第十三話 プッチンパポペ大賢者③
突然の来訪者の出現に戸惑う骸骨兵達にはお構いなしに、ぽっぴんは突進すると雄叫びを上げる。
「うおお雄雄雄雄雄っ! バーニングっ! ヘル・フレアああああああああああっ!」
真っ赤に燃える愛と悲しみと憎しみの右ストレートが杖を持っていた骸骨兵の顔面……いや、頭蓋骨にめり込むと、弾き出された砲弾の様にもう一人に当たりバラバラにする。
頭を失った骸骨兵は杖を投げ捨て驚いた様子で頭の辺りを手探りしているのだが、しばらくするとオロオロと転がって行った頭を探し始めるのであった。
「あぁぁ~、私の
ぽっぴんは杖を抱きしめると頬擦りしながら恍惚の表情を浮かべていた。
て言うか、さっきのはなんだ? 名称からして地獄の炎のような魔法がでるのかと思ったら、なんで物理で殴ってんだよ。
まあいいや。目的はこれで達成……ん? あれはなんだ?
「どうですかっ! 見事取り返して見せましたよっ!」
振り返り得意げに杖を構えて見せるぽっぴんであったが、俺とローリンはそれを無視して一目散に走りだしていた。
「え? なんですか? なんで逃げるんですかあっ!?」
「後ろ! 後ろ! し〇らうしろおおおおおおっ!」
ぽっぴんの背後には無数のアンデッド達が押し寄せてきていた。
「ふぇぇぇぇ、なんで置いて行くんですかぁ、この鬼畜外道ぉぉぉぉ」
「ぜえっ! ぜえっ! あんな大声で叫ぶからだばかもん」
「さすがにあれは私でも擁護できません」
なんとか捲くことができたようなので俺達はその間に息を整える。
「スポーツドリンクを持ってきていて正解だったな。あとグ〇コ、一粒で300メートルいけるし」
「なにを言っているのか全然わかりません」
そうか、ぽっぴんは知らなかったな。グ〇コのキャラメルは歴史を辿ればそれはそれは高級な栄養食だったことを。だがそれを説明している暇はない、今はとにかくあの屍人達の軍勢に見つからないように上へ戻らなければならないのだ。
そう思うのだがローリンが重いトーンで俺の名を呼ぶ。
「べんりくん……べんりくんっ!」
「どうしたローリン、なにをそんなに焦って……」
顔を上げた瞬間、俺は目の前の光景に青褪め声も出せずにいると、その横でローリンが悔しそうに呟く。
「迂闊でした……やつらは屍人、生者とは違い簡単に気配を消せることを忘れていました」
気が付けば俺達は亡者の群れに囲まれていた……。
「いいでしょうっ! ここはひとつ私の魔法で一網打尽にもがふぅっ!」
粋るぽっぴんの口を慌てて塞ぐと俺は小声で言って聞かせる。
「今は迂闊に動くな。相手も様子を窺っている、これは下手に先に動くと不利だぞ」
「何を言っているんですか? だからこその隙、今こそ私の殲滅魔法を」
「いいーから何もしないでくれませんかあああ? 元はと言えばあなたの所為でこんなことになってるんですからねええええ!?」
俺の苛立ちを押し殺した満面の笑みに、さすがのぽっぴんも空気を読み大人しくなる。
ローリンも腰に提げた剣の柄を握り、いつでも鞘から引き抜けるようにと身構える。
一瞬の静寂の後、お互いが動こうとしたその時。
「「「「お願いしますっ! 我々を救ってください聖騎士様あああああああっ!」」」」
亡者達はそう叫びながら全員その場でジャンピング土下座をするのであった。
「つまり、あなた方の雇用者である。そのなんでしたっけ? 根暗マンさん? でしたっけ?」
「いや違います。ネクロマンサーです旦那」
「ああそれそれ。ミクロマンが、あなた方に労働基準法を無視した時間外労働を強いるのをやめさせて欲しいと」
「あんた。わざと間違えてますよね? あとその労働なんとかってのはわかりませんが、まあそういう事です」
屍人達は正座したまま自分たちが今置かれている状況を俺達に説明している。一番先頭に立つのは、先ほどぽっぴんに頭を飛ばされた骸骨兵だ……たぶん。
「あいつらは、ひでぇ奴らなんです。俺達が逆らえないのをいいことに、無茶な労働時間を押し付けて、今日なんてプレミアムフライデーだから定時前に上がろうとか言いながら、俺達は結局サービス残業! だいたいあいつらは毎日がプレミアムなんですよおおおおっ!」
その言葉に、皆がおんおんおんと男泣き。なにその毎日がスペシャルみたいなの、竹内ま〇あですか? 古っ!
なんなんだこれは……なんで異世界の、しかもモンスター達の労働環境のことで俺がこんな、なんかモヤモヤした気持ちになるんだ。
「べんりくん……社会人って大変なんですね……」
「あぁそうだなローリン。いい大学を出たって、いい職場に巡り合えるとは限らないと言う事だけは覚えておきなさい」
しみじみと答える俺にローリンは真剣な顔をして頷いていた。なんだこれ?
だいぶ話が逸れてしまったところで、ぽっぴんが屍人達に質問する。
「なぜ逆らえないのですか? こんなにいっぱいいるんですから反旗を翻せばいいじゃないですか」
まあ、現代社会ならいざ知らず。奴隷達が反乱を起こすなんてことはよくあっただろうし、ぽっぴんの言うとおりだな。
しかしその言葉に屍人達は皆押し黙ってしまう。
「か、簡単に言いますがそいつは無理です」
「なんでだよ? 向こうの方が数が多いのか?」
「違います。数はこちらの方が多いのですが、社長の側近の傭兵三人がすこぶる強い奴らでして……」
な、なんだと? 傭兵だと?
その話に固唾を飲んで耳を傾ける俺達。
「そいつらは、魔界・三重死と呼ばれている凄腕の殺し屋なんですっ!」
「ダセえっ! なにそれ? ぷぷーwww 三重死って、え? なにその三重苦みたいの?」
俺の言葉にローリンとぽっぴんもクスクスと笑っている。
「わ、笑い事じゃないですよぉ。それに社長の持っている
「む!? 魔術書ですか?」
ぽっぴんが反応を示す。まさか、その魔術書がぽっぴんの探している……。
「その魔術書は我々のような亡者を操ることのできる【死者の書】……又は【生者の書】と呼ばれている魔本でして、それの所為で我々は逆らうことができないんです」
惜しい! 【せいじゃ】違い。それを聞いてがっくりと肩を落とすぽっぴん。
「な、なるほどな。そこで聖騎士であるローリンの力を借りたいと……」
―― お前達っ! こんな所でなにを油を売っているのっ! お仕置きしちゃうわよっ! ――
突如ダンジョン内に木霊するオネェっぽい口調の声に慄く屍人達とは対照的に、俺はまーた変な奴らが現れたとゲンナリするのであった。
つづくよっ!
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