第十五話 プッチンパポペ大賢者⑤

「す……すげえ」


 地面に横たわる三重死達を呆然としながら見つめる俺、いや、この場に居る誰もがローリンの放った技に、ローリンの強さに驚いていた。

 俺はローリンに駆け寄ると恐る恐る声をかける。


「お、お疲れ、すごい技だったな。あれがおまえの剣技なのか?」


 その言葉にローリンは眉を顰めると少し不満そうに言う。


「剣技? あの程度の輩に我が剣を振るう必要なんてありません。あれは気……魔法でも剣術でもない単なる気合いですよ」


 え? なにそれ? 嘘? やだ、この人かっこいい! なんか今、胸がきゅん! ってなったよ。


 そんな俺達の姿を見つめながら尾崎は歯を食いしばり悔しそうな表情を見せる。


「お、おのれぇ。よくもぉ」


 悪役らしい台詞ですねネクロマンサー尾崎さん。


「さあっ! 観念しなさいネクロマンサー! 次はあなたの番です!」


 ローリンは尾崎を指差すとずかずかと大股で近寄って行くのだが、尾崎はいつの間にか手にしていた図鑑の様な本を開くとブツブツとなにか呟き始めた。


「サービス残業サービス残業サービス残業サービス残業サービス残業ぉぉぉぉおおおおおっ!」


 ドクンっ!


 なんだ? 急に空に暗雲立ち込めると(ダンジョン内だけど)尾崎の手にする本から、なにかどす黒い邪悪な霧のようなものが出てきたような錯覚を覚える。


 次の瞬間。


「ぐぉぉぉおおおおっ!」

「うぼぁぁぁぁああっ!」


 突如モンスター達が暴れだしローリンに襲い掛かった。


「まずいですべんりさんっ! あいつが手にしているのは魔導書グリモワールですっ!」


 ぽっぴんが叫ぶと尾崎は高笑いをあげながら手を翳しモンスター達を操り始める。


「ふははははっ! 今更気づいても遅いわよ。この魔本さえあればこいつらはあたしの思いのまま! ふふふ、さあ聖騎士様、あなたにそいつらを傷つけることができるかしら? このまま抵抗もできずにモンスターどもの慰み者として18禁展開に、性騎士にジョブチェンジするといいわあっ!」


 お、おのれえええええええっ! もっとやれ尾崎ぃぃぃいいいっ……じゃなかった!


「あの野郎っ! 許せねえ!」

「なに左手で股間押さえながら、右手で握り拳作ってるんですか?」


 いや、すいませんマジで、ごめん。


「くっ! おのれ卑怯者……一思いに殺せっ!」


 うわぁ、あいつリアルで「くっころ」言ってる。ちょっとこの展開楽しんでんじゃないの?


 ローリンはなんとか逃げようともがくのだが、誰かが金髪のポニーテールを掴むとウィッグがすぽっと取れる。


「ふ……ふぇぇぇぇええええんっ! 返してくださいわたしのウィッグぅぅぅううっ! もうそれしかないんですよぉぉぉぉ」


 な? なんだ? あれはいつものJKだぞ。いや、いつものジェイ・ケイなのは、さっきもそうだが、ん? なんか混乱してきたぞ……まさか!? あいつ、コスプレしている時は別人になるんじゃ?


 ローリンは涙目になりながらヅラを持っていったモンスターを追いかけている。


「く、くそぉ。こちらの最大戦力をあんな手で封じてくるなんて」


 最早打つ手なし。モンスターの群れは俺達の方に向かってきている。万事休すと思われたその時、俺の前に飛び出し魔物の群れに立ちはだかる一人の勇敢なる少女の姿があった。


「べんりさん……この私をお忘れですか? いずれ伝説の大賢者と呼ばれる賢い美少女賢者、このぽっぴんぷりんのことをお忘れですかっ!!」

「え? あ、あぁ、うん。忘れるもなにもずっと視界には入ってたけど」

「だったら見ていてくださいっ! 愛杖がこの手に戻った今、私の目の前に立ちはだかる者は皆燃え尽きる運命にあることを見せてさしあげますっ!」


 ぽっぴんは魔法の杖をくるくると回すと先っちょの玉の部分を尾崎に向けて言い放つ。


「我が最大にして最強の攻撃魔法、この爆裂魔法をその身を持って味わうがいいエクスプロっ」

「わああああああああああああ待て待て待て待てええええっ!」


 俺は慌ててぽっぴんの口を両手で塞ぐと魔法をやめさせる。


「な? なんですかいきなりっ!?」

「いや、それはさすがにダメだぽっぴん! いくらなんでもオリジナリティがなさすぎる。て言うかパクリじゃねえか!」

「なんですかパクリって? 魔法にパクるもなにもないでしょう? 火の魔法を使うのにファイアアアアア! って言ったらF〇のパクりなんですか?」

「いやなんでおまえがそれを知ってるんだ? まあいい、とにかく今は別のにしろ、さっき使ったバーニングなんたらってのにしとけ! なっ!」


 俺の必死の説得になにやらぶつぶつと文句をいいながらも、仕方ないといった感じでぽっぴんは仕切り直す。


「いいでしょう……邪悪なるものよ! 我が獄炎魔法の前に灰となるがいいっ!」

「いい加減にそのふざけた漫才も飽きたわ。この魔導書は亡者どもを操るだけが能力じゃないのよ。生者の魂を抜き取って術者の奴隷にすることもできるのよっ!」


 な……んだと? それじゃあ? あいつの言いなりになった俺はどうなるんだ?

 なんだか嫌な悪寒が背筋を走り俺は尾崎の方を見ると、熱視線を向けてウインクをしていた。


 うわあああああああっ! 絶対に掘られる! 殺せ! 今すぐ奴を灰にしろぽっぴんんんんんっ! ん? なんだ? なんか臭いな? これは? なんか卵が腐ったみたいな……なんか屁のような? これは……!!


「まずいっ! ぽっぴん、炎の魔法はダメだっ!」


 しかし遅かった。


 俺が叫ぶのと同時にぽっぴんが獄炎魔法バーニングヘルフレアを放つと、地下のガスに引火して大爆発を起こすのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る