにを相談されたのよ?」
「いやその、労働時間があまりにも長すぎるのではないかと。それに、十分な休暇も取れていないようですし、有給も消化されていないようですのでこのままだと法令に引っ掛かる恐れが……」
そこまで言うと、今までニコニコと気持ちの悪い笑顔を浮かべていた尾崎であったが、急に顔色を変え目を見開き顎をしゃくりあげ、メンチを切りながら怒声を上げる。
「あぁああああんっ! なんじゃこりゃ兄ちゃんっ!? うちのやり方に文句があるってのかこら? あぁんっ! おめえ弁護士か? いい度胸じゃねえか? あん? だったら訴えてみろやこら? 訴える度胸があるならやってみろやこらあああっ!」
凄んで見せる社長に対して屍人の皆さん達も勇気を振り絞って反発する。
「も、もう俺達は限界なんだっ! 俺達が逆らえないからって、いいように使いやがって……これが……こんなの! まともに働ける環境じゃねえよっ!」
「そうだそうだっ! 俺なんて家が遠いから通勤に往復5時間も掛かって、残業含めて毎日16時間も働いてたらいつ寝ればいいんだよっ!」
「俺もだ! 先月なんて残業が100時間超えてるはずなのに、見込残業だからって、残業代がたったの1200円だったんだぞ! そんな馬鹿げた話があるかあっ!」
堰を切ったように次々と皆の不満が爆発する。それは大きなうねりとなりいつしか、「モンスターにも人権を! 労働者に人権を!」と言う、シュプレヒコールへと変わるのであるが、それを一喝するように尾崎の怒声が響く。
「黙らっしゃいっ! あんた達みたいな有象無象の輩を雇ってあげてお給料まであげているのは一体誰だと思っているのっ!? あんたらなんかねえ! 社会に出たって碌な就職先も見つからず、路頭に迷って犯罪に手を染めるのが関の山、それをあたしが未然に防いでやっているの! 謂わばこれは社会貢献! あたしは国に表彰されてもおかしくないことをやっているのよっ!」
なんという言い草だ。それでこの人達を奴隷の様に扱うなんて、こいつは労働者のことをなんだと思っていやがるんだ。
「……ふっざけんなよ」
「ん? なあに? 聞こえないわよ坊や?」
「ふっざけんなよこのカマやろうっ! この人達にだってなあ、自分の生活が人生があるんだよっ! 中には家族の居る人だっているかもしれない。雇ってやっているだと? 給料をあげているだと? 当たり前だ! 労働者はその対価として労働力と時間を支払っているんだ。その働きに見合った給料も支払わずに、ましてや人権を無視した労働時間で縛り付けておいて。おまえなんか経営者の風上にも置けない輩だ! 働かない社員が給料泥棒だと言うのなら、おまえらのような奴らは労働力泥棒って言うんだ馬鹿野郎おおおっ!」
「ええいっ! 黙らっしゃいっ! ブ! カ! カカリ! あいつらを黙らせておやりなさいっ!」
はい本性を現しましたよ。口で勝てないとなると暴力に訴える。俺が一番嫌いなタイプだ。
三重死の皆さんがどこから出したのか、それぞれ得物を手に持ちこちらに向かってくる。
いいでしょういいでしょう、そっちがそのつもりならばこちらもそのつもりでやらせてもらいます。
俺は一歩後ろに下がるとローリンの後ろに隠れて言い放つ。
「出番ですよっ! やっておしまいなさい聖騎士ローリンっ!」
「えええっ!? なんかちょっとかっこいいと思ったのに、べんりくんやっぱかっこわるいですっ!」
仕方ないなぁ、と言う表情でトボトボと前に歩み出るとローリンはしょんぼりしながら三重死の面々にむかって言う。
「と言うわけなのでかかってきてください。なんだったら三人同時でもいいですよ?」
ローリンの挑発とも受け取れるその言葉に三重死は怒る様子もなく、寧ろ鼻で笑うと余裕のと言うか、なんかエロい表情を見せる。
「へっへっへ、お嬢さん、随分と自信があるみてえだな」
「ブチョウ、これはお仕置きが必要ですな」
「あれをやるつもりですか? カチョウ」
三重死は三方に散ると、三角形にローリンを囲み一斉に飛びかかる。
「喰らえ! 中間管理職三位一体奥義! セ・クハーラ!」
説明しよう! この技は三人が三方から同時に襲い掛かり、胸、尻、太腿を同時に攻撃するという非常に下種い技である。
「グランド……クロオオオオオオオオオオオオオオオスっ!」
ローリンが叫ぶと地面に巨大な十字の亀裂が入り、それと同時に三重死は宙を舞うと頭から地面に墜ちそのまま気を失った。
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